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4. 6月15日 ホームズ家のドローイングルーム(居間)

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 散々なお茶会に懲りてしばらく家に引きこもっていたわたしは、姪の遊び相手になったり、ルーシーが送ってくる彼女自身の小説が掲載された雑誌を斜め読んだりしながら過ごし、気がつけば初夏を過ぎていた。

社交の場に出るにしても着ていく服もないし、何度も同じドレスを着るわけにはいかないのだから、家にいるのが都合がいい。
そう、社交にはそれなりの金額が必要なのだ。


 ドローイングルーム居間でいつもの薄い紅茶を飲んでいたときだった。
ラジオから三ヶ月ぶりに騎士団が戻ってきたというニュースが流れてきた。
兄さんは思わず「ボリュームを上げてくれ」と声を張り上げ、執事はびっくりしてすぐに音量を上げた。


「騎士団の中でも生え抜きの、暴れ大ダコの討伐隊三十人がフィンチシブ海から帰還しました。
今日未明、オニキザンローラ州の先端にある観測台から騎士団の船が発見されたということです。
クローリル川を南下し、現在は王都パールモルネに入り、王宮に向かっている模様です。

続いてのニュースです――」


「ヘンリーが帰還したようだ」兄さんはわたしに視線を投げた。
「ええ、そうね」と、わたしはつぶやいた。

ついにこの日が来てしまった。わたしたちは家同士が決めた結婚をする予定だった。ヘンリーはわたしに好意がないし、わたしは結婚式をドタキャンされたことで、結婚への憧れがすっかり消えてしまっていた。

「王都に着いたと言っていたな。私が王宮の周りを観てこようか」

このまま家にいても義姉に愚痴られることは日の目にも明らかだ。
「兄さん、わたしも行くわ。乗馬服に着替えてくる」


 王宮が近づくにつれ、わたしたちと同じように騎士団の帰還を見物しにきた貴族たちのペガサスが上空を占め、地上は魔法が使えない市民たちが集まっていた。

「ぎりぎり間に合ったようだな」ちょうど騎士団が到着したようだ。

わたしは騎士団の数を数えはじめた。
「もう十六人が通ったけど、まだそれらしき人物はいないわ」

ヘンリーの特徴は、ひょろひょろと細く、黒髪に、青い目。最後に会ったときは、もさ苦しい前髪に隠れて青い目はちらりとしか見えなかった。
だけど、髪型なんて三ヶ月も経てば変わっているかもしれない。

「帰還した騎士団はこれで全員のようだな。私はヘンリーを見つけられなかったよ。まあ、視力が悪いからな」

「わたしもよ。だけど騎士団はあと一人足りないわ。二十九人しかいなかった。ラジオでは、帰還した騎士団は三十人と言っていたのよ」

「数え間違いじゃないのか?」

「そうかもしれないわ」
会ったところでどうすればいいのか、正直なところ自分自身でもわかならい。

「きっと見逃してしまったんだ。気を取り直して、さあ帰ろう」


 家に着いて、両開きの玄関ドアを開けると、執事がちょうど立っていた。
「おかえりなさいませ。魔法電報が届きました」

「魔法電報とはめずらしいね」と言いながら、兄さんはそれを受け取った。

 ホームズ家の玄関は、白と黒のタイルの先に書斎のドアが見える。右手にはアーチから広間につながっている。左手にはドローイングルーム居間があり、ちょうど義姉のキティが出てきた。
玄関から続くゲートには父さんが集めたアートがセンスよく飾られているが、花が生けられていない花瓶はホームズ家の生活の苦しさを物語っている。


 「ヘンリーは行方不明になったそうだ」
電報を読んだ兄さんの声は震えていた。

紙をわたしに手渡してきたので、きっちり三回読むと、震える手で紙を折って執事に預けた。

ヘンリーとは二回しか会ったことがないし、正直悪い印象しかない。だが、それでも家族になる予定だった人物だ。
やっぱり無事に帰ってきてほしい。


 ちょうど外出から戻ってきた父さんに、わたしたちは得たばかりの事実を話した。
すぐに父さんとわたしは電報を打った騎士団の本部へ飛び、詳しい情報を聞き出した。

「ラジオはお聞きになりましたか?
先ほど、ここ王都パールモルネに騎士団が帰還しましたが、全員というわけにはいきませんでした。若きクラーク公爵は厳しいフィンチシブ海での暴れ大ダコの討伐任務中に、行方不明になったそうです」

「そんな」痛ましい沈黙が続く。

「隊員二十九人で捜索したそうですが、見つかりませんでした。
捜索専門部隊を派遣してこれからクラーク卿の捜索に当たりますが、無事に見つけられるかは疑わしいところでしょう」

ヘンリーが無事に帰ってくる可能性はいかほどだろうか。


 帰りに教会に寄って、父さんとヘンリーの無事を祈った。
「どうかご無事で」
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