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第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第477話 旭 樹 2 ヒルダ・エスカレードとしての人生

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 ひびきと将棋を指している最中に、突然意識を失った俺が次に目が覚めた時、全然見覚えのない部屋にいた。

 何処どこだここ?
 やけにきらびやかな装飾品であふれている。

 体を起こそうとして、自分が寝ている場所が天蓋てんがい付きのベッドだと気付き仰天ぎょうてんする。

 なんだこの御姫様仕様のベッドは……。
 30歳の男が寝るには、恥ずかし過ぎるだろ!

 とにかく状況を把握しようと、ベッドから出るため足を床に付けた。
 そして視界に入ったその足のサイズに違和感を覚える。

 それはまるで子供のような、とても小さな足だった……。
 でも床に着いた感触が、はっきりと俺自身にある。
 
 これは……?

 急いで部屋を見渡して鏡を見付けると、自分の姿を確認する。
 そこに見知らぬ少女の姿を見て唖然あぜんとなった。

 鏡と対峙して数十秒、ぎこちなく右腕を上げるとやはり鏡に映る少女も同じ動きをする。

 あぁ、これはもしや入れ替わりか?
 自分が……この少女に?
 笑えない。

 俺には妻も子供もいる。
 家長として家を守る責任があるんだ。
 こんな状況から、早く脱しないと大変な事になる。

 そう考え素早く思考を巡らせた。
 定番は、階段から落ちるとかだろうか?

 この時、俺は自分が思っている以上に混乱していたらしい。
 冷静に対処していた心算つもりだったが、後から考えると相当馬鹿な真似をしたと思う。

 そのまま部屋を出て階段を探し、見付けた瞬間に落ちようとしたんだからな。
 しかし足を踏み外し空に浮いた俺の体は、突然現れた誰かに抱き留められ階段から落ちる事はなかった。

「姫様。何をそんなにお急ぎで? あわてて走ると危ないですぞ?」

 とても力強い声を持った男が、俺をゆっくりと床に下ろす。
 さっきまで、誰もいなかったはずなのにどうして?

 姿も気配も感じる事なく現れるなんて、まるで忍者のようだ。
 とその時の俺は、ぼんやりとそんな事を思っていた。

 そして男から問いかけられた内容を反芻はんすうする。
 姫様って……言われたよな?

 男の顔を見た瞬間、120年分の記憶が怒涛どとうのように流れ込んで眩暈めまいが起きた。
 そして、自分がナージャ王国の王族であるハイエルフだと思い出す。

 目の前にいるのは、俺の専属護衛である影衆かげしゅう当主のガーグ老だ。
 忍者ではなく、【迷彩】を使用して常に王族の周囲にいる者だった。

 日本人として生きた記憶が、何故なぜ唐突によみがえったのか……。
 俺は曾婆ひいばあちゃんから、12歳の時に言われた宣託せんたくを今更ながら思い出す。
 
 確か俺には役目があると言っていたな。
 ハイエルフは長命な種族だ。
 現在120歳の俺は、人間に換算すれば12歳ぐらいだろう。

 この宣託を受けた年齢が記憶が戻る鍵となったのか?
 それなら、お役目とやらをさっさと終わらせれば元の世界に戻れるんだろう。

 曾婆ひいばあちゃんは、その役目を具体的に教えてくれなかったが……。

 確か、苦痛を伴うとかなんとか……。
 俺はこの世界で運命の人と出会うらしい。
 もう既に結婚している身で、運命とか有り得ないだろう?

 日本に戻れば家族がいるんだから、相手と生涯を共にする必要も感じない。
 そこまで考えて、俺は愕然がくぜんとした。

 ヒルダ・エスカレードは女性だ。
 必然的に運命の相手は男になるんじゃないのか?

 いや待てよ、確かこの世界では同性婚も出来る。
 世界樹の葉で作られた秘薬を使えば、子供も生まれるんだった。

 曾婆ひいばあちゃんから、俺の子供を産んでくれる女性を大切にしろとも言われた気がする。
 これは世界樹の出番か?

 押し黙ったまま返事をしないので、ガーグ老がいぶかし気に見てきた。

「あぁ、ごめんなさい。ちょっと世界樹の精霊王の所に行こうと思って、気がはやったみたい」

 俺は120年、王女として生きてきた記憶の通り言葉遣いを変えた。

「さようで……。ですが、精霊王の前にその姿で行くのはどうかと思いますぞ?」

 言われて自分の服装を確認すると、寝起きのままの姿であると気付く。

 確かに、この恰好で行くには失礼過ぎる。
 部屋に戻って服装を改める必要がありそうだ。

 先程までいた部屋に戻り、女官達を呼んで服を着替えさせてもらった。

 これ、何とかならないか?
 着替えの度に、3人の女官が必要だなんて効率が悪すぎる。
 1人じゃ着れない服は面倒で仕方ない。
 しかも記憶を思い出した今、スカートを穿くのに抵抗が……。

「女官長、ズボンを作ってくれないかしら?」

「ズボンでございますか? それは何故なにゆえの事でしょう?」

「ガーグ老から、剣術を習う心算つもりなの。スカートじゃ動きにくいと思うのよ」

「剣術……。それでは、ご用意致します」

 我ながら良い案だと思う。

 ステータスが見える世界で、剣術Lvを上げるのは面白そうだ。
 魔法は既に学院で取得済みだからな。

 俺は尚人なおとが遊んでいたRPGの〇ラクエを、クリアした事がある。
 息子が寝た後に、こっそりやってみたら面白くてはまったのだ。

 お役目には関係ないかも知れないが、運命の相手に出会うまで少しくらい楽しんでもいいだろう。

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