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第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第391話 ガーグ老 8 地下11階~地下12階でのダンジョン内警護&御子の使用する不思議な魔法

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 御子は今までマジックテントの中で休憩していたが、地下11階の攻略を始めるようになってから夕食を仲良くなった冒険者達と一緒に食べる事にされたようだ。

 2回程、経営している店の人気メニューである『肉うどん』を振る舞っている姿を見た。
 迷宮都市の冒険者は1ヶ月程ダンジョンに潜りっぱなしなので、御子が経営している店で食べられる機会は少ないだろう。

 最近は昼頃には完売してしまうでの。
 儂らも土曜日は毎週欠かさずに食べに行っておる。

 ダンジョン内の護衛中は、存在を知られる訳にはいかない。
 料理をする事は出来ぬので、食事は匂いがしない携帯食料が主だった。

 土曜日に食べる『肉うどん』が、儂らにとって楽しみのひとつになった事は必然と言ってもよいだろう。

 皆と食べる食事中に、御子がハーフエルフの兄である御方より強い人でないと結婚しないと宣言された。

 御子よ……。
 それは、ちと理想が高すぎだわ。

 現役ではないにしても、影衆の儂らより速く移動し魔物を瞬殺される御方だぞ?
 しかも高名な治癒術師でもいらっしゃる。
 
 治癒と浄化の魔法を使用出来、確認しただけでも7属性全ての魔法を身に受けただけで習得する規格外の方は、そうそう見付からんだろう。

 ハーフエルフの御方は御子の結婚には反対のようで、

「そうか、なら俺のしかばねを越えていけ!」 
 
 と達成不可能な事を言いなさる。

 保護者殿のお眼鏡に適う若者はおるまい。
 例外は人族の姿をした、もう御一方くらいのものだろう。
 
 夕食時に御子が店で出す、新しいメニューを冒険者に試食してもらっておった。
 『シチュー』とは、いかなるスープであろうか?

 色が白いが……。
 口にした冒険者が大絶賛しているので、旨いのだろう。

 儂らも土曜日に新メニューを食べてみた。
 今までのスープとまったく違う味がする!

 『肉うどん』を食べた時も衝撃的であったが、今回の『シチュー』も非常に美味しい。
 これは、どちらを食べるか迷う事になりそうだわ。

 地下11階の攻略が始まってから午前中は薬草採取とりんご狩り、午後は魔物の討伐と御子達は自由である。

 安全地帯に休憩に戻った際、怪我人が出ると少年の姿をした御方が治療される。
 どうやら、このままの状態が続きそうだった。

 ある日、御子が儂らの知らない魔法で魔物を昏倒させた。
 一体、どのような魔法なのか見ていてもさっぱり分からぬ。

 突然、魔物が意識を失い地面に倒れるとは……。
 しかもアンデッドであるゴーストの魔物も、魔石を取って倒しておられる。

 これまでも遠距離から安全に魔物を討伐していらしたが、この魔法を使用されるなら最早もはや勝てない魔物等おらんのではないか?

 能力の高さに頼もしいと思う反面、敵になれば怖い人物だと肝にめいじる。 
 王族の非情な性質も見てきた儂には、御子にも二面性があるだろうと思えたからだ。

 そしてついに地下12階の攻略開始。
 
 初日の月曜日は、口から魂が飛び出るかと思ったわ!
 安全地帯に到着した時は、全員が死に体で警護が出来る状態ではなかった。
 
 地下11階からはダンジョン内の広さが変わるので、1階層と言えども2階層くらいの距離がある。
 それを御子達は平気な顔をして駆け抜けるのだ。

 儂は思わず再び念話の魔道具を握り締め、息子に居場所を確認した。
 するとカルドサリ王国と隣接している、レバンダリニア皇国に到着したと返答がある。

 よし、これで儂らの警護は地下12階までで済むだろう。
 地下13階に拠点を移される頃には、息子が50人の『万象ばんしょう』を連れてくるはずだ。

 いきなり地下13階からの警護になるが、あやつらは現役だからの。
 引退したじじいとは違うだろうて。

 精々せいぜい、死ぬ気で走る事になるだけだわ。
 
 地下12階の攻略中、御子は新しい料理を披露ひろうされた。
 パンに代わる食べ物の『ナン』をフライパンで焼いておられる。

 御子よ、それは経営している店では出さんのかの?
 儂も食べてみたいのだが……。

 そして、この階層では森の中にリンゴではなくみかんが生っておる。
 人族の国のダンジョンでは果物が生る森があるらしい。
 エルフの国にあるダンジョンでは聞いた事がないな。

 御子は新しい果物が生っている事が嬉しそうであった。
 今後は子供達にみかんを配るのだろう。

 土曜日。
 定宿で休んでいると『タマ』が儂の所に飛んできた。
 カマラから、御子がまた飲食店を1軒購入したと連絡が入る。

 店を増やすお心算つもりなのだろうか?

 教会の炊き出し終了後。
 身体に欠損がある高齢者を10名集めて、御子が新しい店まで先導していた。
 
 なんと、この者達に就職先を斡旋あっせんするようだ。
 確かに体が不自由で高齢な者は、良い仕事にはありつけぬだろう。

 御子の懐の深さに感嘆かんたんする。
 中々出来ることではない。

 母子に飲食店を任せる事も子供達に家を与える事も、お金があれば済む問題ではないからだ。

 飲食店では売れるメニューを考案し、子供達の家には治療した冒険者のパーティーリーダーの表札を付けて保護者を見付けている。
 
 決してその場限りの支援をしている訳でなく、その後に続くように考えられている。
 その聡明そうめいさは姫様と似ている所があった。

 血筋……なのだろうか。
 姫様、貴方が命掛けで産んだ御子は立派に育っておりますぞ!

 御子が出来た事を知った時は、ショックで寝込んでしまわれたが……。
 王がいくらお祝いの言葉を言っても、ちっとも嬉しそうではありませんでしたな。

 女官達も姫様のご懐妊祝いを出来ず困っておった。
 
 森にこもられてから、大きくなっていくお腹にようやく覚悟を決めたくらいに嫌がって……。

 そう言えば初夜の前日、女官長が姫様にねやの作法をお教えしていない事に気付き騒ぎになっておったな。

 結婚は当分先だと王から言われていたので、女官達も失念していたのだろう。
 だが姫様は、それは問題ないと断られていた。

 その手の知識をどうやって知る事が出来たのか……。
 儂らには分からない食べ物の話や制度、話を聞く度に不思議に思っていた事がある。


 もうこの世に姫様が居ない事を悲しんでばかりおったが、今は成長した御子を見守る事が出来て幸せだ。
 
 出来れば冒険者ではない方が警護は楽だったがな……。
 まぁ、それも後数ヶ月の事。

 息子に引き継いだ後は、御子の居る迷宮都市に腰を据えよう。
 カマラに職でも探してもらうとするか。

 影衆としてではなく、迷宮都市の人間としていつか会う事が出来るだろうて。

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