ゴーストに恋して

田丸哲二

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第三章・フクロウのペン

物語にフォーカス

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 少女のゴーストは連の声を聴き、もっと話そうとしたが時間切れなのか、エネルギーが足りないのか、見つめ合ったまま窓ガラスに吸い込まれて消えてしまった。

「すぐ逢えるよね?」

 連は傘も持たずにカフェを飛び出し、雨に濡れて空を見上げて叫ぶと、ゴーストが答えるように雨雲が風に流れ、雨上がりの空に鮮やか七色の虹が架かる。


「レンくん……。目を覚ましなさい」

 マスターがテーブルに突っ伏して寝てしまった連の肩を揺すり、目を擦って体を起こした連は涎を手で拭い、ヘッドホンを外して慌てて店内を見回す。由美はバイト時間が終わって帰り、客も殆どいなく夢を見ていた事に気付く。

「マスター。いつからだ?」

「現在は2021年、6月18日17時26分。店に来たのは確か……」

「ち、違う。僕が聞きたいのはどこまでがリアルだったか?喋ったのは夢じゃないだろ?」

「なんだ、タイムスリップかと思いましたよ。独り言は言ってましたけどね」

 連はそれだけ聞いてiPhoneとヘッドホンを鞄に入れ、「ありがとう」と言って店を出て行き、マスターは傘を忘れて雨に濡れてスキップする連を玄関で見送って苦笑いした。


 その日の夜、風呂上がりの連はタオルで髪を拭き、パジャマを着て二階の部屋の窓側の机に向かい、雲の切れ間に輝く上弦の月を眺めてから、iPhoneで『ミレフレ』の続きを読み始めた。

 偶然にも、ひとりぼっちの少女もパジャマを着て白い部屋のベッドに寝転び、天井の小さな丸窓から黒い夜空を見て、最高のアイデアを思い付く。

『少女は外の世界を夢見て、黒い雲からカミナリが家に落ちて、天井の丸窓が壊れたらいいのにと願った』

 その時、フクロウのペンが黒い雲に隠れて夜空を舞い、少女の囚われた家を探してグレーの鬱蒼とした森を偵察し、木々の間に埋もれた白い屋根を発見した。

 魔王が可憐な少女を恐れ、色の無い世界に幽閉したのには理由があった。少女の『願い』と『希望』が闇の世界までもカラフルに塗り替え、侵食される可能性があったからだ。

『お前の諦めない心を真っ黒に塗り潰してやる。仲間を殺し、アイテムを奪い取ればお前の夢も終わり、全世界に平穏な闇が訪れるだろう』

 魔王は色のある世界から少女を誘拐し、仲間から切り離し、光を失うのを待ち焦がれ、全てを奪い取り、闇にひれ伏すまで許さないと脅した。

『しかし、お前が暗黒の王の愛を受け入れ、闇の女王になると誓えば全てを与えてやる。どちらが実り有る選択か、ロバでもわかるぞ』

 連は醜い骸骨の魔王がiPhoneの画面から飛び出し、異様な輝きを発して恫喝するのを見下ろして意見した。

「そりゃ、ロバでも拒否しますよ」

 照り返しで連が怒っているのが魔王にも見えたのか、眼窩の赤黒い血走った眼を飛び出させて睨む。

「おっと、物語にフォーカス」

 元々連は妄想癖のある体質だったが、ゴーストに繋がって脳も身体も感じ易くなった。頬を叩いて魔王のイメージを振り払い、次のページを捲る。


 少女はフクロウのペンが上空に迫っている事を感じ、ベッドから起き上がって座り、黒い丸窓を見上げて手を握り合わせて祈った。

『ココだよ。頑張って、もうすぐ入れるようにするからね』

 その少女の声が聴こえたのか、フクロウのペンは白い小さな翼を羽ばたかせて降下し、少女の住む家の屋根へ滑空する。

「でも、カミナリは?丸窓を壊さないと入れないぞ」

 連がそう呟いた時、少女のゴーストの声が聴こえた。囚われた少女の願いと、MOMOEの声がダブルでiPhoneのスピーカーから響く。

『フレて!』

 ビリっと電流が脳から腕に流れ、連は人差し指で画面に触れた。咄嗟的に閃いた行動であるが、絶妙のタイミングでカミナリが屋根に落ち、丸窓のガラスが壊れてフクロウのペンが部屋の中へ入り込む。

『サンキュー。マジックボーイ』

 少女は恋する想像の王子に礼を言って、宙を舞うフクロウのペンをキャッチした。

 その時、iPhoneからは『サンキュー。Len』と言う声も聴こえ、夜空を見るとMOMOEが飛んで来て、窓ガラスを素通りして連の部屋へ転がり込んだ。
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