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第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第403話 迷宮都市 サヨさんと本屋へ&夕食のすき焼き

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 スーパー銭湯から出ると夕食までにまだ少し時間があったので、サヨさんにどこか行きたい所がないか尋ねる。

 本屋に行きたいと言われたので、百貨店の中にある大型店へ行く事にした。
 好きな作家の書いた小説の続きが気になっていたらしい。

 私も異世界転移して同じ事を思った。
 読んでいた小説の続きが読めなくなるのは悲しいよね。

「あぁこれよ。良かった、あれから続巻が出ていたのね。それに日本語を読むなんて、本当に久し振りだこと」

 棚から1冊の本を取り出し、大事そうにゆっくりとページを開いている。

「どうせなら最初から読んでみてはどうですか? その方が続きを楽しめますよ」

「まぁ、いいの? じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうわ」

 そう言ってサヨさんが10冊の本を棚から次々と抜き出す。
 結構長編だったようだ……。

 私も半分を持ち、会計を済ませて本屋から出る。

 自宅に戻り、2人で夕食の準備をしていると兄と旭が帰ってきた。
 今日も仲良くジムに行ったのかな?

「2人とも、おかえりなさい」

「沙良ちゃん、ただいま~。サヨさん、こんばんは」

「あぁ、ただいま。サヨさん、こんばんは。スーパー銭湯はどうでしたか?」
 
「おかえりなさい。あそこは良い所ね~。また是非ぜひ行きたいわ」

「沙良に言って、連れていってもらうといいですよ」

「ええ、今度は娘と3人で行く予定なの」

「それは、母もきっと喜ぶでしょう」

 そんな会話をしている時に、旭が目敏めざとく夕飯の材料を見て目を輝かせる。
 
「今日の夕食はすき焼きだね~」
 
 テーブルに準備された鍋と、切られた野菜から推測したのだろう。
 うん、正解!
 
 まぁ、ネギと春菊しゅんぎくを見れば予想はつくか……。

「2人とも手を洗ってきて、席に着いてね」

「は~い」

 旭が元気よく返事をして、洗面所に向かっていく姿を兄は苦笑しながら付いていった。

 材料を切るだけの鍋は準備が簡単に済むので楽でいい。
 他には、サヨさんがいんげんの胡麻和ごまあえと南瓜かぼちゃの煮物を作ってくれた。 
 
 食べ盛りが2人いるので、肉の量は多目に準備してある。
 ミノタウロスの肉なので、無料なのが嬉しい。

 迷宮都市のダンジョンでは、ハイオーク・コカトリス・ミノタウロスが出現するので肉類の心配はしなくて済む。

 果物も地下11階から生っているし、当たりのダンジョンだ。
 地下15階の果物が今から楽しみで仕方ない。

 次はなんだろう?

 りんご・梨・みかん・桃・ピオーネ・シャインマスカット・キウイフルーツ・マンゴーときて、苺辺りだろうか?

 2人が席に着いたので、すき焼きを作り始めよう。
 脂身を熱した鍋に入れ、白ネギを香りが立つまで炒めたらすき焼きのタレを入れる。
 煮立ったら、お肉を投入。

 旭が取り皿に入っている生卵を溶きながら、鍋の中を食い入るように見つめている様子に笑ってしまう。
 空腹で、待てが出来ない犬のようだわ。

 お肉に火が入った物をサヨさんから順番に取り皿の中に入れていくと、旭が「いただきます!」と言って真っ先に箸をつけた。

 兄達の分のお肉は、1枚を大きめに切ってあるのでボリュームがある。
 私とサヨさんの分は、普通サイズのお肉だ。

 溶き卵にくぐらせて食べると、少し味の濃いすき焼きのタレがまろやかになるので食べやすい。
 味の染みた白ネギも美味しいなぁ~。

 今度は厚揚げ、蒲鉾かまぼこ、椎茸、結び蒟蒻こんにゃく生麩なまふ春菊しゅんぎくを入れる。
 
 昔は糸蒟蒻こんにゃくを自分で結んでいたけど、最近では結んだ状態のが売られているので便利だ。
 あれは、どうやって機械化しているんだろう?
 
 お肉を追加で入れると、今度は兄が鍋奉行ぶぎょうを代わってくれた。
 私は、食べる事に専念しよう。

 子供の頃は苦手だった春菊も、大人になると平気になった。
 味覚が変わったからだろう。

 逆に食べられなくなった物もあるけどね~。
 子供の頃好きで食べていた幾つかの駄菓子は、甘すぎて口に合わなくなってしまった。

 お肉も野菜もお腹一杯になる程食べたら、最後はうどんを入れて締めだ。

 サヨさんも、今日は昼食にお寿司・夕食にすき焼と日本食を堪能たんのうする事が出来ただろう。
 デザートには、さっぱりとした梨を出した。

 そろそろ旦那さんが帰りを心配している頃かも知れない。

「今日も楽しかったわ。本もありがとう、読むのが楽しみよ」

「私も楽しかったです。また遊びに来て下さい」

 私はシャンプー・リンス・ボディーソープを陶器の壺に入れ替え、年齢化粧品は旦那さんが居ない時に使って下さいとサヨさんにそのまま渡した。

 化粧品を入れ替える異世界の容器が無かったので、注意して使ってもらう事にしたのだ。

 サヨさんを店まで送り届け、自宅に帰ってくると兄達が晩酌ばんしゃくを始めていた。
 熱燗あつかんにスルメを食べている。

 私も席に座り、緑茶を入れてスルメを横から少し頂く。

 あ~、このスルメの味が好きなのよね~。
 めばむほど、口の中に味が広がる。

「沙良、サヨさんから祖父の事を何か聞かれなかったか?」

「ううん、一度も聞かれた事ないよ。あれから78年経っているんだし、もう亡くなっている事は分かっているんじゃないかな?」

「実際に亡くなったのは、サヨさんが異世界で転生した4年後だ。お墓参りくらい、したいんじゃないだろうか?」

「まだ、Lvが足りなくてお墓がある場所に行けないのが残念だけど……。お母さんを召喚したら、お爺さんの事を話してもらおう? 私達じゃ、知らない事もあるだろうし」

「そうか、そうだな……。もしかしたら、考えないようにしているかも知れないか」

「うん、そうだね」

 異世界に転生して、日本の家族と突然別れる事になったサヨさんは、当然旦那さんの事も心配だったはずなのだ。
 
 当時60歳だったので、まだ20年は一緒に過ごし末娘の結婚式に出るのが夢だったかも知れない。
 先に孫の私達に会ってしまったけど……。

 私も早く両親に会いたいなぁ~。

 お父さんとお母さんは、私が別人の姿になっている事を悲しむだろうか?
 自分の遺伝子が入っていない子供だ。

 かなり複雑な心境になるかもしれないと思う。
 それでも意識は私のままだから、その内慣れてくれるだろう……多分。

 両親を召喚した後のアレコレを考えて、その前に2人をなんとしてでも結婚させておく必要がある事を思い出す。

 母親達に結婚式の事を聞いておかないと!
 
 明日は、子供達と芋掘りをする。
 初めて体験する収穫作業、大きなさつま芋が沢山採れるといいな。

 きっと楽しい思い出になるだろう。
 じゃが芋とは違う、甘いさつま芋の味に驚く姿が目に浮かんだ。

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