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何者でもない少年
別れる旅路
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グレイの手元にルーンの書が戻るのと同時、廃倉庫に大勢の足音が雪崩れ込む。
門兵であったり冒険者であったり、やって来た人種は様々。
だが、中に入って来た全員が血の海を作って倒れているメイドの亡骸とその近くにいたジーク達を見てすぐに武器を構える。
「おいおい……物凄ぇ破壊音がするっていうから来てみたら何やってんだお前ら」
「ぬぅ…これはどうしたことか」
人の間を縫ってロベドとダイムが前に出てくる。二人ともメイドの亡骸を見てどうしたら良いか困っている様子を見せる。
側から見たら暗い人のいない廃倉庫で、メイドを惨殺した集団にしか見えないのだからタチが悪い。その集団の中にジークがいる為にスタンピード時に戦った冒険者達はざわつきだす。
この状況に意を決してライルが前に出た。
「お初にお目にかかります、ダイム公」
「君は?」
「私はオフィーリア領、領主が息子ライル。貴方様にお会いする場がこのような場所になり申し訳ありません」
ライルは短剣を取り出しその柄に刻印された紋章をダイムに見せる。それを見たダイムは少し目を見開いた後、集まった者たちにここで見た事を喋らないように伝え解散させた。
(す、すげぇなライル。流石次期領主!)
(笑わない!怪しく見られるでしょ)
ジークとレイラが小さい声で話している間にロベドとダイム以外は倉庫からいなくなった。
「それで、君はこの状況について説明できるのか?ただでさえ私の領地に無断で入り、死人が出ている。その説明が」
ライルの何倍もの気迫を感じさせ格の違いを感じさせるダイム。
「はい」
だが、それに気圧されずライルは毅然と振る舞う。
「そうか、では領主邸に来たまえ。話を聞こうではないか」
「ありがとうございます」
ダイムはライルを連れ倉庫を出ていった。残るロベドは面倒くさそうな顔をしながらジークの元にやってくる。
「大胆にやらかしたなレイラがついていてどうしてこうなったんだ、全く」
「ジークを止めたんだけど突っ込んで行っちゃったから……」
「まぁそんなとこだよな。よし、帰るぞ」
ロベドはジーク達を強制的に倉庫から連れ出す。それと入れ替えで外に待機していたダイムの兵が中に入る。
路地裏を抜け、大通りを歩きジーク達の家に到着する。冒険者が血だらけで帰ってくることもあるため住民からの視線をあまり集めなかったのは幸いだった。
『ただいま』
◇◇◇
「ふにゃぁああああ!あっ、目に染みるッ」
食卓で身体を休めるジーク、レイラ、ライラの耳に悲鳴が届く。
身体を洗うのを嫌がったネロをグレイが捕獲するのに時間がかかり二人が最後に入ることとなった。
しばらく聞こえていた悲鳴も聞こえなくなり、体から湯気を出すグレイと不貞腐れているネロが出て来た。
その毛並みは艶々しており、心なしかグレイの顔は晴れやかなものになっている。
何があったのか皆聞かないのはネロの尊厳を守るためだ。最初にモフッた時から尻尾を触らせなかったネロだが、逃げられない狭い空間ではなす術がなかった。
「明日にはこの街出ようって話してたんだけど二人はどう思う?」
『賛成』
「私も。あのエルフだけどすぐには来ないはずにゃ」
「なんでそんなことわかるんだ?」
エルフの男がすぐには来ないと断言したネロに何故わかるのかとジークが疑問を投げかける。
「アイツが消えた時、匂いも気配も音もその場から消えたようだったにゃ。あの距離で間違うわけない。アイツがいた場所に変な文字が書いてあったのを見たにゃ。あれは多分、儀式魔法でどこかに転移したんだと思うにゃ」
『儀式魔法?なにそれ、教えて』
初めて聞く魔法にグレイが目を輝かせて食い入るように話を聞く。
「昔にグレイみたいに、詠唱なしで魔法を使おうとした天才が編み出した馬鹿が作った魔法、それが儀式魔法にゃ」
「へぇ、凄いじゃない」
「でも、大きな欠点があった。大量の魔力と場所を選ぶこと。詠唱の代わりにその場所に文字を刻んで何十人っていう魔力を全て注ぎ込まないと発動できないのにゃ」
(ルーンと似てるけど場所はどこでも使えるから使い道がなさそう)
グレイはルーンの下位互換であると儀式魔法を断じた。
「だからあのエルフも魔力がすっからかんの状態では来ないと思うにゃ」
ネロの後押しもあり、グレイ達は明日ホリックを出ることにし、明日に備えるために寝ることにした。
◇◇◇
翌朝、荷物をグレイの馬が引く荷馬車に乗せ北の門へとやって来た一行にロベド、ダイム、ライルが見送りに来ていた。
「僕は自分の領地に戻って今回の一件を父上に報告するので皆さんとはここでお別れですね。姉上、元気で」
『ライルも』
荷馬車から顔を出す形でライルと別れの挨拶を済ましたグレイを確認したライラは馬を走らせる。
次の目的地は獣王国ベスティア。
ネロの故郷へと馬は走り出す。
門兵であったり冒険者であったり、やって来た人種は様々。
だが、中に入って来た全員が血の海を作って倒れているメイドの亡骸とその近くにいたジーク達を見てすぐに武器を構える。
「おいおい……物凄ぇ破壊音がするっていうから来てみたら何やってんだお前ら」
「ぬぅ…これはどうしたことか」
人の間を縫ってロベドとダイムが前に出てくる。二人ともメイドの亡骸を見てどうしたら良いか困っている様子を見せる。
側から見たら暗い人のいない廃倉庫で、メイドを惨殺した集団にしか見えないのだからタチが悪い。その集団の中にジークがいる為にスタンピード時に戦った冒険者達はざわつきだす。
この状況に意を決してライルが前に出た。
「お初にお目にかかります、ダイム公」
「君は?」
「私はオフィーリア領、領主が息子ライル。貴方様にお会いする場がこのような場所になり申し訳ありません」
ライルは短剣を取り出しその柄に刻印された紋章をダイムに見せる。それを見たダイムは少し目を見開いた後、集まった者たちにここで見た事を喋らないように伝え解散させた。
(す、すげぇなライル。流石次期領主!)
(笑わない!怪しく見られるでしょ)
ジークとレイラが小さい声で話している間にロベドとダイム以外は倉庫からいなくなった。
「それで、君はこの状況について説明できるのか?ただでさえ私の領地に無断で入り、死人が出ている。その説明が」
ライルの何倍もの気迫を感じさせ格の違いを感じさせるダイム。
「はい」
だが、それに気圧されずライルは毅然と振る舞う。
「そうか、では領主邸に来たまえ。話を聞こうではないか」
「ありがとうございます」
ダイムはライルを連れ倉庫を出ていった。残るロベドは面倒くさそうな顔をしながらジークの元にやってくる。
「大胆にやらかしたなレイラがついていてどうしてこうなったんだ、全く」
「ジークを止めたんだけど突っ込んで行っちゃったから……」
「まぁそんなとこだよな。よし、帰るぞ」
ロベドはジーク達を強制的に倉庫から連れ出す。それと入れ替えで外に待機していたダイムの兵が中に入る。
路地裏を抜け、大通りを歩きジーク達の家に到着する。冒険者が血だらけで帰ってくることもあるため住民からの視線をあまり集めなかったのは幸いだった。
『ただいま』
◇◇◇
「ふにゃぁああああ!あっ、目に染みるッ」
食卓で身体を休めるジーク、レイラ、ライラの耳に悲鳴が届く。
身体を洗うのを嫌がったネロをグレイが捕獲するのに時間がかかり二人が最後に入ることとなった。
しばらく聞こえていた悲鳴も聞こえなくなり、体から湯気を出すグレイと不貞腐れているネロが出て来た。
その毛並みは艶々しており、心なしかグレイの顔は晴れやかなものになっている。
何があったのか皆聞かないのはネロの尊厳を守るためだ。最初にモフッた時から尻尾を触らせなかったネロだが、逃げられない狭い空間ではなす術がなかった。
「明日にはこの街出ようって話してたんだけど二人はどう思う?」
『賛成』
「私も。あのエルフだけどすぐには来ないはずにゃ」
「なんでそんなことわかるんだ?」
エルフの男がすぐには来ないと断言したネロに何故わかるのかとジークが疑問を投げかける。
「アイツが消えた時、匂いも気配も音もその場から消えたようだったにゃ。あの距離で間違うわけない。アイツがいた場所に変な文字が書いてあったのを見たにゃ。あれは多分、儀式魔法でどこかに転移したんだと思うにゃ」
『儀式魔法?なにそれ、教えて』
初めて聞く魔法にグレイが目を輝かせて食い入るように話を聞く。
「昔にグレイみたいに、詠唱なしで魔法を使おうとした天才が編み出した馬鹿が作った魔法、それが儀式魔法にゃ」
「へぇ、凄いじゃない」
「でも、大きな欠点があった。大量の魔力と場所を選ぶこと。詠唱の代わりにその場所に文字を刻んで何十人っていう魔力を全て注ぎ込まないと発動できないのにゃ」
(ルーンと似てるけど場所はどこでも使えるから使い道がなさそう)
グレイはルーンの下位互換であると儀式魔法を断じた。
「だからあのエルフも魔力がすっからかんの状態では来ないと思うにゃ」
ネロの後押しもあり、グレイ達は明日ホリックを出ることにし、明日に備えるために寝ることにした。
◇◇◇
翌朝、荷物をグレイの馬が引く荷馬車に乗せ北の門へとやって来た一行にロベド、ダイム、ライルが見送りに来ていた。
「僕は自分の領地に戻って今回の一件を父上に報告するので皆さんとはここでお別れですね。姉上、元気で」
『ライルも』
荷馬車から顔を出す形でライルと別れの挨拶を済ましたグレイを確認したライラは馬を走らせる。
次の目的地は獣王国ベスティア。
ネロの故郷へと馬は走り出す。
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