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14. 9月26日 ホームズ家の書斎

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 ジムに招待されたディナーの翌日、ホームズ商会を存続させる方法をどうやって家族に伝えるか、わたしは思案していた。

昼前になってようやく決心がついて、書斎へ向かった。

「兄さん、入ってもいい?」
わたしはドアをノックすると、声をかけた。

「ああ、アリー。どうしたんだ?入ってくれ」
兄さんは眼鏡を外し、こめかみを押さえている。相当疲れているようだ。

「疲れているみたい。調子はどう?」

「まずまずと言いたいところだけど、確かに疲れているな」
兄さんはわたしに椅子をすすめた。

わたしは椅子に座ると深呼吸をし、単刀直入に切り出した。

「数日前この部屋の前を通りかかったとき、兄さんが父さんと話している会話が聞こえたのよ。諸々の支払いが遅れてるんでしょう?」

兄さんは気まずい顔をして説明をした。その声は弱々しかった。
「ああ、聞いてしまったんだな。迷惑をかけてすまないね。大丈夫だと言いたいが、このままでは最悪の事態を免れないだろうな」

「倒産ね」と言って、わたしはうつむいた。

「ああ、そうだな」兄さんの声は今にも消えそうだ。

沈黙が痛い。わたしは兄さんの顔を見て覚悟を決めると、一気に喋った。

「兄さんたちの話を聞いた日から、わたしなりに考えてみたの。パーティーで魔法専門の税理士に会ったのよ。情報を集めてみたの。倒産する典型的なケースを聞いたら、ホームズ商会はまさに当てはまっていた。
それで、この部屋にあった帳簿を確認させてもらったわ。おじい様の日誌も持ち出して読んだの。勝手にごめんなさい。でも必要なことだった。
ここ数日、販売先を増やすために王都の色々なお店を回って、わたしなりに調査もしたわ。
それでね、どうしたらホームズ商会は倒産しないで済むか、考えた」

兄さんは終始ぽかんと口をあけていたけど、わたしは気にせず、最後までわたしの提案を一気にまくし立てた。

 わたしは説明を終えると、息を吐いて、それから兄さんをおそるおそる見上げた。
兄さんはさっきまでの疲労はどこへ行ったのか、「希望が見えた気がする」と言って父さんを探しに書斎から飛び出していった。

このまま二人が来るのを待っていた方がいいのだろう。まるでテストを受け終わった直後のように、やりきった気持ちだ。あとは採点結果を待つのみ。
わたしは「疲れた」とつぶやき、天井を仰いだ。天井に飾られている宗教画の天使と目が合った。

「あんた、ちゃんと応援しなさいよね」と、天使に向かって声をかける。


間もなく父さんと兄さんが書斎に入ってきて、何時間も三人で詳しい数字や計画を話し合った。

父さんが計算の確認を終えて「問題なさそうだな」と言った。
父さんって能力はあるんだけど、事業に対する情熱が足りない。兄さんのエディに任せてさっさと引退しちゃったし。

 兄さんはため息をついて言った。
「アリー、君が女の子なんて本当にもったいないよ」

「その言葉、わたしが言われる日が来るなんて思いもしなかったわ。クラスメイトたちが先生やご家族に散々言われてきた言葉よ」

わたしの学生時代は、優秀な生徒と比べて全く目立たないものだった。まさか自分がそんな言葉をかけられるなんて、人生どうなるかわからないものだ。すっごく、変な気分だ。

兄さんに続けて父さんが言った。
「マーガレットフィル記念女学院は優秀なレディを輩出している学校だ。
アリー、君は才能に似合う努力ができる子だ。マーガレットフィルが誇る、立派な卒業生だよ」
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