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第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第426話 迷宮都市 武術稽古と『焼きそば』&『将棋』の対局

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 日曜日。

 子供達がシルバーとフォレストと遊ぶために、今日も予定の30分程早くそろっている。
 兄と旭は、2匹の背中に子供達を5人乗せてゆっくりと走らせているようだ。

 うちの従魔が子供達に大人気すぎる!
 大型の魔物を近くで見る事がないので、珍しさもあるのかな?

 あぁ動物園がないんだった。
 私も、異世界で魔物以外の動物を見た覚えがない。

 基本的に魔物は自分達を襲ってくる生き物だから、テイムされた状態で触れる事が出来ないんだろう。

 9時になり、子供達に具沢山スープとパンを2個配り始める。
 その際、「今日は甘いおやつがあるから楽しみにしてね!」と言うと子供達から歓声が上がった。

 普段甘味と言えばドライフルーツと週に一度、兄が渡すみかんくらいしか口にする機会がないので嬉しいみたいだ。

 子供達が食べ終わるのを待ち、アイテムBOXから業務用寸胴鍋を出す。
 スープを食べ終えた器を回収し、湯を張ったおけで軽く洗い『善哉ぜんざい』を注いでいく。

 甘い匂いだけで、子供達が期待に満ちた表情になった。
 順番に渡してあげると、年長者達が小さな子供達に火傷しないよう注意しながら食べさせてあげている。

 皆、小さなお父さんとお母さんだね。

「お姉ちゃん、これ甘くて美味しい~」

「僕、いい子にしてて良かった~」

 『善哉』をスプーンに口一杯頬張ほおばる子供達は、見ているだけで可愛い。

「お姉ちゃん、『善哉』また作ってね!」

「ええ、皆がちゃんと【約束事】を守っていたら、ご褒美に作ってあげるよ」

「分かった~! 僕頑張るよ~!」

 そう言って小さな子供達は兄や姉が冒険者活動で不在にしている間、家を綺麗に掃除するねとファイトポーズをしていた。

 兄が大きなみかんを配り子供達を見送る。

 今日は2匹を連れて、ガーグ老の家具工房へ2回目の武術稽古にいく。
 教会から職人街を歩いている間、上空に白ふくろうが旋回しているのが見えた。

 あれは『ポチ』か『タマ』のどちらかだろう。
 私達がこれから向かう事を、ガーグ老に知らせてあげるのかしら?

 家具工房に到着し門を開くと、全員総出で迎えてくれた。
 稽古で会う時は、顔に怪我をしていないみたいね。

「こんにちは。今日も、よろしくお願いします」

「本日も、お世話になります」

「あのぉ、今日はお手柔らかにして下さい」

 私に続いて兄と旭が挨拶をする。

「サラ……ちゃん、こんにちは。おおっ、2匹の従魔もよろしくな」

 私の左右にシルバーとフォレストが陣取っているのを見て、ガーグ老は少しだけ目を細めた。

「シルバー、フォレスト、皆さんに挨拶してね」

 私がそうお願すると2匹が元気よく吠えた。 
 
「ウォン!」

「ガルルッ!」

「うむ、よく調教されておるようだな。高位の従魔だから、1人の時は連れて歩くがよい。その身を守ってくれるだろうて。儂の従魔も紹介せんとな、『ポチ』、『タマ』!」

 ガーグ老が名を呼ぶと、2匹の白梟が高速で空から滑空かっくうしてくる。
 絶対、梟の速さじゃないと思います……。

 Lvは幾つなんだろう?

 『ポチ』と『タマ』がガーグ老の両肩に止まり、シルバーとフォレストに向かって大きく頭を下げた。
 これは挨拶をしているのだろう。

 2匹もそれに応えて、顔を上下しうなずいている。
 従魔同士、主人が違っていても意思の疎通そつうは出来るのか……。

「さて、稽古を始めるとするかの」

 ガーグ老の一声で、部下9人が一斉に動き出す。
 私は今日も、ガーグ老から指導してもらえるみたいだ。
 
「サラ……ちゃん、今日は槍での防御術を教えよう」

 1回目とは違い、今回は攻撃ではなく防御する術を教えてくれるらしい。

 ガーグ老が見本で見せる動きを、真似しながら槍を動かしていく。
 盾術とはまた違う動作だけど、これは相手が武器を持っている事を想定しているので得物によっても変わりそうだ。

 結構難しい。
 1時間程したら、ガーグ老が敵役になっての相対稽古に変わる。

 初心者の私相手に、ゆっくりと槍で攻撃してくれたのでなんとか防御態勢を作る事が出来た。
 2時間後、本日の稽古は終了。

 旭の方を見ると、なんと今日は3人のご老人を相手に剣戟けんげきを交わしていた。
 かなり本格的な稽古になっていそうだけど、大丈夫かしら?

 兄の方は、ご老人1人と一緒に攻撃の型をさらっている。
 初回よりは見れるようになってきたかなぁ。

 ガーグ老から合図が出た事で、兄と旭の稽古も終了となった。
 旭は相当疲れたのか、地面に倒れ込んでしまっている。
 まぁ、3人が相手じゃ運動量は相当なものだったはずだ。

 この後に予定している将棋での対局は2人に任せ、私は昼食を作る事にする。
 ガーグ老達の実力の程は不明だけど、1人で5人相手にするならそれなりの時間が掛かるだろう。

 今日のメニューは何にしよう。
 『バーベキュー』・『ピザ』・『ビーフシチュー』を出したので、次は麺類?

 『肉うどん』も『ミートパスタ』もお店で食べているみたいだし、ここは『焼きそば』にしても問題ないかしら?
 後は『唐揚げ』を大量に揚げれば、お肉大好きな兄達も満足すると思う。
  
 キャベツと人参を沢山切って、ハイオーク肉は薄切りにする。
 コカトリスキングの肉を一口大に切った後、醤油・すりおろしたニンニク・味醂みりんで下味を付けよくみ込んでおいた。

 20分程寝かせた肉の水分をき取り、片栗粉をまぶして最初は低温の油で揚げていく。
 13人分だからかなりの量がある。
 1度油から取り出して、次は『焼きそば』だ。
  
 『バーベキュー台』に鉄板を置いて料理開始。
 熱した鉄板の上にラードをひいて、全ての具材を塩・胡椒して炒める。
 焼きそばの麺を20玉使用して作るのは初めてだ。

 流石さすがに一度では出来そうにないので、2回に分けて作る事にした。
 最初の分を作っている間、フライパンでは目玉焼きを焼く。

 『焼きそば』には目玉焼きが必要でしょ!
 半熟状態の黄身が麺に絡むと美味しいのよね~。

 6人分を皿に盛ると、すかさず部下の1人が取りに来てくれる。
 冷めてしまう前に食べて下さいねと声を掛けたけど、首を横に振られてしまった。

 新しい鉄板を出し急いで2回目の『焼きそば』を作り、1度揚げた『唐揚げ』を高温の油で再び揚げる。
 出来れば熱い状態のまま食べてほしいんだけどなぁ~。

 大量の『唐揚げ』も作り終え用意された席に座る。
 
「お待たせしました。皆さん、今日もありがとうございます。お昼のメニューは、『焼きそば』と『唐揚げ』です。それではいただきましょう」

「いただきます!」

 ガーグ老達の力強い挨拶と共に、大皿に盛った『唐揚げ』の争奪戦が始まった。
 今回は、旭も遅れてはならじと最初に取り皿に取ったようだ。

 あぁ、レモンを掛けたいなぁ。

「こりゃまた、食欲をそそる匂いだわ。サラ……ちゃん、この料理はフォークで食べんのかの?」

 『焼きそば』を前に、ガーグ老が首をかしげる。
 『ミートパスタ』はフォークで食べる物だったので、不思議に感じたのかも知れない。

「はい『焼きそば』は、お箸で食べて下さいね」

「そうか、どれ……。おおっ、また変わった味がするわ。でも、旨い! 『唐揚げ』は酒とよく合いそうだが、まだ対局中だから我慢するしかあるまいな」

 お酒を飲んでいないのは、この後も将棋をする心算つもりだからか……。
 酔ってしまい、頭が回らなくなった状態で負けるのが嫌なのかしら?

「お兄ちゃん、ガーグ老達の腕はどうだった?」

 好奇心から、ご老人達の腕前をこっそり聞いてみると兄と旭が何故なぜか奇妙な顔付きになる。

「いや、どことなく知り合いの指し方に似ている気がするんだが……」

「賢也の方も? 俺も、何だか棋譜きふの状態に見覚えがあるんだよね~」
 
 2人の感想を聞いて、私は首をひねってしまった。
 将棋はした事がないから、今一言っている意味が分からない。

 指し方に個人で特徴があるという事かしら?
 それが知り合いと似ていると思っていいの?

 でも将棋や囲碁って研究されつくしているから、有名人を真似ている事もあるんじゃないかなぁ。

「まぁ、そこそこ強い感じだ」

 兄が強いと言うのなら、ガーグ老達はかなりの腕を持っているんだろう。
 今回は製麺店の従業員を相手にした時とは違い、1対1で対局にのぞんでいたからね。

「お二人は強いのぉ、今のところ誰も勝てずにおるわ」

 ガーグ老の言葉に、少し悔しさがにじむ。
 どうやら負けず嫌いらしい。

 これは長引きそうだ。
 全員一局では終わらないかも知れない……。

 えぇっと、私は午後からサヨさんと衣装を作りたいので兄達を置いていきますね!

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