上 下
195 / 709
第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第331話 迷宮都市 『うさぎと亀』の演劇

しおりを挟む
 全員そろった所でまずは、アマンダさんパーティーの『うさぎと亀』の上演開始。
 
 亀役はアマンダさん他4人。
 うさぎ役はケンさんだ。

 教会の庭の隅に着替え用のテントを2つ設置したので、男女に分かれて衣装に着替えてもらう。

 アマンダさんは最後まで亀の着ぐるみパジャマを着る事をしぶっていたけど、主人公の衣装なのでと言って強引に着せた。

 うっ、似合わない!

 笑いそうになるのを必死でこらえ、本日のサプライズであるタートル4匹を見えないように設置した。
 タートルの後ろには、亀役の4人がスタンバイしている。

 今回披露ひろうするのは、私達がよく知っている内容のものではない方の『うさぎと亀』だ。

 亀の着ぐるみパジャマを着たアマンダさんが出ていくと、普段のギャップからか冒険者全員が呆気あっけに取られて見ている。
 
 アマンダさんは開き直ったのか、堂々とした態度でうさぎ役のケンさんに明日かけっこの勝負をしようと持ち掛ける。

 ただしうさぎが走る道ではなく、その隣のやぶの中を走ると言う。
 うさぎは足の遅い亀に負ける訳はないと勝負を受けた。

 翌日。

 スタート地点では亀が待っている。
 その亀に今回は、本物の魔物である体長3mのタートルを設置したので子供達は大興奮だ。

 実はこの亀は勝負を持ちかけた亀ではなく、亀の家族だった。
 勝負を持ちかけた亀役のアマンダさんは既にゴール地点に居て待機している。

 うさぎに勝つために、家族にお願いして要所要所に隠れてもらっているのだ。
 そして、うさぎに声を掛けられたら返事をしておくように指示を出す。

 見分けがつかないうさぎは、スタート地点にいる亀が昨日勝負を持ちかけてきた亀だと思っていた。

 スタートと同時にうさぎが走りだす。
 亀はやぶの中を走る設定なので、マジックバッグにしまってもらった。

 しばらく走ると、うさぎが亀に声をかける。

「亀さん、どんな具合だ?」

「汗水垂らして走っているよ」

 亀役の男性が答える。
 
 再びうさぎは走り出し、また亀に声をかける。

「亀さん、どんな具合だ?」

「汗水垂らして走っているよ」

 そんな事が2度3度と続き最初は先行していると喜んでいたうさぎだったが、どれだけ走っても亀を引き離せない事にいら立つ。

 そしてついにゴール!

 うさぎが勝ったと思ったら、そこには既に亀役のアマンダさんが待ち構えて待っていた。

「勝負は私の勝ちだね!」

 計略を用いて、うさぎをだますという話だ。

 子供達は最初から亀役が複数居る事が分かっているので、うさぎが亀に質問する度に笑っていた。
 うさぎがへとへとになってゴールする場面では、腕を組んで仁王立におうだちしている亀に拍手がく。
  
 普段足の遅さを散々馬鹿にされていた亀の、痛快な逆転劇だった。

 日本では今回披露ひろうした内容の『うさぎと亀』より、うさぎがかけっこの最中油断して寝てしまいその間に亀が追い抜かしてゴールする方が有名だろう。

 まさに油断大敵といった教訓が含まれている。
 どちらも為になるお話だけど、子供向けには日本で有名な方が良いかも知れない。

 ただ今回はアマンダさんが亀役だった事もあり、話の予想が付かなかったので最初からゴールで待機しているだけの動きが少ない方を採用させてもらった。

 もし日本バージョンだったら、最初からうさぎをぶっちぎっていそうだ……。
 教訓も何もあったものじゃない。

 追い抜かされたケンさんがストーリーに無い展開を、どう収拾しようか涙目になっている姿が目に浮かびそう!

 その後、先輩冒険者として剣術と槍術の基礎となる剣舞と槍舞をアマンダさんのパーティーメンバーが披露ひろう

 サヨさんと作成した御揃おそろいの衣装を着て、華麗かれいに舞う剣舞や素早い動作の槍舞にこれから冒険者になる子供達は目が釘付けだ。

 流石さすがに冒険者歴が長いB級だ。
 その洗練された動作には、目を見張みはるものがある。

 同じパーティーだけあって、息もぴったり合い動きもそろっている。

 そして袖無しの衣装から出た腕に、私は視線を奪われた。
 いや~眼福がんぷくだわ。
 
 今日は兄から目隠しをされる事も無いので、たっぷり堪能たんのうさせて頂きます!

 隣で見ていた旭は、空手の型に通じる物があるのか動きを真似している。
 体術として教えてあげたらいいんじゃないかしら?

 いまいち旭は冒険者から強いと思われていないみたいなので、名誉挽回めいよばんかいにも丁度良い。

 アマンダさんなんか、旭は優秀な治癒術師としてしか見てなかったし。
 童顔で異世界では背が低い旭は男性冒険者に人気だ。

 またテントに連れ込まれないように、強さをアピールしておいた方が良いだろう。

 舞の披露ひろうが終わるとパーティーメンバーは、観客全員から拍手喝采はくしゅかっさいを浴びた。
 
 今回は原作に忠実な劇だったし、本物の亀も使用したので子供達も楽しかっただろう。
 最後は、剣舞と槍舞のおまけ付きで剣術や槍術の勉強にもなったはずだ。

 アマンダさんは魔法士なので演舞に参加しなかったけど、メンバー達を真剣な表情で見ていた。

 その動きが生死を分ける事になるからだ。

 パーティーリーダーの責任は重い。
 ダンジョンから全員を帰還させる事に注意を払う必要がある。

 ましてやクランリーダーで、100人以上のメンバーを抱えていれば視線が鋭くなるのも仕方ない。
 
 さて、ついに《お好みで》の貸しを旭に返してもらう時が来たようね!
 
 そもそも今回リリーさんと一緒に披露ひろうする事になった扇舞おうぎまいだって、旭の不用意な一言が原因だ。

 たまには突然窮地きゅうちに立たされる気分を味わってほしい。

 実は旭が剣舞も出来る事を知っているので、是非ぜひ皆の前で披露ひろうしてもらいましょ!

 --------------------------------------
 お気に入り登録をして下さった方、エールを送って下さった方とても感謝しています。
 読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。
 応援して下さる皆様がいて大変励みになっています。
 これからもよろしくお願い致します。
 --------------------------------------
しおりを挟む
感想 2,333

あなたにおすすめの小説

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん
ファンタジー
 ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。 でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。 こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね! のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。