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第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第174話 迷宮都市 編み物教室始めました 1

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 営業が終了した12時30分。
 今は11時頃がピークで、お昼前には売り切れるそうだ。
 『肉うどん店』に入ると、母親達は真剣な表情で編み物をしていた。
 それを隣の席に座った子供達が、じっとのぞき込み見ている。
 母親達の手元から毛糸が編みあがっていく様が珍しいのか、子供達は騒いだりせずそこから視線を動かさない。

「こんにちは。皆さん、調子はどうですか?」

 私が声を掛けると、それまで一心不乱いっしんふらんに編み物をしていた母親達が一斉に顔を上げる。
 きっと編み目が飛ばないように集中していたのだろう。
 初心者の時は、どうしても編み目が飛んでしまう事が多いから。

「オーナー! いらっしゃいませ。こちらの席に、どうぞ座って下さい」

 2つのテーブルに分かれ、編み物をしている母親の隣に席った。

「あれから毎日練習しているんですよ。初日より大分、編み目も整ってきました。見て下さい、幅も一緒です!」

 そう言いながら、編みあがったマフラーを手渡され見てみると……。
 確かに1週間前初めて編んだ物とは違い、幅は同じで編み目もそろい同じきつさで編んでいるようにみえる。
 営業が終わった午後から、店で練習していたのがよく分かる出来だ。
 でも毛糸のパンツを編んでいる時間は、なさそうなので変更しよう。

「本当に、毎日練習してくれたんですね~。皆さん上達してますよ、ありがとうございます。当初は毛糸のパンツを編もうと思っていましたが、少し時間が足りないようなので腹巻・・に変更します。マフラーと編み方(二目ゴム編み)が違うので、私が今からする見本をよく覚えて下さいね」

 マジックバッグから毛糸と棒針2本を取り出し実演してみせる。
 母親達は編み方を覚えると各自実践していった。
 毛糸のパンツだと、お腹の部分と太ももの部分で編み方も変わるし、棒針の本数も増え初心者には少し難しいかも知れないと思ったのだ。

 最初に教えたマフラーの編み方(メリアス編み)では、伸縮性がないので今回は二目ゴム編みを採用。
 子供サイズなので、そんなに時間は掛からないだろう。
 マフラーより編む量も少ないしね。
 
 手袋を準備するのは、時間的に難しいと判断し来年に変更した。
 母親達は店の営業があるし、私も月~金曜日はダンジョン攻略で忙しい。
 彼女達が編んでいる間、私は失敗した作品をほどき毛糸の再生作業をしよう。
 蒸し器で蒸した後、縮れた毛糸を伸ばしながら巻き直していく。

 しばらくすると、お店に誰かが入ってきた。
 孫を連れた老婦人が、飲食店ではなく編み物教室となっている店内を見て、目をまたたかせている。
 母親の1人が手を止めて、老婦人に対応すべく席を立った。

「お客様、申し訳ありませんが本日の営業は終了しました。当店は12時前にはメニューが売り切れてしまうので、次回お越しになる際は11時頃が良いと思います」

「おやおや、それは残念ですね。お昼は混んでいると思い、時間をずらしてきたんですよ。評判を聞き孫が食べたいと言うものだから……。ナツ君ごめんなさいね。今日はもう『ミートパスタ』は売り切れてしまったんですって、また明日お店にきましょうね」

 母親の言葉を聞き、一緒にきた孫へ老婦人が謝っていた。
 それをそばで耳にした母親は、また申し訳なさそうに答える。

「明日は店が休業日なので、月曜日にいらして下さい」

「あら、そうなんですか。じゃあ、月曜日の11時頃くる事にしましょう」
 
 2人のやり取りを聞いていた7歳くらい(男の子)のお孫さんは、楽しみにしていた『ミートパスタ』が、今日は食べられないと知り涙目になっている。

 仕舞しまいには泣き出してしまった。
 まぁ、子供に店の都合は理解出来ないだろう。
 隣で老婦人が優しくなだめているけど、男の子は泣き止まない。
 店の子供達は、それを不思議そうに見ていた。

 5歳児でも、お店の子供達はどうして食べられないか、ちゃんと理解しているからだ。
 これは育った環境が違う所為せいで、泣き出した男の子が悪いわけではない。
 よく見ると老婦人も男の子も、着ている服は古着ではなく新品の服だった。
 貴族ではなさそうだから裕福な商人の子供かな?

 老婦人は品質の良い物を身に着け、髪を一つにまとめているのは繊細せんさいなレースで出来た綺麗なリボンだ。
 ここはオーナーの出番だろうと、私は老婦人に提案をしてみた。

「お客様。もしよろしければ、お店の物とは違いますけど私の作った『ミ-トパスタ』なら、お2人分ご用意出来ます。ただし使用している材料が違うため、1人前お値段は銅貨3枚・鉄貨2枚(3,200円)となりますが、どうされますか?」 

 お店の物はファングボア銀貨3枚(3万円)の肉を使用しているけれど、私が作り置きした物はハイオーク銀貨12枚(12万円)とミノタウロス銀貨12枚(12万円)の合挽あいびき肉で作った物だ。
 飲食店で無料で食べさせる訳にはいかないし、通常値段の鉄貨8枚(800円)と同じ味と思われては困る。
 商品に対価を払うのは、商人の奥様なら理解出来ると思っての提案だ。
 こうすれば特別待遇にはならないからね。

「まぁ、良いんですか? ありがとうございます。孫がとても楽しみにしていたの。では2人分お願いしますね」

 案の定、老婦人は通常の4倍の価格を聞いても嫌な顔をせず注文してくれる。
 男の子は、食べられると分って直ぐに泣き止んだ。
 子供は単純だなぁ。
 
「はい、『ミートパスタ』2人分のご注文ですね。今から作りますので席に着いてお待ち下さい」

 母親達にはそのまま編み物を続けてもらい、私は厨房で乾燥パスタを2人分でていく。
 7分後、湯切りをしたらアイテムBOXに収納してある『ミートソース』をパスタへ掛け、更に今回はすりおろしたチーズも付けた。
 2本のスプーンとフォークを用意して、食べ方の説明をする。

なつかしい味……。もう一度、この世界・・で食べられると思ってもみなかったわ。やっぱり長生きはするものね」

 クルクルと器用に巻き付けられた『ミートパスタ』を一口食べた後、老婦人かられた一言に私は驚愕きょうがくした!

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