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第一章・イースター(復活祭)
十字架キッス
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教会の扉と窓から炎と噴煙が湧き上がり、聖堂内の視界は閉ざされて、球体のシールドの周辺に献花台の白い花、蝋燭、十字架、破片物が灰色の煙の渦に浮いて緩やかに流れている。
賢士とマリアは折り重なって床に倒れ込み、下のマリアが仰向けで両手を広げ、上の賢士はうつ伏せで両手を合わせて握り合い、二人の唇が密着して上から見ると綺麗に十字架の形になっていた。
『偶然とはいえ、素晴らしい』
天窓のステンドグラスから射す淡い光が時空のゾーンに重なる二人を照らし、天使は天井の柱の梁から身を乗り出して感嘆の声を上げ、賢士と唇を密着した状態のマリアも上を見て唖然とした。
『天使だ……』
賢士の顔が少し斜めって僅かに視界が開け、体をずらしてもっと見ようと試みるが、賢士は気絶した状態でマリアも身動きができない。
『これって、十字架キッス?』
マリアは賢士とのファーストキスがこれかと呆れ、目を動かして周辺を見渡し、灰色の壁に包まれた異次元に入ったのかと思った。
『騒音も風圧もシャットアウトされている。なんなのよ?』と目をパチクリさせて上に視線を戻すと、天井の天使と目が合い頭の中に声が聴こえた。
『見事に復活の試練を乗り越えたな?』
『これは……なんなのですか?』
『時の壁に守られているのさ』
マリアも声に出して喋ってはないが、心の声が天使に伝わっていると感じた。幽霊なので天使が見えて話せても不思議ではないが、状況的に全てが信じ難い。
『貴方は天使ですよね?』
『そう呼ばれているが、人間は美化し過ぎているからな。とにかく君らは賞賛に値する成果を出した。天使しか入れない時のゾーンにいる』
『教会にいた人々は無事なのですか?それにケンジは大丈夫なの?』
『時は止まっている。気にするな』
マリアは天使の返答で、父も合唱団の子供達も参列者も助かり、賢士はこの恥ずかしい状態を知らないと捉え、これが最初で最後かもしれないと、唇に神経を集中させてキスの甘い感触を味わった。
この時、金髪の天使が『人間は美化し過ぎている』と言ったように、聖堂内が惨状になっている事をマリアは想像すらしてない。
爆発の瞬間に時は止まったが、灰色の煙の下には吹き飛ばされて血を流す人々がいて、子供達と外へ逃げた者は助かったが、神父はステージ近くに倒れ込み、祭壇と棺はバラバラに破壊され、床に横たわる聖母子像へ千切れた藤倉の手が伸びていた。
賢士とマリアは折り重なって床に倒れ込み、下のマリアが仰向けで両手を広げ、上の賢士はうつ伏せで両手を合わせて握り合い、二人の唇が密着して上から見ると綺麗に十字架の形になっていた。
『偶然とはいえ、素晴らしい』
天窓のステンドグラスから射す淡い光が時空のゾーンに重なる二人を照らし、天使は天井の柱の梁から身を乗り出して感嘆の声を上げ、賢士と唇を密着した状態のマリアも上を見て唖然とした。
『天使だ……』
賢士の顔が少し斜めって僅かに視界が開け、体をずらしてもっと見ようと試みるが、賢士は気絶した状態でマリアも身動きができない。
『これって、十字架キッス?』
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『見事に復活の試練を乗り越えたな?』
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『貴方は天使ですよね?』
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『教会にいた人々は無事なのですか?それにケンジは大丈夫なの?』
『時は止まっている。気にするな』
マリアは天使の返答で、父も合唱団の子供達も参列者も助かり、賢士はこの恥ずかしい状態を知らないと捉え、これが最初で最後かもしれないと、唇に神経を集中させてキスの甘い感触を味わった。
この時、金髪の天使が『人間は美化し過ぎている』と言ったように、聖堂内が惨状になっている事をマリアは想像すらしてない。
爆発の瞬間に時は止まったが、灰色の煙の下には吹き飛ばされて血を流す人々がいて、子供達と外へ逃げた者は助かったが、神父はステージ近くに倒れ込み、祭壇と棺はバラバラに破壊され、床に横たわる聖母子像へ千切れた藤倉の手が伸びていた。
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