ゴーストに恋して

田丸哲二

文字の大きさ
上 下
5 / 84
第一章・幻の小説

霊界のパスワード

しおりを挟む
「やっば、連くん変ですね」

 教員室を出て隣の面談室へ入って行く連と景子先生を柱の陰に隠れて順也と久美子が見ていたが、連は完全にうわの空で気付かず、景子先生はチラッと振り向いて微笑む。


 ピッ、ピッ、ツルゥルー……っと、パルス信号が耳鳴りのように聴こえ、連は景子先生が手にするiPhone9を背後から視線を釘付けにして面談室に入り、デスクを挟んで向かい合って席に着く。

「先生。脳がWi-Fiになってる感じがします」

「あらっ、私にも使わせて。パスワードは何かしら?」

「それが、まだ僕にも分からず。悩ましいです」

「そう。困ったわね」

 連のユニークな発言に景子先生は微笑み、デスクの上に携帯電話を置いて親身になって話し始めた。個性的なのは良いとしても、もう少し協調性があればと思っている。

「先生が小説を書くように勧めたから、連くんが一生懸命なのは嬉しいのよ。でも、こんな事されたら、先生が間違った指導をしてることになるでしょ。ねっ……連くん、聞いてる?」

 その時、連は微かにiPhone9が光ったのを見逃さなかった。先生が説教をし始めるが、それが気になって頭に入らない。

 連はブツブツと呟き、パチパチと瞬きを繰り返す。口の中で舌を回転させ、頬を膨らませてプルプルさせ、明らかに症状がおかしいので流石に景子先生も慌て始めた。

「大丈夫?病気?それともふざけてるの?」

 室内灯がチカチカと点滅し、景子先生は超常現象が起こっているのかと怖くなった。

 しかも連の異常な動きは停止したが、テーブルの携帯電話が激しく震えて動き出し、地震かと勘違いしてテーブルの端を両手で掴んで押さえる。

「な、なんなの?」

 連は目を閉じたまま景子の質問には答えず、瞼の裏に英字のテロップが映って左から右に流れて消えてゆくのを視て、一文字ずつゆっくり声に出して読んだ。


『g ・h ・o ・s ・t 』

「えっ?」

「ゴースト……パスワード」

 理解したと同時に、連の脳がWi-Fiになって霊界のネットワークとつながり、頭の中に膨大な電波が流れ寄せ、連には春の風が頭の中を吹き荒れているように感じたが、デスクで震えているiPhone9に手を伸ばして掴むと、連の体が一瞬バチっとスパークして、感電したようにiPhone9を握り締めたままバタッと気絶したのである。


『オーバーヒート』

 涎を垂らして、白目を剥いて不気味に微笑む連であったが、textデータが2.4GHz帯の周波数に変換されてiPhone9のメモアプリ書き込まれ、それと同時期にネットサイトにも掲載された。

 不思議な事に、その小説は連のiPhone9・スペースブラックから投稿されたのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

処理中です...