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第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第402話 迷宮都市 華蘭にてデザインの提案&サヨさんとスーパー銭湯

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 職人街から『華蘭からん』までは結構距離がある。
 トレント加工の注文だけして帰る心算つもりでいたので、お礼の料理を作っていたら少し時間が押してしまった。

 サヨさんとはお昼を一緒に食べる予定なので、このままだと間に合わなくなるな……。

 あまり街中で移転したくないけど、マッピングで人がいない事を確認し『華蘭からん』に程近い場所に移動した。

 店内に入ると、いつもの店員さんが応接室に通してくれる。
 私は、このお店では完全にVIP待遇らしい。

 そして紅茶とフルーツの盛り合わせをテーブルの上に置いて出ていく。
 出された紅茶に口を付け、綺麗にカットされた果物を食べていると老紳士がノックをして入ってきた。

「こんにちは、いつもお世話になってます。今日もサヨさんを迎えにきたんですが、その前に相談があるんです」

「いつも大変お世話になっております。本日も妻の事を宜しくお願い致します。ご相談があるとは、どのようなご用件ですか?」

「マントの仕様についてなんですが、まずこちらを見てもらえますか?」

 私はマントの端に毛皮を付け、首元にフードがあるものが描かれた羊皮紙を渡す。

「見て頂くと分かると思いますが……。マントの端に毛皮を付け、首元へ頭に被せるフード・・・を作ってほしいのです」   
 
「これはまた……、斬新ざんしんな発想でございますね」

フード・・・は寒い時に被れば防寒対策になるし、マントの端に付けた毛皮で顔回りも暖かくなると思います。まぁ、端に付けるのは半分お洒落しゃれでもありますけど……」

「はい、女性が好みそうなデザインだと思います」

 そう言って老紳士は、羊皮紙の仕様をじっくりと見ていた。

「マントは3人分。私と兄と旭で、毛皮はフォレストラビットを持参したのでお願い出来ますか?」

勿論もちろんでございます。それで……、このマントの仕様なんですが当店で買い取りさせて頂く事は可能でしょうか?」

 流石さすが商人。
 提案が早い!

「いえ、お金は要りません。好きに使用して下さい。サヨさんには、お世話になってばかりですし気にしないでいいですよ」

 フード・・・は日本で見慣れたデザインだから、こんなものでお金を取る訳にはいかない。
 私が考えた物でもないしね~。

 単に私が可愛いマントが着たいだけだ。
 シルバーウルフのマントだと、普段使いするにはお値段が高過ぎる。

 もっと気軽にお洒落しゃれを楽しみたい。

「いつも、ありがとうございます。では、今回ご注文のマントは当店からの贈り物という事にさせて頂きたく存じます」

「はい、分かりました」

 これで仕立て代が無料になったよ。
 やったね!

 私は新しく購入した3人分のマントと、フォレストラビットの毛皮を老紳士に手渡した。

 これは兄達のクリスマスプレゼントでもある。
 御揃おそろいのマントにしたから、ペアルックになって嬉しいだろう。

 勿論もちろん、私が編んだセーターも一緒に渡す心算つもりだけど……。
 まぁ初めて編むのだから、出来えについては察してほしい所。

 とても『製麺店』の従業員に渡した物と完成度は同じに出来ない。
 老婦人達は、編み物歴数十年の大ベテランだから比べる事すら無理。

 サヨさんに教えてもらいながら編んでるんだけど、やはりセーターは初心者には難しかった。

 老紳士が席を立ちサヨさんを迎えにいくまでの間、私は大人しくカットされたフルーツを食べて待っていた。
 息子の店に卸した果物を、私が食べているのは変な感じだけど……。

 しばらくして老紳士がサヨさんを連れて戻ってきた。

「じゃあ貴方。今日も帰りが遅くなると思うから、昼食と夕食は好きに食べて下さいね」

 サヨさんの言葉を聞いた老紳士の顔が、わずかに引きった気がする……。
 それでも、店の外まで見送りしてくれたけど。

 振り返ったら、哀愁あいしゅうただよう背中が見えたかも知れない。
 
 サヨさんとホームに戻り、昼食に何が食べたいか聞くとお寿司だった。
 以前、兄が連れていってくれた強面の大将がいたお店に行こう。

 実は回転していないお寿司の店は、そこしか知らないんだけどね~。

 サヨさんは、久し振りに食べるお寿司の味に感激していた。
 異世界で、お寿司は食べる事が出来ないだろう。
 生魚を食べる習慣もなさそうだ。 
 
 その後、本日のメインであるスーパー銭湯へ!
 ここのお湯は温泉なので楽しめると思います。

 まずは大浴場で体を洗う。
 付属品のシャンプーとリンス、ボディーソープにサヨさんが大喜びしていた。
 
 今まで質の悪い石鹸しかなかったのだから当然の反応だろう。
 是非ぜひ持って帰りたいというので、後でアイテムBOXに入っている物を渡しますからと言い、気持ちを落ち着かせるのに大変だった。

 スーパー銭湯の付属品は使う分には問題ないと思うけど、本体ごと持ち出したら扉が開かないんじゃないかな?

 飲食店でも会計を済ませないと出られない仕様だった。
 兄が財布を忘れたら怖いと言っていたな。

 食べた後だと、どうにも出来ないし持っている携帯はつながらない。
 今は旭と一緒に飲みに行くので、アイテムBOXにお金を入れておけば大丈夫だから安心らしい。

 1人の時は飲食店に入る前に、何度も財布の中身を確認したそうだ。
 あの頃は月に3,000円しか渡していなかったので、死活問題だったのだろう。

 レンタルDVD以外、一体何に使っていたのかな?

「温泉に入る事が出来るなんて夢のようだわ。生き返るわね~」

 サヨさんは、大浴場に浸かってご機嫌の様子だ。

「ここには他に、ジェット風呂や炭酸風呂や薬湯もありますから楽しんで下さいね。あっ、外には露天風呂もありますよ~」

「まぁ、そんなに沢山あるの? 昔の銭湯とは違い過ぎるわね。連れてきてくれてありがとう」

「いえ、母を召喚したら親子仲良くまた3人で一緒に入りましょう! 本当は温泉旅行に行きたいんですが、まだLvが足りなくてホーム内で行ける範囲に温泉がないんです」

「ここで充分ですよ。異世界では、そもそもお湯に浸かる事が出来ないの。お風呂の習慣がないから仕方ないと、ずっと残念に思っていたわ。でも日本人ですから、こうやってお湯に入ると幸せを感じるわね」

 そう言いながら、ふふっとサヨさんが笑う。
 つられて私も笑顔になった。

「ええ、本当にそうですね。特に寒い冬は、お湯に浸かるだけで疲れが取れますし。温泉は最高です!」

 その後、私達は色々なお風呂に入り、もうこれ以上は無理といった所で上がる事にする。
 サヨさんを連れてスーパー銭湯に行った事は正解だったな。
 
 お風呂に入りながら、お母さんが子供の頃の話を沢山してくれた。
 話を聞くと、相当お転婆てんばだったらしい。
 
 きっと本人にとっては黒歴史に近いものだろう。
 その一つ一つのエピソードに笑いながら、楽しい時間を過ごす事が出来た。
 
 私が知っているのは母親としての姿だから、お母さんの子供の頃の話は新鮮だったなぁ。

 もう何十年も昔の話なのに、サヨさんはずっと日本に残してきた末娘の事を覚えていたんだと感じ早く会わせてあげたいと思う。


 化粧台に置いてある洗顔や化粧液に乳液を、名残なごりしそうに見ていた姿につい笑ってしまった。

 確かアパートの住人さんが愛用していた、有名な年齢化粧品があったはずだ。
 私はまだ19歳で必要のない物だから、これも帰りにサヨさんにプレゼントしてあげよう。

 いくつになっても、女性が綺麗になりたいと思う事は素敵な事だよね。

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