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第十章・学園での決戦
『禁断の書』本章
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「あら、国語の教師だけの事はあるじゃないの?」
江国学園長が景子を小馬鹿にした笑みを浮かべ、司祭の唱えに両手を耳に当ててうっとりと聴き惚れる。
יש מילים בהתחלה
(はじめにのロゴスありき)
「聖書って?」
「新約聖書の『ヨハネによる福音書』にロゴスありきと書いてあるのよ。『禁断の書』は創造の力を持っているのかもしれません」
久美子の質問に景子が小声で答え、江国学園長が満面の笑みで何度も頷く。
「聖書なんて、暗黒の根源を人間が書き換えたに過ぎないって事。魔王こそが創造主であり、司祭さましか呼ぶ事ができないのです~」
連は江国学園長のスピーチを聴き流し、天井の梁に隠れている四人のゴーストとフクロウのペンをチラッと見上げ、魔文字と黒い蛾に動きを封じられていると思った。
ダーク司祭は祭服に白いストールをして聖書台に『禁断の書』を置き、ページを開いては魔文字を指で払い除け、零れ落ちて床から壁や天井まで這い回る魔文字を操っている。
「種蒔きはまだ続くのですか?」
「そうね。序章のページが白紙になれば、校舎全体が暗黒の舞台に変貌し、本章が始まって魔王の世界になり、景子先生の視界もモノクロームになるわよ」
景子がお喋りな江国に質問して時間を稼ぎ、文子の手から久美子、順也へと銀色ドングリ弾をバトンしてラストランナーの連に渡る。
『チャンスは一度。MOMOEのページ』
フクロウのペンは連が校門へ入る前に空へ飛び立ち、江国が招待者に気を取れている隙に体育館の屋根を通過して、天井の梁に立つ四人のゴーストと合流した。
「屋根も天井も魔文字だらけだ」
フクロウのペンの声は片耳に入れたイヤーチップで連たちにも聴こえ、まんまるの目で見た映像は上空の空中潜水艦のモニターに映し出されている。
「まるでロゴフェスだね」
「いや、人間とゴーストの葬儀」
クルミとユカが体育館の暗黒の儀式を見て嘆き、ミチ、アキ、ナホ、ポエム、カンナもモニターの周りに集まって観ている。
四人のゴーストもフクロウのペンと一緒に体育館の天井の梁から儀式の光景を見下ろし、嘆きの言葉を交わす。
「司祭はもうこっちに気付いている」
「魔文字の結界は要塞レベルだからね」
「手出しもできないってことか?」
「残念だけど、パワーが違う」
カズ、シュン、タク、マリの盾と剣にも魔文字が湧き、手放すと天井に張り付いて武器を失うが、フクロウのペンは黒い蛾に囲まれても四人のゴーストを元気付けた。
「気にしないで。司祭の油断がぼくらのチャンスだからね」
しかし司祭は『禁断の書』の序章を終えて本章に入り、空中に魔文字が舞い上がって黒い蛾と混じり合い、ピラミッドを中心に渦巻き、洗脳者たちが恍惚の表情で見上げる。
「レン、生徒たちを見て」
「YES、完全な信者ではない」
「大人の方が騙されやすいのか?」
「でも、変貌が始まってるよ」
数十人の生徒が視線を泳がして動揺し、周辺とアリーナの洗脳者はピラミッドの上の異形の者に両手を上げて平伏す。
江国は「ふん」と鼻白み、連たちが言うように生徒の意思が乱れたが気にしなかった。
「江国学園長の方が魔王に相応しい」
「えっ……そうかしら」
景子のお世辞に江国が満更でもない笑みを浮かべた時、突然、グランド側の扉が開いて外の新鮮な空気が体育館内に流れ込んだ。
数分前、体育館の外で野上と松田は扉に蠢く魔文字に立ち尽くし、背後から迫る洗脳者に慌ててバッグを開け、Vlogカメラとシステム部が考案した抗ウイルス手袋を出す。
「急げ」
「でも、効き目はあるのですか?」
ウイルスソフトを作る過程で魔文字はラジウム光線に弱い事をゴースト職人から教わり、ラジウム金属を含ませた手袋を開発した。
「長谷部を信じるしかない。ここは俺が食い止める」
野上が抗ウイルス手袋をして魔文字の蠢くドアノブを掴んで扉を一気に開け、カメラを持った松田を体育館の中へ押し込んで扉をバタンと閉めた。
「野上さん」
松田は苦渋の表情で扉を背にし、魔文字と黒い蛾の渦巻く体育館内を眺め、アリーナ席とコートから洗脳者の視線を浴びせられ凍り付いたが、すぐにカメラを構えて儀式を撮影した。
「松田さんだ」
「よく入場できましたね」
「レン、感心してる場合じゃないぞ」
「司祭は儀式を急いでいる」
景子は松田の登場で洗脳者がざわつき始め、健吾がその中に香奈江を見つけ「おばあちゃんだ」と声をかけた。
「危ないから、離れないで」と和成と道子が健吾を止めると、香奈江は祖父母の手を握ってこっちへ近付いて来る。
景子は江国の憮然とした態度を見て、洗脳者に押さえ込まれない事を祈って動き出した。連と文子、久美子と順也も香奈江を向かい入れ湊家族を囲んで陣形を作った。
「浮いてる……」
「儀式のクライマックス」
文子と連が一歩前に出て壇上とピラミッドを注視し、フクロウのペンと四人のゴースト、松田も必死にカメラを向け、洗脳者は部外者を放置して響めく。
「ウォーー!」
司祭が禁断の書の中程のページを開き、両手を広げて異形の者を呼び寄せると、宙を浮いてピラミッドから壇上へ15メートル程飛んで移動した。
江国学園長が景子を小馬鹿にした笑みを浮かべ、司祭の唱えに両手を耳に当ててうっとりと聴き惚れる。
יש מילים בהתחלה
(はじめにのロゴスありき)
「聖書って?」
「新約聖書の『ヨハネによる福音書』にロゴスありきと書いてあるのよ。『禁断の書』は創造の力を持っているのかもしれません」
久美子の質問に景子が小声で答え、江国学園長が満面の笑みで何度も頷く。
「聖書なんて、暗黒の根源を人間が書き換えたに過ぎないって事。魔王こそが創造主であり、司祭さましか呼ぶ事ができないのです~」
連は江国学園長のスピーチを聴き流し、天井の梁に隠れている四人のゴーストとフクロウのペンをチラッと見上げ、魔文字と黒い蛾に動きを封じられていると思った。
ダーク司祭は祭服に白いストールをして聖書台に『禁断の書』を置き、ページを開いては魔文字を指で払い除け、零れ落ちて床から壁や天井まで這い回る魔文字を操っている。
「種蒔きはまだ続くのですか?」
「そうね。序章のページが白紙になれば、校舎全体が暗黒の舞台に変貌し、本章が始まって魔王の世界になり、景子先生の視界もモノクロームになるわよ」
景子がお喋りな江国に質問して時間を稼ぎ、文子の手から久美子、順也へと銀色ドングリ弾をバトンしてラストランナーの連に渡る。
『チャンスは一度。MOMOEのページ』
フクロウのペンは連が校門へ入る前に空へ飛び立ち、江国が招待者に気を取れている隙に体育館の屋根を通過して、天井の梁に立つ四人のゴーストと合流した。
「屋根も天井も魔文字だらけだ」
フクロウのペンの声は片耳に入れたイヤーチップで連たちにも聴こえ、まんまるの目で見た映像は上空の空中潜水艦のモニターに映し出されている。
「まるでロゴフェスだね」
「いや、人間とゴーストの葬儀」
クルミとユカが体育館の暗黒の儀式を見て嘆き、ミチ、アキ、ナホ、ポエム、カンナもモニターの周りに集まって観ている。
四人のゴーストもフクロウのペンと一緒に体育館の天井の梁から儀式の光景を見下ろし、嘆きの言葉を交わす。
「司祭はもうこっちに気付いている」
「魔文字の結界は要塞レベルだからね」
「手出しもできないってことか?」
「残念だけど、パワーが違う」
カズ、シュン、タク、マリの盾と剣にも魔文字が湧き、手放すと天井に張り付いて武器を失うが、フクロウのペンは黒い蛾に囲まれても四人のゴーストを元気付けた。
「気にしないで。司祭の油断がぼくらのチャンスだからね」
しかし司祭は『禁断の書』の序章を終えて本章に入り、空中に魔文字が舞い上がって黒い蛾と混じり合い、ピラミッドを中心に渦巻き、洗脳者たちが恍惚の表情で見上げる。
「レン、生徒たちを見て」
「YES、完全な信者ではない」
「大人の方が騙されやすいのか?」
「でも、変貌が始まってるよ」
数十人の生徒が視線を泳がして動揺し、周辺とアリーナの洗脳者はピラミッドの上の異形の者に両手を上げて平伏す。
江国は「ふん」と鼻白み、連たちが言うように生徒の意思が乱れたが気にしなかった。
「江国学園長の方が魔王に相応しい」
「えっ……そうかしら」
景子のお世辞に江国が満更でもない笑みを浮かべた時、突然、グランド側の扉が開いて外の新鮮な空気が体育館内に流れ込んだ。
数分前、体育館の外で野上と松田は扉に蠢く魔文字に立ち尽くし、背後から迫る洗脳者に慌ててバッグを開け、Vlogカメラとシステム部が考案した抗ウイルス手袋を出す。
「急げ」
「でも、効き目はあるのですか?」
ウイルスソフトを作る過程で魔文字はラジウム光線に弱い事をゴースト職人から教わり、ラジウム金属を含ませた手袋を開発した。
「長谷部を信じるしかない。ここは俺が食い止める」
野上が抗ウイルス手袋をして魔文字の蠢くドアノブを掴んで扉を一気に開け、カメラを持った松田を体育館の中へ押し込んで扉をバタンと閉めた。
「野上さん」
松田は苦渋の表情で扉を背にし、魔文字と黒い蛾の渦巻く体育館内を眺め、アリーナ席とコートから洗脳者の視線を浴びせられ凍り付いたが、すぐにカメラを構えて儀式を撮影した。
「松田さんだ」
「よく入場できましたね」
「レン、感心してる場合じゃないぞ」
「司祭は儀式を急いでいる」
景子は松田の登場で洗脳者がざわつき始め、健吾がその中に香奈江を見つけ「おばあちゃんだ」と声をかけた。
「危ないから、離れないで」と和成と道子が健吾を止めると、香奈江は祖父母の手を握ってこっちへ近付いて来る。
景子は江国の憮然とした態度を見て、洗脳者に押さえ込まれない事を祈って動き出した。連と文子、久美子と順也も香奈江を向かい入れ湊家族を囲んで陣形を作った。
「浮いてる……」
「儀式のクライマックス」
文子と連が一歩前に出て壇上とピラミッドを注視し、フクロウのペンと四人のゴースト、松田も必死にカメラを向け、洗脳者は部外者を放置して響めく。
「ウォーー!」
司祭が禁断の書の中程のページを開き、両手を広げて異形の者を呼び寄せると、宙を浮いてピラミッドから壇上へ15メートル程飛んで移動した。
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