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第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第208話 椎名 賢也 27 ダンジョン 地下1階 妹に車の運転を教えるが……

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 土曜日。
 沙良と一緒に教会の炊き出しに行くと、そこには女性冒険者の姿があった。

 治療のお礼にと、今回から炊き出しに参加してくれるらしい。
 4人組のパーティーが2組で、8名も手伝ってくれたお陰でかなりスムーズな受け渡しが出来る。

 お腹を空かせて待っている子供達を待たせる事なく食べさせる事が出来て、沙良は「お兄ちゃんの治療が役に立った」と嬉しそうだ。

 俺達が参加出来ない月曜日の炊き出しにも、女性冒険者が行ってくれるらしい。

 これで並んでも食べられない子供はいなくなるだろう。
 俺も怪我の治療をした甲斐かいがあった。
 
 日曜日。
 お小遣いが無いので、マイ水筒にコーヒーを入れて本屋に通う。
 沙良に値上げをお願いしたら駄目だろうか……。

 1ケ月3,000円じゃ、夜のたしなみに消えてしまう。
 しかも例の卵型の商品は使い捨てだ。
 6種類全部を試してみたいと思ったら、それだけで3,000円。

 あぁ! 
 俺の貯金が手元にあれば、こんなに悩まずに済んだのに……。

 沙良が召喚した時、財布を持っていたらと何度思った事か。
 財布には銀行のカードが入っているから、お金が自由に使えたと思うと悲しくなってくる。

 ファミリーカーで本屋に向かう途中、先週借りたDVDを返却した。
 これ、返却忘れたら延滞料金は発生するんだろうか?

 ホーム内の仕様がどうなっているのか、未だ不明な点が多い。
 一度コンビニで料金の支払いをせずにそのまま出られるか試した所、自動ドアが開かなかった。

 商品にタグは付いていない。
 何気にハイテク仕様だった。

 未払い品があると、店から出られなくなっているんだろう。
 同様に無銭飲食も出来ない。

 お金を忘れたら携帯も通じないので、店の中に永遠に閉じ込められたままだと知った時はぞっとした。

 店内の商品であれば品物を返却すれば済む話だが、食べてしまったものはどうしようも出来ない。
 2人一緒に閉じ込められたら終わりだ。

 考えたら、ものすごく怖い仕様になっている。

 そんな事を思いながら、行きつけの本屋に到着した。
 本屋で読みたい物をいくつか探して、隣接された喫茶店の席に座って読み始める。

 今日選んだ本は最新の医療雑誌とグルメ本だ。
 いつか沙良に、勤務先の病院を拠点にしてもらう心算つもりでいる。
 
 その時、医療機器が変わって使用出来ない事がないように情報を仕入れているんだ。
 新しい術式にも興味があるしな。

 ヒールでは治療出来ない病気を、日本の病院でなら治療出来るかも知れない。
 そう思うと、何があってもいいように準備が必要だ。

 現代医療の知識を持ったのが、俺1人じゃ心許こころもとないが……。
 旭がここにいれば頼もしかったろうに。
 後必要なのは、麻酔科医とオペナース。
 
 俺の知り合いを召喚したら不味いだろうなぁ~。
 沙良は一緒に冒険者をしてくれる人を召喚したいだろうし。

 Lv10毎に1人召喚出来るなら、責任が持てる身内しか難しいか……。
 しかも36歳若返るんじゃ歳が離れた双子の弟達を呼べない。

 せめて冒険者登録出来る年齢にならないと、完全にお荷物だ。

 最新の医療雑誌を読み終わり、次はグルメ雑誌だ。
 ここ数年で新しい店がどんどん増えている。

 沙良のLvが上がれば、ホーム内の移動出来る範囲が増えるので今からリサーチだ。

 気が早いって?
 見るだけならタダだから良いんだよ。

 沙良は今日お気に入りの喫茶店に、生クリーム大盛のウインナーコーヒーを飲みに行くらしい。
 俺とは違って、購入した・・・・本を持って出かけている。

 あいつはホーム内でもほとんどお金を使わないから、お小遣いも余っているんだろう。
 
 あぁそうだ、沙良に車の運転の仕方を教えよう。
 帰ったら早速さっそく練習だな。

 俺はグルメ本を見ながら、行きたい店をいくつかスマホに登録する。
 Lvが上がる頃に店が潰れてなければ良いんだが……。

 自宅に帰宅すると沙良も帰ってきていたので、車を運転してみないかと提案した。
 沙良はやってみたいと嬉しそうだったので、これで外食時に酒が飲めると内心でほくそ笑む。

 夕食まで2時間程あったので、近くにある自動車学校まで俺が運転して連れていく。

 沙良に運転席に座ってもらい車の運転のいろはを教えていった。
 正確には無免許運転になってしまうが、ホーム内であれば問題ない。
 ここには俺達しかいないからな。

 ファミリーカーはオートマだったので、そう難しい作業は要らないはずだ。 

 2時間後――。
 俺は何度も死にそうな目にあった。

 運転しているのは、教習所の車じゃなく一般のファミリーカーだったので助手席にブレーキは無い。

 沙良の運転で帰るのは無理そうだ。
 あきらめよう……。

 何度もアクセル・・・・ブレーキ・・・・を間違えるなんて、どんな才能だ!

「沙良、お前に車の運転は無理だ。大人しく助手席に乗っていてくれ」

「……はい」

 本人も自覚があったのか、沙良は俺の言葉に小さくうなずいただけだった。
  
 月曜日。
 今日から5日間、ダンジョン攻略の開始だ。

 冒険者ギルド前から乗合馬車に乗る時に、注意深く後方を見るが今日は知らない人間はいなかった。 

 だがまだ安心は出来ない。

 ダンジョンに入り、道中の魔物を狩りながら安全地帯に到着。
 ここでもテントの数と見知らぬ冒険者がいないか確認する。

 大丈夫、いつものメンバーだ。

 その後5日間、不審な接触は無かった。
 
 冒険者ギルドで換金後、ギルドを出た直後から知らない人間に後を付けられていた。

 沙良はホームに帰る時、マッピングを使用して人が居ない所を探しているので、当然不審人物が居ない方向へ進む。

 そして人が居ない事を確認したら、一瞬で転移する。
 後を付けていた人物は、突然俺達の姿が見えなくなってあわてているだろう。

 まだあきらめていないのか……。
 今度は冒険者じゃなさそうだ。

 その手の仕事を生業なりわいにしているやつだと、少し厄介やっかいだな。
 
 今回は俺達を見失なっただけで済んだが、移転の能力を知られるのは非常に不味まずい。
 売られる先が娼館から、たちが悪い貴族のもとになりそうだ。

 自室に戻って今後の事を考える。

 奴隷商は頭の悪い馬鹿の方だった。
 損得勘定も、欲にられて出来ないらしい。

 まだあきらめていない所を見ると、来週は本格的に誘拐してきそうだ。
 そもそも移転出来る沙良を誘拐する方法なんてない。

 連れ去られようとした瞬間に逃げるだろう。
 マッピングで見ているので、俺達に近付く事も無理だ。

 だが、周りをウロウロされるのは困る。
 さっきの男は、依頼を遂行するまであきらめないだろうな。

 やはり奴隷商を潰した方が、後顧こうこうれいがないか……。

 問題は沙良と別行動になる方法だ。
 どうにか俺1人で動ける状態にしないと。

 さて、何と言ったら1人になれるだろう。
 今までずっと一緒に行動してきたので、どう言った所で疑問を持たれる事になる。

 何か良い方法はないか……。
 そんな事を考えながら眠りにいた。

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