隠恋慕

かよ太

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01(完)

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「あれ、君島(きみしま)……?」

昼休み。部室に入ろうとして先客がいたことに早瀬悠生(はやせゆうき)は驚いた。
たしか今日の昼練はなかったはずだ。

君島と呼ばれた生徒は、制服のまま机にむかって書き物をしていた。
彼は数枚の紙とペンを持ったまま、自分を呼んだ人物を見た。

「なんで部室にいんの」
早瀬は、左右を見渡しながら部室に入る。
君島とは同じ部活で同学年だったけれど、実はあまりしゃべったことがなかった。
あまり感情を表に出さない君島のことが苦手だったからだ。
少々挙動不審になりながらも、二人きりしかいないこの場をどうするか考えていると、君島が呆れた顔をした。

「俺はここの部員なんだが」
「そ、そうだけど。お昼休みに部室になんの用事があるのかってこと!」
「おまえはどうなんだ」
「へっ?」
「おまえこそなんの用だ」
じっと見てくるそのまなざしが怖い。こういうところもあわせて君島が苦手だった。思わず視線を逸らす。

「お、おれは」
言葉が震えている。
どうして同じ学年の男相手に、こんなに緊張しなくてはいけないんだと怒りを覚えながら勇気を振り絞って叫ぶ。

「かくれんぼしてんの!」
無性に恥ずかしかった。さっきまで隠れる気満々でクラスの奴らと楽しんでいた気分が、君島のせいでしぼみかけていた。

「鬼は誰なんだ」
「……花木(はなき)」
「あいつか。だったら、ここだとすぐ見つかるだろう」
君島は笑うことも蔑むこともなく、たんたんとそれはごもっともな意見を言う。
花木も同じサッカー部員だった。しかし、忠告すらも嫌味にしか聞こえなくて、早瀬は訳もなくムキになった。

「うるさいな、ここから出て行ってほしいならそう言えばいいだろ」
「そうはいっていない」
けんか腰になって君島の方を向くと、手にしているものが見えて「しまった」と思う。

あれはおそらく、もうすぐ大会が始まるサッカー部にとって最重要となる歴代部長に受け継がれている訓練表だった。
最新のトレーニング技術を取り入れたりと毎年同じものではなく、新たに候補を出して顧問と相談して決めていく。
去年の先輩もかなり大変そうにしていたのを思い出す。

そんな大事なことに手をつけている君島につっかかるなんて……とあわてている早瀬の目に、窓に花木の影がついっと見えた。


■ ■ ■


「うわわ、わっ」
「早瀬……っ、」
見えないように体を低くしたため、机に足を引っかけてしまう。
助けようと手を伸ばした君島に早瀬は押し倒された。
本当はそのまま掃除用具のロッカーに入るつもりだったのが、とんだ計算違いになってしまった。

「ど、どけよっ」
押しのけようと君島の肩に力を入れるが、反対に手のひらが重くなる。
退く気配がないので早瀬は怪訝となる。

「君島……?」
腕の力を弱めて覆いかぶさってくる君島を見上げると、じっと自分の方を見ている視線とぶつかった。

「……悠生、」
いきなり名前を呼ばれて驚く。部活をしているときとは違った真剣なまなざしが、自分にむけられている。
早瀬の胸の鼓動はどんどん早くなり、ゆっくりと君島が近づいてくるのがスローモーションで見えてくる。

(君島って……まつ毛あんまりないんだ……)

「見つけたよ、悠生。なにしてるのかな?」
バタン、と大きな音でドアが解放されると、それに寄りかかって腕組みをしながら花木がにっこりとほほ笑んでいた。

「ななななっ、花木っこれは、ちが……違うんだよっ!」
君島の顔を思いきり押しかえして、下から這い出る。

「もうすぐチャイムが鳴るから、早く行こうか」
「あ、ああ、うん! そうだね!」
いつも君島に感じていた苦手意識とはべつの胸の苦しさに、どうしていいかわからない。あのままだと確実に唇がふれていたのではないのだろうか。

その続きが少しでも気になっている自分が怖かった。

「おい、」
「なあに、君島もかくれんぼしたいの」
「いや……」
「そう、部長は大変だよね」
君島の早瀬に対する想いを知ってか知らずか、嫌味を残して花木は部室のドアを閉めたのだった。




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