上 下
13 / 21

13. 絶体絶命パート1

しおりを挟む
 ジョゼフ王子は宮殿の自室で、優雅に足を組んでソファに座っている。王子は、ほくそ笑んでいた。

「この計画なら、あのユリーカとかいう金髪男はついてこないし、俺すげーって言われるな。我ながら、なんて策士ぶり!」

己を策士だと呼ぶ人間は、十中八九策士ではない。王子はとっくに十四歳は越えているのだが、いまだに中二病から卒業できていないらしい。


 マリーは重い足取りで宮殿へ向かった。流行遅れのワンピースの色は、金髪と青っぽい瞳を持つマリーには着こなしが難しいくすんだオリーブ色だった。靴は悪目立ちするスカイブルー色で、わざと汚れをつけておいた。
この日のために、マリーはわざわざ中古の服屋に行ってこのお宝たちを探し当てたのだった。
そのおかげで、マリーは王子の婚約者のリストから外したいくらいには、とんちんかんな格好をしていた。

 宮殿のスタッフに案内された先は、美しい庭園だった。白いテーブルには、二人分のティーセットが用意されている。ふかふかの一人用のソファが二脚、対面式に並んでいる。どうやらここで王子とお茶をするようだ。

マリーがそこに通されてからしばらく経って、ようやく王子がやってきた。

「よお、来たか。お前にいいものを食べさせてやろうと思ってな。わざわざ特別に取り寄せてやったんだぜ。ありがたく思えよ。つーか、すげえ服だな。お前のセンスはわかんねーな」

来たか、ではない。散々待たせた人間のセリフとは思えない。そんなことを言うのは王族くらいのものだ。
ああ、こいつは王子だったかと納得するマリーである。

 ようやく給仕係にお茶を淹れてもらうと、宝石箱のような豪華な箱が目の前に出てきた。中にはおもちゃのように色とりどりのお菓子が並べられている。ユリーカと一緒に訪れたお菓子屋のものだ。

「ああ、これ!ここのお菓子はおいしいですよね」
「行ったことがあるのか?」
「ありますけど?先日、学校帰りに寄りました」

王子は舌打ちした。学校の中庭でランチをしたときにマリーが行きたがっていたお菓子屋の商品を、全種類取り寄せたのだ。これでマリーに惚れられようと思っていたのだ。
当てが外れた王子は、不思議で仕方がないといった顔で、マリーに尋ねた。

「お前、なんで俺のことをぼーっと見つめないんだ?」

マリーはあやうく紅茶を口から吹きそうになった。予想していたような、いや、やっぱり斜め上の質問に、マリーはそう来たかと警戒を高めた。

「そろそろ俺に夢中なそぶりをみせてもいいだろう?いい加減、素直になれよ」

王子はソファから立ち上がると、マリーの顔の真横にドンと両手をついた。王子の両手はふかふかのソファに埋まっている。いわゆるソファどんである。

マリーは王子の脇からするっと抜けると、語気を強めて言った。

「パワハラにセクハラなんだけど!」

きょとんとする王子を見下ろしながら、マリーは続けた。
「いいえ。なんでもないです。ところで、いつそんな勘違いを?」

「勘違いだと?俺はお前を妃にするって決めたんだ。光栄に思えよ」

「あたしは聖女になると、決めたんです。あいにくですが、誰とも結婚はできません。ご存知ですよね?聖女は神様の妻としてみんなから認められる存在です」

マリーはご馳走様でしたと言うと、荷物を持って逃げるように宮殿を出た。マリーの背後から王子の声が聞こえる気がするが、マリーは振り返らない。


 宮殿の門を過ぎたところに、一人の少年が立っているのが見えた。
「あれ?ユリーカ様!?」

ユリーカはマリーに気がつくと、手を上げてほほ笑んだ。走ってきたマリーの頭をぽんと叩くと、満足そうに言った。
「心配になって迎えにきたんだ。大丈夫そうだね」

「はい!あの馬鹿王子に言ってきました。あたしは聖女になるから妃にはなれませんって」
「そんなこと言ったの?彼の場合、聖女になることを邪魔しそうだけど」
「ありえますね。どうしましょう?」

プライドの高い王子の性格を考えると、斜め上の報復をしてきそうだ。しかも確実にめんどくさいタイプのものを。

「君がこんなにも希望しているんだから、叶えてあげたいものだけどね。大丈夫。ぼくが君を守るよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

糞ゲーと言われた乙女ゲームの悪役令嬢(末席)に生まれ変わったようですが、私は断罪されずに済みました。

メカ喜楽直人
ファンタジー
物心ついた時にはヴァリは前世の記憶を持っていることに気が付いていた。国の名前や自身の家名がちょっとダジャレっぽいなとは思っていたものの特に記憶にあるでなし、中央貴族とは縁もなく、のんきに田舎暮らしを満喫していた。 だが、領地を襲った大嵐により背負った借金のカタとして、准男爵家の嫡男と婚約することになる。 ──その時、ようやく気が付いたのだ。自分が神絵師の無駄遣いとして有名なキング・オブ・糞ゲー(乙女ゲーム部門)の世界に生まれ変わっていたことを。 しかも私、ヒロインがもの凄い物好きだったら悪役令嬢になっちゃうんですけど?!

ヒロイン聖女はプロポーズしてきた王太子を蹴り飛ばす

蘧饗礪
ファンタジー
 悪役令嬢を断罪し、運命の恋の相手に膝をついて愛を告げる麗しい王太子。 お約束の展開ですか? いえいえ、現実は甘くないのです。

聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした

猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。 聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。 思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。 彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。 それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。 けれども、なにかが胸の内に燻っている。 聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。 ※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています

完)まあ!これが噂の婚約破棄ですのね!

オリハルコン陸
ファンタジー
王子が公衆の面前で婚約破棄をしました。しかし、その場に居合わせた他国の皇女に主導権を奪われてしまいました。 さあ、どうなる?

絞首刑まっしぐらの『醜い悪役令嬢』が『美しい聖女』と呼ばれるようになるまでの24時間

夕景あき
ファンタジー
ガリガリに痩せて肌も髪もボロボロの『醜い悪役令嬢』と呼ばれたオリビアは、ある日婚約者であるトムス王子と義妹のアイラの会話を聞いてしまう。義妹はオリビアが放火犯だとトムス王子に訴え、トムス王子はそれを信じオリビアを明日の卒業パーティーで断罪して婚約破棄するという。 卒業パーティーまで、残り時間は24時間!! 果たしてオリビアは放火犯の冤罪で断罪され絞首刑となる運命から、逃れることが出来るのか!?

おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます

ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。 そして前世の私は… ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。 サロン勤めで拘束時間は長く、休みもなかなか取れずに働きに働いた結果。 貯金残高はビックリするほど貯まってたけど、使う時間もないまま転生してた。 そして通勤の電車の中で暇つぶしに、ちょろーっとだけ遊んでいた乙女ゲームの世界に転生したっぽい? あんまり内容覚えてないけど… 悪役令嬢がムチムチしてたのだけは許せなかった! さぁ、お嬢様。 私のゴットハンドを堪能してくださいませ? ******************** 初投稿です。 転生侍女シリーズ第一弾。 短編全4話で、投稿予約済みです。

乙女ゲームの断罪シーンの夢を見たのでとりあえず王子を平手打ちしたら夢じゃなかった

恋愛
気が付くとそこは知らないパーティー会場だった。 そこへ入場してきたのは"ビッターバター"王国の王子と、エスコートされた男爵令嬢。 ビッターバターという変な国名を聞いてここがゲームと同じ世界の夢だと気付く。 夢ならいいんじゃない?と王子の顔を平手打ちしようと思った令嬢のお話。  四話構成です。 ※ラテ令嬢の独り言がかなり多いです! お気に入り登録していただけると嬉しいです。 暇つぶしにでもなれば……! 思いつきと勢いで書いたものなので名前が適当&名無しなのでご了承下さい。 一度でもふっと笑ってもらえたら嬉しいです。

悪役令嬢は所詮悪役令嬢

白雪の雫
ファンタジー
「アネット=アンダーソン!貴女の私に対する仕打ちは到底許されるものではありません!殿下、どうかあの平民の女に頭を下げるように言って下さいませ!」 魔力に秀でているという理由で聖女に選ばれてしまったアネットは、平民であるにも関わらず公爵令嬢にして王太子殿下の婚約者である自分を階段から突き落とそうとしただの、冬の池に突き落として凍死させようとしただの、魔物を操って殺そうとしただの──・・・。 リリスが言っている事は全て彼女達による自作自演だ。というより、ゲームの中でリリスがヒロインであるアネットに対して行っていた所業である。 愛しいリリスに縋られたものだから男としての株を上げたい王太子は、アネットが無実だと分かった上で彼女を断罪しようとするのだが、そこに父親である国王と教皇、そして聖女の夫がやって来る──・・・。 悪役令嬢がいい子ちゃん、ヒロインが脳内お花畑のビッチヒドインで『ざまぁ』されるのが多いので、逆にしたらどうなるのか?という思い付きで浮かんだ話です。

処理中です...