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第四楽章・希望

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 涼子と友太は猫の群れを引き連れて地下鉄の駅を出ると、三ツ沢上町の公園前にあるマクドナルドに入り、テラス席に座って電車の中で見た幻想的なシーンを話し合った。

「父が海に流されるのを見たよ……。きっと、港でフィールドレコーディングをする父の写真を見たからだね」

 猫たちは周辺に集まってポテトとナゲットとドリンクを白いテーブルの上に置く二人を見守り、涼子はまだ少し涙目で、電車の最後尾の車両の床に座って目を閉じ、ヘッドホンから聴こえる波の音に耳を澄ますシーンを思い起こす。

「フラッシュバックみたいに、父が学校の子供たちの歌や港の人達の話しにマイクを向け、和やかに笑ってた」

「オレには津波しか見えなかった。たぶん、心の中にあるイメージが蘇ったんだろうな」

「もしかして」

 涼子はふとテラス席の周辺で戯れる猫たちに視線を向けて、この子たちの死を想像した。黒猫は三毛猫とテーブルの下に居たが、涼子の想いを感じて隣の席に飛び上がってちょこんと座る。

「君たちもあの場所で亡くなったの?」

「うん。オレもそう思った。この猫たちはあの震災の津波で亡くなった亡霊なんだ」

「おばあちゃんが呼んだんだね。お父さん亡くなってから、おばあちゃんおかしくなったから」

「認知症だっけ?」

「うん。猫と散歩して、鳴き声に合わせて歌ったりしてた。猫を私と間違えて、話したりするんだよ」

 それを思い出したのか、涼子は涙目で笑って祖母と過ごした楽し日々を懐かしむ。

 友太はあの悲惨な光景を思い出し、暗闇の中へ落ち込みそうだったが、涼子の笑顔を見て水の底から心が浮き上がった。

『涼子は猫みたいに可愛い』

 広角を上げて鼻をツンとさせ、少し照れた感じの微笑みが悲しい心を救う。

 友太はあの日、学校の友達と丘の上へ逃げて、津波が去った後に家族全員が死んだ事を知った。そしてこっちの親戚に世話になり生活しているが、自分だけが生き残った罪悪感からずっと抜け出せずにいる。

『でも、今初めて生きてて良かったと思った』

 そう心の中で呟くと、涼子がテーブルを手で叩いてドリンクを飲み干し、リュックに残ったポテトとナゲットを詰め込んだ。

「そうと分かったら、ちゃんと最後までやらなきゃね」

 友太は涼子に恋心を読まれたかと驚き、疑問符の付いた表情で見惚れてしまう。

「なにボケーっとした顔してんのよ。君も手伝うんだぞ。分かってる?」

「うん。それで……何を?」

「だから、ミュージックよ。猫の亡霊のメロディーを私たちで奏でてあげるの」

 涼子は友太を睨んで力強く命令し、猫たちも涼子に加勢するように間近に集まり、まるで人間の言葉が分かるように睨む、黒猫も三毛猫もアビシニアンも友太の答えを待った。

「分かったから。そんな見るなよ」

 そう言い終える前に猫たちはぷいっと友太に背け、涼子と一緒に立ち上がって歩き出したので、友太は椅子からコケそうになる。

「じゃー、また明日ね。君がボケーってしてる間に、そのタブレットに私の連絡先入れといたから」

 友太は拍子抜けした感じで慌てて席を立ち、「それじゃ、また」と手を振って猫の群れを引き連れて去って行く涼子を見送った。
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