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第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第207話 椎名 賢也 26 ダンジョン 地下1階 奴隷商への警告

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 幸せな気分で寝る事が出来た翌日から、またダンジョン攻略だ。

 月曜日の夜9時。
 冒険者ギルド前から乗合馬車に乗ってダンジョンへ向かう。

 俺達の2台後ろに乗った、男性4人組の冒険者は見た事が無い。
 夜間にダンジョン攻略をする男性冒険者の人数はとても少ないので、知らない顔は直ぐに分かる。

 これは沙良が奴隷商に目を付けられたかも知れない。
 
 ダンジョン前に到着後、入場料を銀貨1枚(1万円)払って中に入っていく。
 沙良は今日も絶好調で、覚えたばかりの魔法を使用して魔物を狩っている。

 楽しそうで良いんだが、お兄ちゃんはお前の容姿が悪人ホイホイになっているかと思うと気が気じゃないよ。

 何事も無く安全地帯に到着すると、いつもの場所にマジックテントを設置する。
 この頃になると、女性冒険者とも顔なじみになって挨拶を交わすようになった。

 俺が地下1階のダンジョン価格ではなく、通常の該当ポーションの値段で治療を行っている事も大きいのだろう。

 女性冒険者達は俺達に好意的だった。
 沙良が自分達より小さな子供に見えるのか、守ろうとしてくれているみたいだ。

 テント内に入りホームの自宅でトイレ&休憩。

 テントから出ると、先程の4人組男性冒険者がこちらの様子をうかがっている。
 これはビンゴだな。

 沙良よ、なんで美少女の姿に変わってしまったんだ。
 心配し過ぎて胃が痛くなってきた……。

 これから何人の悪党共を退治する事になるのか、想像するだけでゲンナリする。
 
 確かに妹は並外れて綺麗だ。
 元公爵令嬢の容姿は、年齢を重ねて更にみがかれている。

 日本製の基礎化粧品を使用しているお陰か、肌もぷるんとしているしポニーテールにして結んでいる金髪も艶々つやつやで天使の輪が見える。

 奴隷商が目を付けるのも当然だろう。
 しかも俺達は2人パーティーで年齢も若い。

 簡単に誘拐出来ると踏んで冒険者に依頼してるのか……。

 その依頼料は相当高くつくぞ!
 俺は絶対、妹を渡したりなんかしないからな!

 2度目のダンジョン攻略を開始。

 沙良がマッピングを使用して、人がいない場所に駆け出す。
 こちらの様子を見ていた4人組も、あわてて後を追ってきた。

 無駄な事を……。

 俺は見かけたリザードマンを瞬殺すると、沙良が槍で頸動脈けいどうみゃくを刺しアイテムBOXに収納する。
  
 その間、約30秒。
 こんな速度で攻略する人間の後を、付いてこられる訳が無い。

 既に沙良は、マッピングで次の魔物を見付けて走り出しているしな。
 俺はもう地下1階の地図を頭に叩き込んでいるので、沙良の後を付いていっても何処どこにいるか分かっている。

 迷路状のダンジョンの中を、魔物を探しながらウロウロしている時間は全く無い。
 縦横無尽じゅうおうむじんに駆けまわり、換金額の高いリザードマンとボアを優先的に狩っていくんだ。

 効率を重視しているため、移動距離は相当な物になっている。
 
 3時間後、安全地帯に戻るとテント前に怪我人がいたので治療した。
 テントの中に入ってホーム内の自宅に戻る。

 今日も沙良の作った美味しいお弁当を食べる。
 おかずは、肉の量が倍増された肉じゃがとだし巻き卵に小松菜と厚揚げの煮びたしだった。
 
 なめこの味噌汁と一緒に大盛のご飯を完食する。
 もう嫁は要らないな……。

 テントから出て最後の攻略開始。
 後を付いてきた冒険者達は、自分達のテント前で食事の準備をしていた。

 俺達は、お弁当を食べるので食事の準備をする時間は必要ない。
 テントから出て直ぐに攻略へ向かう俺達を、4人組は唖然あぜんとして見ていた。

 本日最後の攻略を終えて安全地帯に戻ってくる。
 テントの中に入ってホームの自宅でトイレ休憩。

 外に出て近くにいる女性冒険者達と、紅茶を飲みながら話をしていると4人組が撤収の準備を始めた。

 これは冒険者ギルドの近くで待ち伏せする気だな?
 お前達の思い通りにはさせない……。

 沙良は本当に何も気がついていないようで、女性冒険者とドライフルーツを一緒に食べている。
 もう少し危機感を持ってほしい所だが、どこかのほほんとしている妹には無理だろう。

 実際、日本に居た頃も子供の頃に何度か誘拐されかけたしな。
 しかも異世界じゃ容姿が更にグレードアップしている。

 あぁ、また今日も人を傷つける事になるのかと重い溜息を吐く。
 覚悟は決めていたが、実際に手を下すのは気分のよいものじゃない。

 紅茶を飲み終わり、俺達もダンジョンを後にした。

 乗合馬車で冒険者ギルド前に到着。
 換金作業を終えると、冒険者ギルドから出て路地裏に歩いていく。
 
 やはり、4人組冒険者が待ち伏せしていた。

 俺は沙良に接触される前に、遠距離からライトボールを針のように出して延髄えんずいを刺した。
 4人が全員、一瞬硬直したように動かなくなりその場で崩れ落ちる。

 俺はその様子を遠目で確認してから、沙良の後を振り返る事なく歩き出した。
 
 今回は全身麻痺の状態で口がけるようにしておいた。
 依頼した奴隷商も、何があったか話を聞きたいだろうと思っての事だ。

 前回は話す事が出来ない状態にしたから、何があったか分からないままで次を送ってきたんだろう。

 少なくとも、狙っていた人間の近くに居た事は今回伝わるはずだ。
 依頼した冒険者8名全員が同じ状態になれば、余程の馬鹿じゃない限り沙良には護衛が付いていると思うだろう。

 護衛の居る人間を、リスクを犯してまで誘拐するメリットは無い。
 既に2回の依頼料は支払い済で、採算が合わないと思ってくれたら良いんだが……。
 
 支払った分の元を取ろうとする、頭の悪いやつじゃない事を願うよ。

 今日の換金も、かなりの金額になって沙良は満足そうにニコニコしている。
 その影で沙良を狙っていた4人組冒険者達に、俺が手を下した事は一生秘密だ。 

 お前は何も知らないままで良い。
 俺がその笑顔を守り抜くだけの事だ。

 もし次回があったなら、馬鹿な奴隷商を潰してやるさ。

 ホームの自宅に帰り熱い風呂に入って気分を落ち着かせる。
 
 旭、俺は8人の人間に手を下した。
 こんな事、日本じゃ考えられないよな。

 普通の神経じゃ出来ないだろうと思うよ。
 俺は自分が恐ろしい。

 人はこんな簡単に一線を越えてしまえるんだ。
 今はまだ命までは取っていないが、沙良を守る為にいつか人の命を奪う事になるかも知れない。

 お前が居たら相談に乗ってもらえるのにな。
 45歳の若さで亡くなるなんて早すぎだろ。

 異世界に来て話したい事が沢山あるんだ。
 かなり長い話になると思うから、覚悟して聞いてくれよ。

 あぁ、でもお前はいいやつだったから、きっと天国に行ったか。
 俺は天国には行けないかも知れない。

 そうなると会えないかもなぁ。
 
 俺は風呂の中で誰にも言えない胸の内を、もう亡くなってしまった親友に明かす事でなんとか平静を保とうとしていた。
 
 人を傷つけた事を、何も感じない人間にはなりたくない。
 医者時代、多くの人の死を見続けたがそれとこれは違う問題だ。 

 奴隷商の店の場所は女性冒険者に教えてもらっている。
 3度目があれば、俺は奴隷商を容赦ようしゃなく潰す事になるだろう。 

 そうしないで済む事を願わずにはいられない。

 翌日。
 冒険者ギルドに行くと、昨日の4人組の事が噂になっていた。
 
 前回の4人組同様、身ぐるみがされた状態で発見されたらしい。
 何故なぜそんな事になったのか、本人達に確認したが分からないと言っているみたいだ。
 
 路地裏に居た事は、どうしてその場所にいたか答えなかったようだ。
 これで2組のパーティが全身麻痺状態になっている。
 何かの病気か、もしくは……。

 普段から余り素行が良くない冒険者達だったらしく、皆噂話をしているが心配している人間はいなかった。

 2組の冒険者の共通点を知るのは奴隷商だけだろう。
 
 その後、金曜日の攻略を終えるまで不審な接触は無かった。

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