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第五章・学園長の変貌
狙われた学園長
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[五条霧笛学園、学園長・湊香奈江。63歳。理事長を兼任し、教育会でも尊敬される女性として称賛されている。]
学園のホームページからコピーした顔写真に江国が書き込んだコメントであるが、それを見ながら江国はスマホを手にして湊香奈江に電話を入れ、明日の朝早めに学校で面会したいとアポを取った。
「無理言ってすいませんが、宜しくお願いします」
丁重にそう伝えたが、電話を切るとタブレットのプロフィール写真を苦々しい表情で睨み、
デスクの上に置いた黒いマスクを試しに被ってみる。
「母はよく、貴方は自慢の教え子だと自慢してたわ」
黒煙が揺らぐブワッとしたマスクは密着した箇所から皮膚質に変化し、白髪の混じった髪も再現されて、頭部から鼻まで湊香奈江とそっくりに変貌し、まだ元の唇を歪ませて江国が愚痴を呟く。
「貴方みたいに清楚で慎み深い、成功者になりなさいだって。つまり母にしたら、我が子は失敗作だったのよ」
江国は暗黒のマスクが自分の奥底に秘めた恨む辛みを呼び覚まし、毒づかせていると感じたが、それさえも至福のひと時となり、名残惜しそうに途中でマスクを脱ぎ、「明日が楽しみですわ」と呟いてタブレットの写真に手を振って画面を閉じた。
司祭は『禁断の書』を手にして、数十分前に江国の家から消え、MOMOEというゴーストを探しに行き、江国は司祭から送信されたゴーストの少女の写真を連の顔写真の隣に並べて追加してあった。
「可愛い子ね」
何故かMOMOEの髪がシルバーのミディアムヘアーから黒髪の三つ編みになり、ゴーストとは思えない生き生きとした笑顔で映っている。
「もしかして、生前の時の写真かしらね?」
湊香奈江は夫には先立たれたが、両親と息子夫婦と高級住宅地の豪邸に住み、江国が羨むのも無理のない幸せな生活を送り、学園長としても自由で心豊かな教育を理念として充実した日々を過ごしている。
「わかりました。では明日、逢うのを楽しみにしています」
江国から電話がある前に、見舞いに行った藤枝景子から江国の病状について連絡があり、明日から出勤すると聞いたので、香奈江は通常より早い時間を指定されたが快く申し出を了承した。
通路に置かれた電話で話し終えて、広いリビングへ戻ると風呂上がりの孫がソファーの周りを駆け回って、母親に「服着ないと風邪引くわよ」と怒られ、他の家族はTVを観ながら談笑している。
そこへ香奈江も加わり、通路の陰から観察していた司祭はリビングの入り口に佇み、幸せな家族の一場面を眺めて、痩せこけた顔を歪めて眼窩の奥から溢れ出る黒い涙で青いビー玉の瞳を濡らした。
『ファミリーか?』
司祭はMOMOEが隠れたと思われる場所へ行く前に、江国が嫉妬する学園長がどういう人物なのか実際に見に来たのである。
『明日、お前の幸せを破壊してやる』
頭部から足の爪先までパーフェクトに再現された司祭の体は人間には見えないが、黒い蛾は視覚化され易く、祭服の内側から一匹の蛾が舞うのを子供が見つけて立ち止まり、司祭が蛾を手で掴んで飛び去った。
その際、突然泣き出した子供を見て母親は驚き、ソファーに座った香奈江が振り返って黒い蛾の残像を微かに見る。
『何かしら……?』
司祭は眼窩の暗い奥底に僅かな記憶を残し、自分が何者であり、何故このような姿になり、闇に堕ちてしまったのかを想起し、ズキズキする苦痛と憐憫に悩まされた。
『夜の海に溺れた少年の哀しみと苦痛を全世界の人間に教えてやる』
学園のホームページからコピーした顔写真に江国が書き込んだコメントであるが、それを見ながら江国はスマホを手にして湊香奈江に電話を入れ、明日の朝早めに学校で面会したいとアポを取った。
「無理言ってすいませんが、宜しくお願いします」
丁重にそう伝えたが、電話を切るとタブレットのプロフィール写真を苦々しい表情で睨み、
デスクの上に置いた黒いマスクを試しに被ってみる。
「母はよく、貴方は自慢の教え子だと自慢してたわ」
黒煙が揺らぐブワッとしたマスクは密着した箇所から皮膚質に変化し、白髪の混じった髪も再現されて、頭部から鼻まで湊香奈江とそっくりに変貌し、まだ元の唇を歪ませて江国が愚痴を呟く。
「貴方みたいに清楚で慎み深い、成功者になりなさいだって。つまり母にしたら、我が子は失敗作だったのよ」
江国は暗黒のマスクが自分の奥底に秘めた恨む辛みを呼び覚まし、毒づかせていると感じたが、それさえも至福のひと時となり、名残惜しそうに途中でマスクを脱ぎ、「明日が楽しみですわ」と呟いてタブレットの写真に手を振って画面を閉じた。
司祭は『禁断の書』を手にして、数十分前に江国の家から消え、MOMOEというゴーストを探しに行き、江国は司祭から送信されたゴーストの少女の写真を連の顔写真の隣に並べて追加してあった。
「可愛い子ね」
何故かMOMOEの髪がシルバーのミディアムヘアーから黒髪の三つ編みになり、ゴーストとは思えない生き生きとした笑顔で映っている。
「もしかして、生前の時の写真かしらね?」
湊香奈江は夫には先立たれたが、両親と息子夫婦と高級住宅地の豪邸に住み、江国が羨むのも無理のない幸せな生活を送り、学園長としても自由で心豊かな教育を理念として充実した日々を過ごしている。
「わかりました。では明日、逢うのを楽しみにしています」
江国から電話がある前に、見舞いに行った藤枝景子から江国の病状について連絡があり、明日から出勤すると聞いたので、香奈江は通常より早い時間を指定されたが快く申し出を了承した。
通路に置かれた電話で話し終えて、広いリビングへ戻ると風呂上がりの孫がソファーの周りを駆け回って、母親に「服着ないと風邪引くわよ」と怒られ、他の家族はTVを観ながら談笑している。
そこへ香奈江も加わり、通路の陰から観察していた司祭はリビングの入り口に佇み、幸せな家族の一場面を眺めて、痩せこけた顔を歪めて眼窩の奥から溢れ出る黒い涙で青いビー玉の瞳を濡らした。
『ファミリーか?』
司祭はMOMOEが隠れたと思われる場所へ行く前に、江国が嫉妬する学園長がどういう人物なのか実際に見に来たのである。
『明日、お前の幸せを破壊してやる』
頭部から足の爪先までパーフェクトに再現された司祭の体は人間には見えないが、黒い蛾は視覚化され易く、祭服の内側から一匹の蛾が舞うのを子供が見つけて立ち止まり、司祭が蛾を手で掴んで飛び去った。
その際、突然泣き出した子供を見て母親は驚き、ソファーに座った香奈江が振り返って黒い蛾の残像を微かに見る。
『何かしら……?』
司祭は眼窩の暗い奥底に僅かな記憶を残し、自分が何者であり、何故このような姿になり、闇に堕ちてしまったのかを想起し、ズキズキする苦痛と憐憫に悩まされた。
『夜の海に溺れた少年の哀しみと苦痛を全世界の人間に教えてやる』
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