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第四章・暗黒エネルギーの流出
黒い蛾の出現
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江国則子はあの日、暗黒の書物『禁断の書』を覗き込んでから、暗い性格が一変したのか奇妙な幸福感を感じ、学校をズル休みして部屋にこもって何度も書物を読み返していた。
『厳格で規則正しくなんて、馬鹿みたい』
無遅刻無欠勤が信条であったが、今はこの書物を探求するのが使命であり、人生の糧だと思った。
『なんて気持ちいいのかしら?この本を読んでいると、心が満たされて不思議な気分になる』
スマホ、タブレット、ノートPCがデスクに置かれ、全画面に黒い表紙の『禁断の書』が開かれている。古代ヘブライ語の文字が並び、江国は読める筈もなかったのだが、暗黒の波に呑み込まれてから感覚的には理解している。
『脳波が同調して、本の教えが体に染み込んでるみたいだわ』
江国は微笑みながら席を立ってトイレに行き、ドアを開けると壁も天井も真っ黒に黒い蛾で塗り潰されているが、特に気にする事もなく、便座に座って用を足して密集した黒い蛾が羽を動かすのを眺めた。
『きっとこの本は宇宙の根源を司る神の教えなのよ。私はこの書物に選ばれ、世界に広める役割を与えられたんだわ』
水を流す音が聴こえ、江国がドアを開けて居間に出て来ると、黒い蛾も一斉に飛び出て宙を舞い、江国の頭上を覆い尽くす。
『書物の文字は生きているのよね』
スマホ、タブレット、ノートPCの置かれたデスクに三匹の黒い蛾が並び、羽の紋様でשָּׂטָןと読み取れ、黒い蛾そのものが書物の変貌である事を示している。
つまり暗黒のエネルギーが、江国の意識から現実の世界へ流れ込んだ。
MOMOEはその予兆を感じ取り、可能な限り霊体を空気に溶け込ませ、微小の水分を隠れ蓑にして、風の流れで江国の家の窓ガラスに張り付き、室内を覗き込んで黒い蛾の大群が現出している事を知る。
『やっぱ、そうか』
江国は眼鏡をかけて席に着き、デスクの上に並べたスマホとタブレットの画面を見ながらノートPCでタイピングしている。
『禁断の書の復活……』
ゴーストのモモエが連の意識と接続して繋がったように、江国則子は暗黒の者と繋がり、この世界に呼び寄せようとしている。
『司祭の儀式だ』
デスクを黒く塗り潰し、暗黒の書物を書き写す江国を見守っていた黒い蛾の一匹が触手を上に伸ばし、ヒラヒラと窓ガラスの方へ飛んで来たので、MOMOEは慌てて風に乗って上空へ移動した。
『まずいよ。モモエ、見て』
フクロウのペンがMOMOEの胸ポケットから抜け出て耳元で囁く。フクロウも透明になっているが、光の加減で翼で飛んでいるのが微かに視えた。
そのまんまるの目のペン先が向いている方向には景子先生が通りを歩き、江国の家に向かっているのを示している。
『ケイコ先生……』
MOMOEは時々、連のクラスの空き席に座り、景子先生の授業に参加して小説の書き方も教わり、なんて素敵な教師なんだと大好きになった。
『助けるのよ』
『でも、気付かれるぞ』
フクロウのペンは危険だと忠告したが、MOMOEは急いで下降して景子先生を止めに行く。江国に家の中に招かれて、黒い蛾に襲われ暗黒の書物を見せられたら洗脳されてしまう。
『厳格で規則正しくなんて、馬鹿みたい』
無遅刻無欠勤が信条であったが、今はこの書物を探求するのが使命であり、人生の糧だと思った。
『なんて気持ちいいのかしら?この本を読んでいると、心が満たされて不思議な気分になる』
スマホ、タブレット、ノートPCがデスクに置かれ、全画面に黒い表紙の『禁断の書』が開かれている。古代ヘブライ語の文字が並び、江国は読める筈もなかったのだが、暗黒の波に呑み込まれてから感覚的には理解している。
『脳波が同調して、本の教えが体に染み込んでるみたいだわ』
江国は微笑みながら席を立ってトイレに行き、ドアを開けると壁も天井も真っ黒に黒い蛾で塗り潰されているが、特に気にする事もなく、便座に座って用を足して密集した黒い蛾が羽を動かすのを眺めた。
『きっとこの本は宇宙の根源を司る神の教えなのよ。私はこの書物に選ばれ、世界に広める役割を与えられたんだわ』
水を流す音が聴こえ、江国がドアを開けて居間に出て来ると、黒い蛾も一斉に飛び出て宙を舞い、江国の頭上を覆い尽くす。
『書物の文字は生きているのよね』
スマホ、タブレット、ノートPCの置かれたデスクに三匹の黒い蛾が並び、羽の紋様でשָּׂטָןと読み取れ、黒い蛾そのものが書物の変貌である事を示している。
つまり暗黒のエネルギーが、江国の意識から現実の世界へ流れ込んだ。
MOMOEはその予兆を感じ取り、可能な限り霊体を空気に溶け込ませ、微小の水分を隠れ蓑にして、風の流れで江国の家の窓ガラスに張り付き、室内を覗き込んで黒い蛾の大群が現出している事を知る。
『やっぱ、そうか』
江国は眼鏡をかけて席に着き、デスクの上に並べたスマホとタブレットの画面を見ながらノートPCでタイピングしている。
『禁断の書の復活……』
ゴーストのモモエが連の意識と接続して繋がったように、江国則子は暗黒の者と繋がり、この世界に呼び寄せようとしている。
『司祭の儀式だ』
デスクを黒く塗り潰し、暗黒の書物を書き写す江国を見守っていた黒い蛾の一匹が触手を上に伸ばし、ヒラヒラと窓ガラスの方へ飛んで来たので、MOMOEは慌てて風に乗って上空へ移動した。
『まずいよ。モモエ、見て』
フクロウのペンがMOMOEの胸ポケットから抜け出て耳元で囁く。フクロウも透明になっているが、光の加減で翼で飛んでいるのが微かに視えた。
そのまんまるの目のペン先が向いている方向には景子先生が通りを歩き、江国の家に向かっているのを示している。
『ケイコ先生……』
MOMOEは時々、連のクラスの空き席に座り、景子先生の授業に参加して小説の書き方も教わり、なんて素敵な教師なんだと大好きになった。
『助けるのよ』
『でも、気付かれるぞ』
フクロウのペンは危険だと忠告したが、MOMOEは急いで下降して景子先生を止めに行く。江国に家の中に招かれて、黒い蛾に襲われ暗黒の書物を見せられたら洗脳されてしまう。
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