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第1章
第3話 てか、『好き』って、『推し』ってやつ?
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「これ『寺子屋』の『太巻先生』!? 男かよ!」
『寺子屋名探偵』とは、主人公の『太巻』という寺子屋の先生が、抜群の推理力でいろいろな事件を解決していく、という時代物ミステリーアニメだ。
「ちょっと待て、この袴の位置とか……」
「え?」
「胴が短すぎだ! 卒業式の袴女子かと思うだろ」
俺は、太巻先生の胴を指差しながら指摘した。絵の真相による動揺で、別件の動揺がだんだん引いてきた。
「……あ、確かに。アドバイスありがとう!」
素直だ。
「てか、『好き』って、『推し』ってやつ?」
「えっと、アニメの太巻先生が、私の初恋の人。
で、去年椿高で会った太巻先生が、今……私の…………好きな人なの」
伏し目がちに、はにかんだ表情。その眩さと、発言の意味のわからなさが、脳内でせめぎ合う。
「蓮君は去年の夏休み、椿高の学校説明会、行った?」
「……行ってない」
「私ね、その日、太巻先生に助けてもらったんだ」
即座に質問したいところだが、ここは黙って聞こう。
「私、その日張り切って、受付時間より三十分以上前に椿高に到着したの。
そのとき、なんか違和感あるなって思ってたら、初めての生理が来ちゃってて。生理用品持ってないし、保健室も開いてないし……で、おろおろしてたら、たまたま太巻先生が通りかかってね――」
(こいつ、アニメキャラが初恋とか、生理とか……躊躇なく話すんだな)
「それがもう、本っっ当に太巻先生なの!! 着物も髪も顔も、肌の浅黒さも、背丈も、話し方まで!
でね、その太巻先生がいろいろと察してくれて、安心ドラストで生理用品を見繕ってきてくれたの」
安心ドラストは椿高のすぐそばにある、二十四時間営業のドラッグストアだ。
「さらに、どこから持ってきてくれたのか謎なんだけど、私の中学のスカートまで用意してくれて。トイレで着替えて、無事、説明会に参加できたんだ」
(神対応がすぎるぞ、太巻先生! てか、機転利きすぎて怖ぇーよ、制服のスカートなんてどこから持ってきたんだよ?)
「でも、私がトイレから出たら、太巻先生いなくなってたの。生理用品代返してないのに。
だから説明会の後、校内を必死に探し回って、見つけたときは椿高の制服姿だったんだけど――」
「在校生だったんだ。コスプレオフ姿で、その人だってわかったのか?」
「ううん、カラコンとか髪は、そのままだったから。
でね、そのとき私、財布見たら全然お金がなかったの。そしたら先生、なんて言ったと思う?」
「後日でいいって?」
「『入学したら、返しにおいで』って。しかも、シーズン二十九、第十三話の笑顔で!」
(知らねぇよ……)
「その日から私、もう、その太巻先生の笑顔で頭がいっぱいで……!
中学で友達に話したら、『輝も〝2次元〟じゃなくて、ついに〝3次元〟に恋したんだね!』って。ふふふっ……」
(いや、『2・5次元』だろ? それ。てか、中学では友達いたんだな)
「でもね、太巻先生に、返金とお礼と……告白もしたいんだけど、全然会えなくて。
蓮君、会ったことない?」
「ない」
きっと太巻先生は漫研の人で、部活動としてコスプレをしていたのだろう。あいにく俺は、SHR終了とともに下校する帰宅部だから、放課後に部活動をしている人に出くわす機会がない。
「小石は、もう漫研訪ねた?」
『寺子屋名探偵』とは、主人公の『太巻』という寺子屋の先生が、抜群の推理力でいろいろな事件を解決していく、という時代物ミステリーアニメだ。
「ちょっと待て、この袴の位置とか……」
「え?」
「胴が短すぎだ! 卒業式の袴女子かと思うだろ」
俺は、太巻先生の胴を指差しながら指摘した。絵の真相による動揺で、別件の動揺がだんだん引いてきた。
「……あ、確かに。アドバイスありがとう!」
素直だ。
「てか、『好き』って、『推し』ってやつ?」
「えっと、アニメの太巻先生が、私の初恋の人。
で、去年椿高で会った太巻先生が、今……私の…………好きな人なの」
伏し目がちに、はにかんだ表情。その眩さと、発言の意味のわからなさが、脳内でせめぎ合う。
「蓮君は去年の夏休み、椿高の学校説明会、行った?」
「……行ってない」
「私ね、その日、太巻先生に助けてもらったんだ」
即座に質問したいところだが、ここは黙って聞こう。
「私、その日張り切って、受付時間より三十分以上前に椿高に到着したの。
そのとき、なんか違和感あるなって思ってたら、初めての生理が来ちゃってて。生理用品持ってないし、保健室も開いてないし……で、おろおろしてたら、たまたま太巻先生が通りかかってね――」
(こいつ、アニメキャラが初恋とか、生理とか……躊躇なく話すんだな)
「それがもう、本っっ当に太巻先生なの!! 着物も髪も顔も、肌の浅黒さも、背丈も、話し方まで!
でね、その太巻先生がいろいろと察してくれて、安心ドラストで生理用品を見繕ってきてくれたの」
安心ドラストは椿高のすぐそばにある、二十四時間営業のドラッグストアだ。
「さらに、どこから持ってきてくれたのか謎なんだけど、私の中学のスカートまで用意してくれて。トイレで着替えて、無事、説明会に参加できたんだ」
(神対応がすぎるぞ、太巻先生! てか、機転利きすぎて怖ぇーよ、制服のスカートなんてどこから持ってきたんだよ?)
「でも、私がトイレから出たら、太巻先生いなくなってたの。生理用品代返してないのに。
だから説明会の後、校内を必死に探し回って、見つけたときは椿高の制服姿だったんだけど――」
「在校生だったんだ。コスプレオフ姿で、その人だってわかったのか?」
「ううん、カラコンとか髪は、そのままだったから。
でね、そのとき私、財布見たら全然お金がなかったの。そしたら先生、なんて言ったと思う?」
「後日でいいって?」
「『入学したら、返しにおいで』って。しかも、シーズン二十九、第十三話の笑顔で!」
(知らねぇよ……)
「その日から私、もう、その太巻先生の笑顔で頭がいっぱいで……!
中学で友達に話したら、『輝も〝2次元〟じゃなくて、ついに〝3次元〟に恋したんだね!』って。ふふふっ……」
(いや、『2・5次元』だろ? それ。てか、中学では友達いたんだな)
「でもね、太巻先生に、返金とお礼と……告白もしたいんだけど、全然会えなくて。
蓮君、会ったことない?」
「ない」
きっと太巻先生は漫研の人で、部活動としてコスプレをしていたのだろう。あいにく俺は、SHR終了とともに下校する帰宅部だから、放課後に部活動をしている人に出くわす機会がない。
「小石は、もう漫研訪ねた?」
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