上 下
154 / 755
第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第244話 椎名 賢也 63 再びミリオネの町へ 2&3人で迷宮都市へ

しおりを挟む
 家に戻ると討伐依頼を受けていた子供達が、集まって沙良の料理を待っていた。
 皆家から持参した食器を持って並んでいる。

 沙良がスープを配り始めたので、俺達もパンと串焼きを手渡していった。
 初めて食べる卵焼きに、子供達は目を輝かせている。
 異世界で卵は1個鉄貨2枚(200円)する高級品だ。

 しかも今回はコカトリスの卵を使用しているので、貴族でも滅多に食べる事は出来ないだろう。
 卵焼きには塩と砂糖を入れていたので、少し甘みがあるタイプだ。

 母親が作る卵焼きには必ず砂糖が入っていたので、正直塩だけの卵焼きは俺の口には合わない。
 だし巻き卵にも砂糖は入れてほしい派だった。
 
 具沢山のスープも美味しそうに食べている。
 沙良が可愛いと思うのも納得の姿だ。

 口をもぐもぐ動かして食べている様子は、小動物のようで愛らしい。

 子供達が食事をしている間に、沙良が庭に大きな布を広げダンジョンで得た戦利品の武器を出す。
 俺達が使用しなくなったマジックバッグや防具や盾、武器屋の親父が無料でくれた解体ナイフ10本と大量にある。

 最年長の子供に声を掛けて、皆で仲良く分けるようお願いしていた。
 武器や防具は、冒険者になったばかりの子供達には買えないから良い土産になるだろう。

 明日の朝も食事を作る事を伝えて、俺達はホームの自宅に戻った。

 沙良が明日の朝食の準備があるからと軍資金を渡してくれたので、夕食は車を出して旭の希望するカレー屋で外食する事にした。

 11年間、食べたくて仕方なかったらしい。

 本格的なインドカレーではなく、チェーン店のカレーが良いと言ってトッピングをこれでもかと載せて食べていた。

 きっと他にも食べたい物が沢山あるんだろうな。
 今まで何も食べられなかった分、好きな物を食べさせてやりたい。

 これはやっぱり沙良に借金を申請するべきか……。
 3,000円じゃ飲みにも行けない。

 その夜、旭は俺の部屋に泊まる事になった。
 風呂に入ってさぁ寝るかと電気を消そうとしたところ、旭が枕を抱えて部屋に入ってくる。

 1人じゃ寂しいから一緒に寝てほしいと言われて、お前は子供かっ! と思ったが11年間1人だった事を思い出し、渋々しぶしぶダブルベッドの左側を明け渡した。

 沙良が設置してくれたベッドが、シングルじゃなくて良かった。
 20歳の男2人がシングルで寝るのは、窮屈きゅうくつなんてものじゃない。

賢也けんや。俺、今回は沙良ちゃんの事をあきらめないよ」

「あいつは鈍いから、はっきり言わないと伝わらないぞ。ちゃんと告白しろ」

「うん。頑張ってみる。まだ美人になった沙良ちゃんの顔を見るだけで、ドキドキするけどね」

「沙良と付き合う事になっても、婚前交渉は許さないから覚えておけよ」

「えっ! 何それっ! いつの時代の話だよ! それは流石さすが横暴おうぼうすぎるっ!」

 ベッドに横になっていた旭が、俺の言葉に飛び起きて抗議してきた。
 それでも俺は、ここは譲れないと言い含める。

「駄目だ。人様の家の娘の体なんだから、大切にしてやらないと。そんな先の心配をするより、異世界で相手のいない俺達の事を心配した方がいいぞ。若くなって、衝動しょうどうも強いから我慢する羽目はめになる」

「まじか~。俺11年間、その手の衝動しょうどうとは無縁むえんだったんだよね。やっぱり若いと大変だよね」

「あぁ、解決方法はあるから休日に一緒に店に行こう」

「うん? 何の店?」

「行けば分かる。ほら、そろそろ寝るぞ。一緒に寝るのは今日だけだ、明日からはちゃんと1人で寝ろよ」
  
「え~、しばらく一緒に寝てくれたっていいじゃん!」

「寝ません。お前、沙良に見られたら絶対誤解されるぞ? あいつの勘違いは筋金入りだ。一度誤解すると中々信じてもらえない。折角せっかく告白する気になったのに、お前が俺を好きだと勘違いされたらどうするんだ。そしてその展開は俺も望まない」

「う~、分かった。賢也とデキ・・ているって思われたら、俺悲しくて死にそう……」

「失礼なやつだな、俺の方こそお断りだ!」

「へへっ、でも今日は一緒に寝てね。我儘わがまま聞いてくれてありがとう、おやすみ」

「あぁ、おやすみ」

 翌日。
 沙良に起こされる前に起きた俺達は、一緒のベッドで寝る姿を見られる事もなく安心する。

 どういう訳か、旭は俺の左腕を枕にして寝ていたので殴っておいた。

 腕がしびれてるじゃないかっ!
 お前は俺の彼女かっ!

 子供達の家に行って朝食を食べさせた後は、旭の冒険者登録をする。
 今回スキップ制度を利用して、C級冒険者になってもらい迷宮ダンジョンに入れるようにするのだ。
 
 C級冒険者にスキップしてなるのは、ギルドマスターから合格判定を受ければいいらしい。
 沙良が仲良くなった女性冒険者から教えてもらったそうだ。

 確かにスキップ制度が無いと年数の縛りがあって、実際の実力と釣り合わない冒険者が出てきてしまう。

 お世話になったギルドマスターが立会人になってくれ、旭は直ぐに合格となった。
 沙良はこのまま、ローリエ採取がしたいと言うので俺達も付き合う事にする。

 そしてついにゴブリンを発見!

 オリハルコン製の解体ナイフがようやく日の目を見た。
 旭と一緒にミスリル製の解体ナイフとの切れ味の違いを楽しんで、男のロマンを分かち合う。

 魔法特化の俺達には剣を振るう機会なんてないからな。
 沙良があきれていたが、知ったこっちゃない。

 
 迷宮都市に向かう前に旭が11年間狩った魔物の換金を済ませていない事に気付き、俺達は再びリースナーの町に戻ってきた。

 あんなに盛大に見送られたのに恥ずかしいにも程がある。

 旭は初めての換金に、おどり上がらんばかりに喜んでいる。
 絶対いつか換金してやると、全てをアイテムBOXに収納していたらしい。

 大量の金貨に満面の笑みを浮かべてとても嬉しそうだ。
 解体場の親父には突然の大量の魔物素材に喜び、いたく感謝された。

 翌日。
 俺達は迷宮都市へと出発した。
 これからは3人一緒の冒険が始まる。

 迷宮都市で早くLvを30まで上げて、マンションを取り戻すぞ!

 あぁどうかPCの中身が無事である事を願わずにはいられない……。

 --------------------------------------
 お気に入り登録をして下さった方、エールを送って下さった方とても感謝しています。
 読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。
 応援して下さる皆様がいて大変励みになっています。
 これからもよろしくお願い致します。
 --------------------------------------
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

断罪されているのは私の妻なんですが?

すずまる
恋愛
 仕事の都合もあり王家のパーティーに遅れて会場入りすると何やら第一王子殿下が群衆の中の1人を指差し叫んでいた。 「貴様の様に地味なくせに身分とプライドだけは高い女は王太子である俺の婚約者に相応しくない!俺にはこのジャスミンの様に可憐で美しい女性こそが似合うのだ!しかも貴様はジャスミンの美貌に嫉妬して彼女を虐めていたと聞いている!貴様との婚約などこの場で破棄してくれるわ!」  ん?第一王子殿下に婚約者なんていたか?  そう思い指さされていた女性を見ると⋯⋯? *-=-*-=-*-=-*-=-* 本編は1話完結です‪(꒪ㅂ꒪)‬ …が、設定ゆるゆる過ぎたと反省したのでちょっと色付けを鋭意執筆中(; ̄∀ ̄)スミマセン

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

そんなに幼馴染の事が好きなら、婚約者なんていなくてもいいのですね?

新野乃花(大舟)
恋愛
レベック第一王子と婚約関係にあった、貴族令嬢シノン。その関係を手配したのはレベックの父であるユーゲント国王であり、二人の関係を心から嬉しく思っていた。しかしある日、レベックは幼馴染であるユミリアに浮気をし、シノンの事を婚約破棄の上で追放してしまう。事後報告する形であれば国王も怒りはしないだろうと甘く考えていたレベックであったものの、婚約破棄の事を知った国王は激しく憤りを見せ始め…。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

ここは私の邸です。そろそろ出て行ってくれます?

藍川みいな
恋愛
「マリッサ、すまないが婚約は破棄させてもらう。俺は、運命の人を見つけたんだ!」 9年間婚約していた、デリオル様に婚約を破棄されました。運命の人とは、私の義妹のロクサーヌのようです。 そもそもデリオル様に好意を持っていないので、婚約破棄はかまいませんが、あなたには莫大な慰謝料を請求させていただきますし、借金の全額返済もしていただきます。それに、あなたが選んだロクサーヌは、令嬢ではありません。 幼い頃に両親を亡くした私は、8歳で侯爵になった。この国では、爵位を継いだ者には18歳まで後見人が必要で、ロクサーヌの父で私の叔父ドナルドが後見人として侯爵代理になった。 叔父は私を冷遇し、自分が侯爵のように振る舞って来ましたが、もうすぐ私は18歳。全てを返していただきます! 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。