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27. 10月29日 ペニーパーク

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 わたしはまぶしい朝の陽射しに顔をしかめながら、ついにベッドから起き上がった。昨日までは雨だったのに、どうして今日はこんなに気持ちのいい晴れなのかしら?今日はジムも公園に来るだろう。

 重い足取りでペニーパークに歩いていくと、すでにジムはわたしを待っていた。わたしを見つけると、さっと手を振った。

「おはよう。君に会うのが待ちきれなくて、今日の晴れをずっと心待ちにしていたよ」

「まあ、ありがとう。今日はまさに散歩日和よね」

わたしたちはペニーパークをゆっくりと歩き、公園内のボートハウスへと向かった。ボートハウスは歩き疲れた客でごった返している。朝の光が燦々と室内に降り注ぎ、いつ来ても気持ちのいい場所だ。

 空いている席を見つけ、ジムは言う。
「飲み物を買ってくるけど、紅茶でいい?ここで座って待っていてよ」

わたしは頷くと、ジムを待っている間に窓からボート遊びを楽しむ人々を眺める。一組の男女が目に留まった。
身なりのいい男性がボートを漕ぎ、白いドレスを着た女性はうっとりと正面の男性を見つめては、ときおり笑い声をあげているのがわかる。二人とも幸福そうだ。きっと愛し合う男女はああいうものなのだろう。

行きたい場所にどこでも連れて行ってくれると、ヘンリーと食事をした晩に言われたことを思い出した。
わたしは想像した。あのボートにヘンリーと乗っている姿を。ヘンリーは白いシャツを着て、腕は肘までまくり上げている。うっすら汗ばんだ首筋には彼の黒い髪の毛が一房貼りついている。印象的な青い瞳は力強くも熱を帯び、わたしが笑う姿を穏やかな表情で見守っている。
わたしは急にどきどきしてきて、胸がきゅっと締め付けられた。一組のカップルから、自分の手袋をはめた両手に視線を落とした。


 「ずいぶん時間がかかってしまったよ。今日はこの天気だから、列が混んでいて。ほら、紅茶をどうぞ」
ジムが二人分の紅茶を持ってわたしの正面の席に着いた。ジムの穏やかな茶色い瞳には情熱を感じないけれど、温かさと優しさがにじみ出ている。

 ジムは一昨日のディナーのあとで父さんたちと話した内容をわたしに聞かせた。
「君のご実家と契約をすることになった。君のおかげだ」

「あなたの実力よ。あなたのおかげで、うちは救われたの。わたしこそお礼を言うわ。ありがとう、ジム」

「アリーがしたことを聞いたよ。君は大したものだ。商会の数字なんて見たことなかったんだろう?それなのにしっかりと分析し、新規取引先まで見つけてきたんだ。君って才能あるんじゃない?」と言って、ジムは紅茶にレモンを入れながら笑う。

「あら、ありがとう。だけど本当にジムの助言のおかげなの。パーティーであなたに会わなかったら、わたしは何も思いつかなかったし、家族に伝えるときもあなたに背中を教えてもらったわ。あなたがうちの魔法税理士になってくれたら、特に兄さんは喜ぶわ」

ジムは嬉しそうに「そうかな?」と言って、紅茶を飲んだ。

「ねえ、俺は本当に君にお礼がしたいんだ」
ジムは茶色い瞳をまっすぐこちらに向けた。
「アリーはほしいものはない?」

「いいのよ、本当に気にしないで」

最近、贈り物をもらう機会が多い。家族からは素敵なドレスを用意してもらったし、ヘンリーには愛らしい花束をもらった。ヘンリーとディナーを楽しんだときのことを思い出す。花束があんなに嬉しい贈り物だとは知らなかった。今も部屋に飾って、毎日水を取り替えている。

「アリー?」

呼ばれた方向に顔を上げると、ジムの顔が不安そうにわたしをのぞき込んでいた。

「え?ごめんさい。なにかしら?」

「例えばどうだろう。先祖代々の宝石とか、指輪とか」
そう言って、ジムはテーブル越しにわたしの手に触れた。

一瞬、ジムがヘンリーと重なった。また胸がきゅっと締め付けられる。だけど目の前の人物がジムだとわかると、わたしはちょっとだけ落胆した。手袋越しにジムが手に力を込めた。

「そんな大切なもの、もらえないわ。これからたくさんお世話になるもの。本当にいいのよ」わたしはそっと手をひっこめた。

 ジムはショックを受けた顔をした。
「なあ、アリー。聞いてほしい。俺は君のその控えめでかわいらしいところが気に入っているんだ。俺は大富豪じゃないし継ぐ爵位もないけど、君のことをずっと大切にするし、穏やかな暮らしを保証するよ」

わたしは頭が真っ白になった。数日前に公園で一緒に歩いていた女性はどうしたのだろう?
ヘンリーに会いたい。わたしは突如生まれた自分の場違いな欲望に気がつくと、一つの結論にたどり着いた。わたしはヘンリーが好きなのだ。
わたしは変なことを口走ってしまう前に、いかにも令嬢っぽい口調でジムに伝えた。

「あなたにそんな風に言っていただけるなんて光栄だわ」

「あ、ああ。君はかわいい人だよ」

「まあ、ありがとう。心を落ち着かせたいの。少しの間、化粧室に行ってもいいかしら?」
わたしは目をぱちぱちさせ、特大級のほほ笑みを顔に貼りつけた。手に変な汗をかいている。家に帰ったら、手袋を手入れしないといけないだろう。

「もちろんだ」
ジムは席を立って、わたしが立ち上がるのを手伝ってくれた。わたしはドレスで許されるぎりぎりの速度でまっすぐに化粧室へ向かった。


 わたしは化粧室に入るとすぐに、きつい手袋を外すと勢いよく蛇口を回して手を洗った。水の冷たさに、少しずつ熱が冷めていくみたいだ。
ジムは真面目で優しい人柄だ。だから、彼が言ったように穏やかに暮らしていけるだろう。確かにそれは結婚生活において重要な要素だ。だけど自分の気持ちを知った今となっては、穏やかなだけの結婚生活なんてあまりにむなしい日々だろう。

おっと、いい加減に席に戻らないとジムが怪しむ。
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