自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名

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第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第434話 迷宮都市 地下14階 現状回復

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 ケリーさんから3人の治療代・金貨36枚(3千6百万円)を受け取り、地下14階の安全地帯まで再びフォレストの背に乗って駆け抜ける。
 
 地下14階の安全地帯に到着すると、アマンダさんとダンクさんが真剣な表情で話し合っていた。
 シルバーが私に気付き、「ウォン」と一声すると尻尾をふりふりしながら駆け寄ってくる。

 私は「アマンダさんを送ってくれてありがとう! いい子だね~」と言って、沢山たくさん褒めてあげた。
 シルバーは嬉しそうに、私の周囲をクルクルと回っている。
 お願いした事をちゃんと守り、役に立てた事を喜んでいるみたい。

「アマンダさん、ダンクさん、状況はどうですか?」

「サラちゃん、早かったね。こっちは地下12階まで、全ての階層で呪具が発見されたよ。解呪した物は回収してある。地下15階から地下18階までの呪具は、今うちのメンバーに探させているから報告待ちの状態だ」

 地下18階を攻略していたアマンダさんのクランは、本来地下15階~地下17階の配送を請け負うメンバーがいたはずだ。

 リーダーのアマンダさんのパーティーから治癒術師が抜けたので、安全を取って攻略階層を下げていたにすぎない。
 そのため、地下15階~地下17階を拠点としていたメンバーはそのまま残っていたのだろう。 

「地下19階は親父のパーティーしか攻略していないから、呪具の件を書いた手紙と解呪用のポーションを配送してもらっている」

 ダンクさんの父親であるクランリーダーのジョンさんパーティーは、現在地下19階を唯一攻略していた。
 他のパーティーがいないので、もし呪具が置かれて魔物が増えていたら危険かも知れない。

 ダンクさんも心配そうな顔をしている。
 20年間の石化状態から回復して、半年前に親子の再会を果たしたばかりだからね。

「発見した呪具は、1階層にどれくらい設置されてあったのですか?」

 設置された呪具の数が気になり、アマンダさんに尋ねてみる。

「地下13階・14階と同じで各階層に1か所だった。これだけでも呪具の数は42個必要だ。犯人は相当な資金力があると考えた方がいいね。解呪用のポーションが間に合って、本当に助かったよ。いくつかは効力を失っていたけど、まだ作動中の物も中にはあったんだ」 
 
「各階層に1か所……。今回の件で、冒険者から犠牲が出ていないといいんですけど……」

「私が地下14階まで確認した時には、死亡者はゼロだった。地下15階以降は、まだ分からないけどね……」

 地下13階と地下14階に関しては、増えていた魔物を私の方で対処したから問題なかったと思う。
 地下15階以降については、拠点にしている冒険者達に頑張ってもらうしかないか……。
 
「アマンダさん、お疲れさまでした。私達も一度、テントで休憩しますね」

「あぁ、サラちゃん達も疲れているだろう。少し休んでおいで」

「はい、じゃあ失礼します」

 今日はダンジョンを2往復しているし、兄達も普段より魔力を使用したから攻略は中止しよう。
 何かあった場合に備えて、テント内で過ごした方がいいかも知れないな。

 テントに入り、ホームの自宅でトイレ休憩だけして直ぐに戻ってきた。
 テーブルと椅子を出し、コーヒーを飲みながら一息吐く。

「沙良、オリビアさんが他国の諜報員ちょうほういんの事を言っていただろう?」

「うん、アシュカナ帝国の人間らしいね」

「この大陸とは違う、南大陸にある国らしいが……。もし戦争になるとすれば、俺達は関わらない方がいい」

 兄の言葉にドキリとする。
 それは、仲良くなった冒険者達や支援している子供達を見捨てろという意味だった。

 カルドサリ王国は私達が生まれた日本じゃない。
 それは分かっている。

 ホームとマッピングで移転出来る私達は、戦火から逃れる事はいつでも可能だ。
 もし私の能力がなければ、戦争の気配を感じた瞬間に兄はこの中央大陸から直ぐにでも出ていこうとするだろう。

 軍人でもない私達が、一緒に戦う選択肢はない。
 それに殺人を犯す事は、どうしても出来そうになかった。

 侵略を止めるための一番効果的な方法は、中央大陸を攻めても旨味がないと相手に思わせる事じゃないかな?

 アシュカナ帝国だって、兵士や軍事費が無尽蔵むじんぞうにある訳じゃない。
 採算が合わないと思えば手を引く可能性だって充分ある。

 多分、今回使用した呪具も相当な金額だったろう。
 早期に発見し、タイミングよく『毒消しポーション』を販売していたお陰でスタンピードを起こす事なく収拾出来た。

 しかも犯人割り出しに至っては、何故なぜかアシュカナ帝国の諜報員が路上で亡くなっていた所為せいで時間も掛からず判明している。

 思惑おもわくが全部筒抜けになっているとは、相手国も思わないだろうなぁ~。
 こういった裏工作的な事って、バレないようにもっと上手く慎重にするものじゃないのかしら?

 アシュカナ帝国の王が、今回の事でたくらみが明るみになった事を知り、少しでも考え直してくれるといいんだけど……。
 
 実際、得られた情報は損失の割に少ないんじゃないかと思う。

「沙良、分かっているのか?」

 返事もせず、黙ったまま思考していたら兄が痺れを切らして確認してきた。

「うん、大丈夫。オリビアさんの話では、数年の猶予ゆうよはありそうでしょ? 回避出来る方法がないか、私なりに色々考えていただけだよ」
    
「異世界って、やっぱり怖い所だね~。呪具の件も、冒険者の誰かが設置したかと思うとゾッとする。その人達は、ずっと潜伏していたんだよ? 俺、ちょっと人間不信になりそう……」

 旭は経験した事のない恐怖を感じたのか身震いしている。

 私はどうにかしたい気持ちで一杯だったので怖いと感じる事はなく、被害が出ない事をずっと願っていた。

 今回みたいに国同士の争いに巻き込まれた場合、自分の立ち位置を明確にしておかないと判断が鈍る事になるだろう。

 戦争の足音が聞こえてくるまで、私に出来る事を全てやっておこう。
 優先順位を決め、計画的に水面下で動くのだ。

 それには移動距離が必要になる。
 可能な限りのLv上げと、飛行可能な従魔が欲しい。

 マッピングの距離がLv1毎に1Km増えるだけじゃなぁ~。
 せめて10Kmくらい一気に増えてくれないかしら?

 1時間程休憩後、テントから出て夕食の準備を始める。
 どんな時でも、ご飯は食べないとね!

 私が食事を作り出すと、2パーティーの料理担当者もあわてて用意し始める。
 うんうん、皆お腹を空かせて待ってるよ~。

 こんな日は、『バーベキュー』にしよう。
 自分で好きな物を焼いて食べるだけで、気分もまぎれるだろう。

 玉ねぎ・人参・じゃが芋とハイオーク・ミノタウロス・コカトリスキングの肉を、適当な大きさに切って皿に盛る。

 具沢山の『シチュー』を温めて、『チーズナン』を焼いたら各自好きに焼いてもらう。

 兄は玉ねぎ、旭はミノタウロスの肉を焼いていた。
 私は、じゃが芋とコカトリスキングの肉にしよう。

 アマンダさんのパーティーは、『チーズフォンデュ』・『キッシュ』・スープ。
 ダンクさんのパーティーは、『カツサンド』・『フライドポテト』・スープのようだ。

 程よく焼けたじゃが芋を食べていると、アマンダさんから報告がある。

「今、地下15階~地下18階の連絡が届いたよ。地下15階以降には呪具は設置されていなかったらしい。確実とはいえないけど、多分地下19階にも呪具はないだろうね」

 アマンダさんの言葉を受けて、ダンクさんの表情が和らいだ。
 ずっと両親の事を心配していたんだろう。

「地下15階以下に設置されてなくて良かったですね。呪具の数が足らなかったんでしょうか?」

「それは何とも言えないな、犯人の冒険者Lvが低い可能性もある。危険な仕事だから、自分達が安全に逃げられる階層までしか設置出来なかったのかも知れないしね」

「設置して直ぐに魔物が中に入ってしまったら、本人達も危険になるからですか……。また同じ事をされないように、早く犯人が捕まるといいけど……」

 ダンジョン内に犯人がいて呪具がまだあるのなら、再び設置される可能性がある。

「それなんだけど、地下1階を拠点にしていた3パーティーが姿を消したそうだよ。自分から犯人だと言っているようなもんさ。名前も顔も割れているから、早晩捕まるだろう」

「えっ!? 逃げちゃったんですか? 意外と頭が悪いのかなぁ~。こういう時は疑われないように、普段と同じ行動を取った方がいいのに」

「考えが浅い連中だったんだろうね。それにしては、大それた事をしでかしてくれたもんだよ」

「でも犯人がいなくなったのなら、今回の騒動はひとまず落ち着いたとみていいですよね?」

「あぁ、もう大丈夫だろう」

 アマンダさんのその一言で、緊張をしていたその場がほぐれた。  

 今日は皆、疲れていると思う。
 そんな時は甘い物に限るよね!

 私が食後に『善哉ぜんざい』を振る舞うと、リリーさんに作り方を教えて欲しいと泣いて懇願こんがんされてしまった。
 
 この世界には、本当に甘味が少ないのを実感する。
 だから、肩をつかんでガクガクするのは止めて下さい~。
 
 材料は小豆と蜂蜜ですよ。
 小豆は薬師ギルドで売っていますから!

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