ゴーストに恋して

田丸哲二

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第九章・ダーク司祭との戦い

司祭の思惑

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 渋谷『エディバー社』システム部、長谷部と角田と安川がウイルスソフトを完成させ、他社に古代ヘブライ語のバグに備えて無料ダウンロードを勧める。

 編集部では野上と深野と大塚が都内の書店に連絡し、不審な黒い本に注意するように伝え、発見したら絶対に開かずに編集部の野上宛でエディバーへ送るようにお願いした。


 そして五条駅を中心に松田と景子が電車とタクシーを利用して書店を調査し、二冊の手引書を発見してカラークリップで留め、消しゴムで魔文字を葬る。

 図書館の調査も順調に進み、順也と久美子は三冊の手引書をデリートし、連と文子も三冊デリートして街の中心地にある図書館へ向かった。

 雨が降り始め、信号待ちの歩道で文子が折り畳み傘を差し、連が中に入ってiPhoneを見て文子に伝える。

「MOMOEが六冊……」
「図書館だけで十二冊消した」
「配送車を調べた時、13個のレターボックスがあったとMOMOEが言ってたから」
「あと一冊。予想以上に順調だが……」
「うむ、嫌な予感がする」

 LINEグループに久美子と順也がこっちに向かっているとコメントがあり、魔文字バスター・チームはこの図書館に暗黒のエネルギーが漂っていると集まり始めた。

 景子と松田も駅前でタクシーに乗って行き先を告げ、車窓から雨に濡れる街並みを不安そうに眺めて運転手を急がせた。

「胸騒ぎがする。運転手さん。近道でお願いします」

 MOMOEとフクロウのペンは雨空を飛び、市立図書館の門を通って小走りで玄関口に入る連と文子、そしてバス停に降り立つ久美子と順也を眺めて、ゴーストの工房のある図書館へ急降下した。

「司祭は何を考えている?」

 MOMOEは豪邸での儀式を垣間見た時から、司祭は巧妙な手口で洗脳者を増やし、警察やマスコミに騒がれないよう、慎重に人間界のモノクローム化を進めていると思った。

「MOMOEを闇に堕としたくて、ウズウズしているのさ」
「私たちの事にも気付いている」
「フクロウのペンを奪いに来た」
「うん。ゴーストを無力化したいんだ」
「生地悪で残忍」
「根暗なストーカー」
「執念深いったらないわ」

 七人のゴーストがフクロウのペンを通じてMOMOEに警笛を鳴らす。図書館の異空間にある工房は結界のバリヤーに囲われ、異界の海の潜水艦のように移動し、司祭といえども侵入は不可能であるが、待ち伏せされるとMOMOEも入れなくなる。

「追跡される危険性があるから、通信は切るわね。MOMOE、仲間の力を信じて無理しちゃダメだよ」

 クルミの連絡を最後にそれぞれが担当機器のスイッチを切り、非常灯の薄暗い明かりの中で司祭の動きに耳を澄ます。

 MOMOEは四階のホールに降り立つと、フクロウのペンを宙に放ち司祭の位置を探らせ、自分は展示室を横切り階段を歩いて降りる。

 連と文子は一階の受付を通り、児童図書と閲覧室を見渡してから二階の一般図書コーナへ向かう。

 フクロウのペンが床を通り抜けて暗黒のエネルギーを探知し、天井すれすれを飛んで百科事典と歴史書の並ぶテーブル席の椅子に足を組んで座っている司祭を見つけた。

『司祭は三階図書コーナの奥にいるぞ』

 MOMOEと魔文字バスターのチームへ連絡し、距離を保って司祭の動向を観察すると、司祭も微笑んでフクロウのペンを見上げた。
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