上 下
266 / 754
第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第356話 冒険者ギルドマスター オリビア・ハーレイ 10 大量のトレント

しおりを挟む
 王都でのギルドマスター会議を無事に終え、急いで迷宮都市に戻ってきた私に待っていたのは大量のトレントだった。

 薄々予想はしていたけれど、トレントの森を消失させたのはサラ様だったんですね!
 森が出来る程のトレントを、一体何処どこ仕舞しまわれたのですか!?

 ここ迷宮都市では、マジックバッグは最大30㎥の物しか販売されていない。
 今までは、お一人で1つずつ持たれていたはずだ。

 どう考えても計算が合わないんですが……。

 王家秘蔵のマジックバッグ1,000㎥でも借りてきていらっしゃるのかしら?
 でもそんな物を人前で見せる程、サラ様は愚かな方ではない。

 あれはもう国宝と呼ばれる物で、普段は王宮の宝物庫で厳重に管理されているべき代物だ。
 勿論もちろん、サラ様が王様に願えば貸してはもらえるだろうけれど……。

 多分そうではないだろう。

 何せ時空魔法の適性がある御方だ。
 移転の他にアイテムBOXの能力も当然あって然るべきと考えた方がしっくりくる。

 存在を秘匿ひとくされるのは、まさにその能力が戦場を一変させるからに他ならない。
 エルフの国が今まで滅ぼされなかったのは、ひとえに秘匿された方が居たお陰だ。

 敵陣へ大量の兵士を一瞬で送り、無尽蔵に戦略物資を運ぶ事が可能であれば戦に負ける事など有り得ない。

 王宮の奥深くの神殿で多くの影衆に守られているのは、いざという時に戦場に立たれるお方だから……。

 数百年に1度、王族から生まれてくる大切な存在。
 そして最大の切り札。

 私はこの国で生まれたのでエルフの国には行った事がないけれど、父から聞いた話では緑豊かな土地であるそうだ。

 そのため、エルフの容姿も相まって常に他国から狙われていたらしい。
 ここ数百年は侵略する国も、ほぼ殲滅せんめつしたので平和が続いていると言う。

 サラ様がアイテムBOX持ちだとするなら、今後毎週のように大量のトレントを換金なさるだろう。

 これは新しく倉庫を借りている場合じゃないな。
 ギルドが所持しているマジックバッグでは追いつかない。

 借りを作るようでしゃくさわるが、ヒューに頼み摩天楼まてんろうで販売されているマジックバッグ100㎥を送ってもらう事にするか。
 早くしないと冒険者ギルドの倉庫がトレントであふれてしまう。

 私は冒険者ギルド間をつなぐ通信の魔道具を作動させた。
 この魔道具は、ギルドマスターの部屋にしか設置されていない。

 遠方の支店や王都の冒険者ギルド統括本部との遣り取りで使用する魔道具だった。
 羊皮紙に文字を書いた物を魔道具に読み取らせ、あらかじめ設定されている支店の番号を押したら完了だ。

 内容は送り先の支店の魔道具に映し出される。
 誤差はほとんどなく一瞬で相手先に送られるが、1回に使用する魔石代がとても高い。
 送信するのに銀貨1枚も必要なので、そうそう滅多に使う事はなかった。

 数分後、幸いヒューがギルドマスターの部屋に居たらしく返信が届いた。

 本日マケイラ家でテイムしているグリフォンに、マジックバッグ100㎥を10個載せて送り出すので、代金はグリフォンの首に付けてある袋に入れてほしいと書いてあった。

 トレントを買い取るために、幾ら経費がかかるのか……。
 これは収支が合うんだろうか?

 迷宮都市から摩天楼のダンジョンがある都市まで、馬車で行けば片道約1ケ月かかる。
 私がなるべく早く欲しいと書いたので、グリフォンで対応してくれたんだろう。

 グリフォンならば大体片道5~6日といった所か。
 その事自体は大変有難いけれど、また父の機嫌が悪くなりそうだ。

 ハーレイ家でテイムされた魔物はペガサスだが、時に諜報ちょうほう活動をになうマケイラ家はグリフォンをテイムしていた。
 
 当然、グリフォンの方が速い。
 体の構造から考えれば分る事だが、父はそれが気に入らないらしい。

 あの2人は、どうしてこんなに仲が悪いのか……。
 同じ女性を取り合った訳でもないのに、幼少期に何かあったのだろうか?

 はぁ~、取りえずトレントの保管に関してはマジックバッグで対応出来そうだな。

 父の機嫌を取るために、今日はもう家に帰ろう。
 私もいささか疲れが溜まっている。 
 今日こそ、久し振りにベッドで寝たい。

 その夜、摩天楼のダンジョンに20年前から王族の方がお忍びで冒険者をしている事を知った父が大激怒し、今すぐにでもマケイラ家に向かいそうになるのを必死で止める事になった。
 
 しかも20年前は迷宮都市に居て、何故なぜお前は気付かなかったんだと責められる。

 セイ様は人族の姿をしていたのだから、私に怒るのは筋違いだと思う。
 どうやって気付けと?

 そもそも王族の方が、お忍びでカルドサリ王国に来られる事は想定外じゃないか!
 流石さすがに言われっぱなしでは腹が立つので、父に言い返す。

 その後、私達は大人気なく盛大な親子喧嘩を始めてしまい、早く寝る心算つもりだったのに大幅に予定が狂ってしまった。
 
 結局最後は飲み比べで決着を付ける事になり、親子そろって酔い潰れ二日酔いで朝を迎える羽目はめになる。

 気分は最悪だった。

 朝食も吐き気で食べる事が出来ず、そのまま冒険者ギルドに仕事に向かう。
 部屋に入ってから、最近常備しているポーションを飲んで一息ついた。

 これで多少は楽になるだろう。

 不在の間に溜まっていた書類に目を通していると、受付嬢が部屋に入ってきた。

「ギルマス。オリーさんが宿泊していた宿から、苦情が入ってるんですけど……」

「苦情? どんな内容なの?」

「宿泊代を払わずに出ていったそうです」

 あぁ、もう消されたのか……。

「確か未払いの給料があるから、経理に言ってそこから払ってあげなさい」

「了解しました。オリーさん、最後まで厄介やっかいな人でしたね~」 

「あぁ当分、貴族のぼんぼんを受け入れるのは断る心算つもりだよ」

是非ぜひ、そうして下さい。役に立たない人は要りませんから。あっ、そうだ! ギルマスが不在の間に、他領から来た冒険者パーティーが全員キングビーに刺されて帰還しました。ちょっと気になるので、お伝えしておきます」

「他領から来た冒険者か……。情報ありがとう」 

「また変な人達じゃないといいですね!」

 そう言い残し、受付嬢は帰っていった。

 いや気になるだろう!
 キングビーが居るのは地下14階じゃないか!

 私の受難の日々は、まだまだ続きそうだった……。

 --------------------------------------
 お気に入り登録をして下さった方、エールを送って下さった方とても感謝しています。
 読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。
 応援して下さる皆様がいて大変励みになっています。
 これからもよろしくお願い致します。
 --------------------------------------
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される

鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。 レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。 社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。 そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。 レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。 R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。 ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。

最強で美人なお飾り嫁(♂)は無自覚に無双する

竜鳴躍
BL
ミリオン=フィッシュ(旧姓:バード)はフィッシュ伯爵家のお飾り嫁で、オメガだけど冴えない男の子。と、いうことになっている。だが実家の義母さえ知らない。夫も知らない。彼が陛下から信頼も厚い美貌の勇者であることを。 幼い頃に死別した両親。乗っ取られた家。幼馴染の王子様と彼を狙う従妹。 白い結婚で離縁を狙いながら、実は転生者の主人公は今日も勇者稼業で自分のお財布を豊かにしています。

いらないと言ったのはあなたの方なのに

水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。 セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。 エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。 ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。 しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。 ◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬 ◇いいね、エールありがとうございます!

【R18】ひとりで異世界は寂しかったのでペット(男)を飼い始めました

桜 ちひろ
恋愛
最近流行りの異世界転生。まさか自分がそうなるなんて… 小説やアニメで見ていた転生後はある小説の世界に飛び込んで主人公を凌駕するほどのチート級の力があったり、特殊能力が!と思っていたが、小説やアニメでもみたことがない世界。そして仮に覚えていないだけでそういう世界だったとしても「モブ中のモブ」で間違いないだろう。 この世界ではさほど珍しくない「治癒魔法」が使えるだけで、特別な魔法や魔力はなかった。 そして小さな治療院で働く普通の女性だ。 ただ普通ではなかったのは「性欲」 前世もなかなか強すぎる性欲のせいで苦労したのに転生してまで同じことに悩まされることになるとは… その強すぎる性欲のせいでこちらの世界でも25歳という年齢にもかかわらず独身。彼氏なし。 こちらの世界では16歳〜20歳で結婚するのが普通なので婚活はかなり難航している。 もう諦めてペットに癒されながら独身でいることを決意した私はペットショップで小動物を飼うはずが、自分より大きな動物…「人間のオス」を飼うことになってしまった。 特に躾はせずに番犬代わりになればいいと思っていたが、この「人間のオス」が私の全てを満たしてくれる最高のペットだったのだ。

ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました

中七七三
恋愛
わたしっておかしいの? 小さいころからエッチなことが大好きだった。 そして、小学校のときに起こしてしまった事件。 「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」 その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。 エッチじゃいけないの? でも、エッチは大好きなのに。 それでも…… わたしは、男の人と付き合えない―― だって、男の人がドン引きするぐらい エッチだったから。 嫌われるのが怖いから。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

姫プレイがやりたくてトップランカー辞めました!

椿原 守
BL
上月千尋(コウヅキチヒロ)は人気VRMMOのランキング上位チームに所属していた戦士だった。 ある日、性別や名前を変更できる課金アイテムが追加された。(※ただし使用は1回切り) ゲームアップデートが無ければ、先行攻略組こと通称ガチ勢はやることが少ない。 ここ最近、マンネリを覚えていたチヒロはこれを機に男キャラから女キャラへ転身を決意。 ちょうど良い機会だからと、ずっとやってみたかった姫プレイ(ネカマプレイ)を始めてみることにした。 あれ? 楽勝ウハウハの貢がれプレイを期待してたのに、なんか思うように上手くいかないんですけど!? ※ムーンライトノベルズにも掲載中です。

愛を知らない僕は死んじゃう前に愛を知りたい

しおりんごん
BL
「そうか、ぼくは18さいでしんじゃうんだ。」 僕、ルティアーヌ・モーリスは いわゆる異世界転生をした元日本人だった   前世の記憶をたどり、、、思い出したことは、、、 ここはBL小説の世界だった そして僕は、誰からも愛されていない 悪役令息 学園の卒業パーティーで主人公を暗殺しようとして失敗した後 自分の中の魔力が暴走して 耐えきれなくなり、、、 誰とも関わりを持たなかった彼は 誰にも知られずに森の中で一人で 死んでしまう。 誰も話してくれない 誰も助けてくれない 誰も愛してくれない 、、、、、、、、、。 まぁ、いいか、、、前世と同じだ 「でも、、、ほんの少しでいいから、、、        、、、愛されてみたい。」 ※虐待・暴力表現があります (第一章 第二章の所々) ※主人公がかなりネガティブで病んでいます(第一章 第二章の所々) ※それでも超超超溺愛のストーリーです ※固定カプは後々決まると思いますが 今現在は主人公総受けの状況です ※虐待・暴力表現など、いろいろなきついシーンがある話には※をつけておきます ※第三章あたりからコメディ要素強めです ※所々シリアス展開があります

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。