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第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第187話 椎名 賢也 6 冒険者登録 2

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 どうかそこまで行方不明の俺を、必死に探さないでほしい。
 身内に見られるには相当痛いシロモノなので……。
 俺が遠い目をし黄昏たそがれていると、沙良が帰ってきた。

 手渡された麻製の古着を見て、やはりこれが普通の異世界転移だろうと思う。
 機械がないから、洋服は手縫いで高価な物になる。
 庶民は古着が当たり前だろう。
 新品の既製服は裕福な商人、オーダメイドの服は貴族くらいしか着られないはず
 俺はごわごわした古着の下に綿100%の下着を着て、なるべく古着が直接肌に当たらないよう着替えた。 

 元の世界の未練は家族くらいか……。
 仕事は50歳で外科部長まで務めたんだから、もう充分だろ。
 そもそも、なりたいのは弁護士だった。
 旭のために外科医を選んだが、その彼もこの世を去ってもう5年になる。
 旭、俺は第2の人生を沙良と一緒に冒険者として生きるよ。

 お前と一緒に冒険者してみたかったなぁ。
 そう出来たら、とても楽しかっただろう。
 人生の9割を親友と過ごせたのは、幸せだったと今は思える。

 さて、ようやくホームから異世界へ移転だ!
 年甲斐としがいもなく、ワクワクする気持ちをおさえきれない。
 14歳の体になり精神も若返ったのか?
 沙良が俺の手をしっかりと握った瞬間、視界がブレたと思ったら、もうそこは異世界だった。
 初めて見る町並みに俺は興味津々しんしんで辺りを見渡す。

 妹に、不審者のようだから落ち着いてと注意された。
 仕方ないじゃないか、俺は今日初めて異世界を味わっているんだから。
 昨日の召喚はノーカンだ!
 日本同様の環境で、異世界転移したとは思えないだろう?

 想像していたより、人々の容姿や恰好かっこうはまともだな。 
 沙良は人間以外の種族に会った事はないらしい。
 この世界にエルフやドワーフや獣人はいないのか……。
 
 冒険者ギルドに到着。
 登録を済ませ冒険者カードを受け取ると、やっと異世界にきたのを実感した。
 最初はF級依頼しか受けられないそうなので、肉の配達依頼を受けよう。
 沙良は近くの森へ薬草採取にいくそうだ。

 冒険者として初めての依頼だ。
 解体場から肉を受け取り、教えられた場所まで配達する。
 中学時代はサッカー部に入っていたから、足腰には自信があった。
 その日、俺は16回の依頼をこなした。

 夕方迎えにきた沙良に鉄貨16枚を見せ自慢すると、日本円で1,600円だと言われ愕然がくぜんとする。
 時給200円って、嘘だろおいっ!
 しかも肉屋から、これ以上勘弁してくれと言われたため、明日の午後は薬草採取になる。
 沙良は、半日で癒し草を10本提出し銅貨1枚の稼ぎらしい。

 いやいや1,000円じゃ生活出来ないだろ。
 衣食住が保障されているとは言え、食料には限りがあるんだ。
 詳しく話を聞くと、F級の依頼を200回受ければE級に上がり討伐依頼が受けられるようだ。
 よし、最短でE級になり討伐依頼で稼ごう。

 ひとつだけ、いい事があった。
 この世界に酒の年齢制限はないらしい。
 俺は16歳で解禁すると決めた。

 翌日から午前中は肉の配達を8回、午後からは魔力草を15本採取し、1日の収入は銅貨3枚・鉄貨8枚となった。
 その後、最短の16日目にE級へと上がり、午前・午後とも魔力草の採取へ切り替える。
 1日の収入は銅貨6枚(6,000円)。

 外科医の給料と比べるとすずめの涙程しかないが、お金を貯め防具を購入するまで我慢だ。
 沙良は1日の収入が銅貨1枚(1,000円)だから、目標金額の銀貨8枚になるまで待つ必要がある。

 そうして1ヶ月後。
 武器や防具を買いそろえ、初めての討伐依頼にいく。
 沙良は攻撃魔法を使えないから槍を武器として選んだようだ。
 俺はライトボールがあるので武器は使用せず盾を購入した。

 つのウサギが向かってくる前に、頸動脈けいどうみゃくへライトボールを当て倒す。
 魔法を初めて使用したが、とても使い勝手が良い。
 発射速度・有効射程も、Lv0の状態でこれなら文句なしだ。
 また、狙った場所にちゃんと当たるので追尾機能もある気がする。

 自分の思い描く軌道きどう通り当たるから、ひょっとして俺には魔法の才能があるかも? と思いあがってしまうのも無理はない。
 沙良はスライムを槍で突き刺し安全に倒していた。

 この日、つのウサギを20匹は狩ったが、持ち運ぶのは沙良が3匹、俺は5匹が限界だろう。
 換金出来ない分は妹のアイテムBOXに収納して、いつか換金すれば良い。
 こうして1日の収入が銀貨1枚(1万円)に上がり、月収25万、年収300万となった。

 外科医の年収から比べると10分の1程度だが、税金を引かれない分と労力を考えると、このくらいが妥当な数字と言える。
 この世界で欲しい物は今の所ないから、お金は全て沙良に管理してもらっていた。
 基本、俺達はホーム内で生活する。
 宿代や食費が掛からないため、異世界のお金はあまり必要ない。

 これ、なんてぬるい・・・異世界転移だろうか……。
 食事が不味くて困る事もなく、風呂に入れない訳でもなく、普通なら不便を感じる全てが沙良のホーム内で解消される。
 俺は異世界での生活に苦痛を感じないから、若返った分だけ寿命が延びたとおおむね満足していた。

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