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第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第266話 迷宮都市 お互いの事情説明&食事会 1

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 サヨさんが話してくれたところによると、60歳の誕生日を迎えた日。
 目が覚めると赤ん坊に転生していたそうだ。

 最初は夢を見ているのかと思っていたけど、そのままの状態で1年が過ぎ2年が過ぎと時間が経つにつれて、これはもう現実に起こっていると思わざるを得なかったみたい。

 まぁ60歳の記憶が残ったままの、赤ん坊生活は大変だったらしいけど……。
 そりゃそうか、考えたら色々恥ずかしい思いをしそうだ。

 前世の記憶を持ったまま異世界に転生したので、馴染なじむまで大変苦労したらしい。
 便利な商品や、豊富にある食材が当たり前だった日本で育ったのだから当然だろう。

 それでも大人になる頃には、無い物は仕方ないとあきらめて生活する事が出来たんだそう。

 唯一ゆいいつの心残りは、家族にお別れを言えず異世界に突然転生してしまった事だと言う。

 長年連れ添った旦那さんや、息子や娘達に会いたい気持ちが抑え切れずに涙した日もあったけれど、幸い異世界で良い人と出会いまた別の家族が出来てからは心が穏やかになったらしい。

 今は息子2人と孫が3人いるそうだ。
 そして現在の年齢は両親と同じ78歳。

 最後に「私は2度も人生を生きる事が出来て幸せよ」と笑っていた。
 
 私はサヨさんの話を聞いて、赤ん坊からの転生じゃなくて心底良かったと思う。

 特に『手紙の人』からの特別な能力を与えられる訳でもなく、前世の記憶を持った状態で生活するのはつらすぎるからだ。

 そんな状態なら、いっそ記憶がない方が余程ましに思える。

 サヨさんの事情を粗方あらかた聞き終わると、今度は私の事情を説明する事にした。
 話すより読んでもらった方が早いので、例の【び状】と書かれた手紙を渡す。
 
 サヨさんが読み終わるまで待っていると、兄達が帰ってきた。

 3人は初めて会うので、お互いに自己紹介をしてもらう。
 兄はサヨさんの名前に一瞬首をかしげていたけれど、あの仕草しぐさは何だったんだろう。

 4人で再び席に着くと、兄と旭の事情も手紙を渡して読んでもらった。
 全てを読み終えたサヨさんが、大きく溜息を吐く。
 
「皆さん、それぞれ大変でしたでしょう。特にいきなりダンジョンマスターになられた旭さんは、沙良さんに召喚されるまでダンジョンで1人過ごしていたんですか?」

「はい、11年間孤独に耐えていました。最後の方は生きる気力も無くなってしまっていたんです」

「まぁ本当におつらかったわね。そして沙良さんは、別人の子供になってしまったとか……。もうこれは本当にお気の毒としか言いようがないわ。公爵令嬢だったらしいのに、今は冒険者をされているのは何故なぜかしら? これは後でお話をうかがいたいわ。そして沙良さんに召喚されたお兄さんは、突然の事でさぞかし驚かれた事でしょう。しかも亡くなった妹さんが別人になっていたのですから、きっと心配で両親の代わりをしてあげていたのではなくて?」

「ええそうです。2人とも14歳と12歳の子供になってしまいましたから。異世界について何の知識もないまま、冒険者として生きてきました。7年が過ぎた今は、それなりに生活出来ていると思います。もし妹のホームの能力がなければ、もっと大変だったと思いますが……」

「皆さん複雑な事情がありながら頑張ってこられたのですね。それなのに、子供達への支援をしているなんてご立派な事ですよ。胸を張って生きて下さい」

 サヨさんが1人1人私達にねぎらいの言葉を掛けてくれた事に、思わず泣きそうになってしまった。

 日本にいる両親を思い出したからだ。
 人生経験が違うと、こうも掛ける言葉は優しくなるのだろうか。

 身近に自分達より年上の人間がいなかった所為せいで、サヨさんの言葉が身にみる。
 私達は3人とも独身のまま家庭を持っていなかったので、どこか子供の部分が多い。

 人の親になって初めて大人になる事が出来るんだろう。
 55歳になった今でも、両親に甘えたいと思ってしまう。

 異世界に転移し突然会えなくなってしまった分、その思いは強かった。
 兄は頼れる存在だけど、やっぱり両親が持っている包容力には勝てない。

 無償の愛とは、親が子に与える最大の贈り物なのだろう。

 お互いの事情を話し終えたところで、いい時間になったので夕食を作る事にした。
 まずはサヨさんから食べたい物のリクエストを聞こう。

「サヨさん、日本食が懐かしいと思うんですが何が食べたいですか? 私でよければ作りますので何でも好きな料理を言って下さい」

「実は日本の料理が食べられると思って、朝からそれはもう楽しみにしていたんですの。サラさん1人に作らせるのは悪いから、私にも何か作らせてもらえるかしら?」

「本当ですか? じゃあ一緒に作りましょう!」

 2人で何を作るか決めて、それぞれ別の料理の準備を始める。

 サヨさんは日本での旦那さんが好きだったというぶりの照り焼きと、娘さんの好物だった肉じゃがを作るらしい。

 私は豆腐とワカメとねぎが入った味噌汁と、だし巻き卵に蓮根れんこんのきんぴらを作る事にした。
 
 その間、兄達はやる事がないのでリビングでTVを見ていた。

 サヨさんはTVが映る事にかなり驚きながら、漏れ聞こえる日本語に懐かしいわねと微笑ほほえむ。
 
 1時間半後、全ての料理が完成。

 サヨさんは主婦歴が相当長い(2度も母親をしていたため)ので、とても手際てぎわが良かった。
 日本の調味料を使用するのは実に78年振りだと言うのに、ブランクを全く感じさせない。

 まぁ私も36歳若返ったから多少、人より料理歴は長い方だと思うけどね。

 全員が席に座り夕食の開始だ。

「「「「頂きます」」」」」

 兄がサヨさんの作った肉じゃがを一口食べて、また首をかしげている。

 ちょと、お客様の作った料理に文句を付けないでよ?

 一応それくらいの配慮は社会人として出来ると思うけど、味にうるさい兄の事だから心配だ。

 けれど私もサヨさんの作ってくれた肉じゃがを食べて、首をかしげてしまった。

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