夜明けの輝き

田丸哲二

文字の大きさ
上 下
3 / 7

真夜中の追跡

しおりを挟む
 10 : 20 a.m.
 僕が尾行を終えて二階の部屋のベッドで横になっていると、母がドアをそっと開けて入って来た。

「ねっ、それで?」

 家に戻ったのが7時前で、少々仮眠し過ぎてしまい、母は調査結果を急かせたが、お腹が空いたので台所で遅めの朝食を食べながら話すことにした。

「父はどうしてる?」

「さっきほんとの散歩に出かけたわよ」

「そうか。やはり徘徊の記憶はないのか?」

 僕はトーストと目玉焼きとバナナ、牛乳とコーヒーの並ぶテーブルについて、食べながら母に父の徘徊の様子を話した。

 手元には探偵の真似事としてスマホのアプリに書き込んだメモとカメラがある。

[メモ]
・ゴム手袋、シャベル、洗面器。(所持)

・長靴とパジャマ姿で20分程町を徘徊。

・04 : 30 a.m、鉱山方面の川の下流に到着。夜が明けると、薄暗い川面を見つめていた。

・そして父は掛けてあったハシゴから下に降り、川の水と砂利をすくうこと50分程。その間、タバコ休憩を数回挟み、岩に座り込んでボーッとする。


「まさか。それって砂金採りしてたってこと?」

「うん。金が取れるとは思えないが」

 僕は少し離れた木陰から、一眼レフカメラで下の川で黙々と作業をしている父を覗いてシャッターを切った。

 薄暗くて分かりづらいが、母にカメラで撮影した映像を見せる。川の水は浅く流れも緩やかで、長靴で浸水は防げるが、水が跳ねてパジャマは濡れている。

「そういえば、今日帰るとパジャマを着替えてたわ」

「もしかしたら、水に入り出したのは最近かもしれない。水面を見て考え込み、位置を確認してたよ」

「溺れたらどうしましょう?危ないわ。もう、やめさせなきゃ」

「そうだな。明日、一緒に川に行って説得しよう。聞かなければ僕が力付くでもやめさせるよ」

 僕はコーヒーを飲みながら、大きく溜息をついて母にそう言った。

 厳格な父に注意して、行動を改めるよう実力行使する。そんな日が来るとは思いもよらなかったが、それだけ自分も親も年取ったということである。

 母も父が砂金採りをしてると知って嘆き、写真を見ながら溜息混じりに何度も呟く。

「ボケるにもほどがあるわ……」

 きっと若くて威厳ある頃の父の姿と、カメラで撮ったファインダーの中の哀れな父の姿と重ね合わせて落胆してしまったのだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう

まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥ ***** 僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。 僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

私の部屋で兄と不倫相手の女が寝ていた。

ほったげな
恋愛
私が家に帰ってきたら、私の部屋のベッドで兄と不倫相手の女が寝ていた。私は不倫の証拠を見つけ、両親と兄嫁に話すと…?!

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

叶うのならば、もう一度。

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ライト文芸
 今年30になった結奈は、ある日唐突に余命宣告をされた。  混乱する頭で思い悩んだが、そんな彼女を支えたのは優しくて頑固な婚約者の彼だった。  彼と籍を入れ、他愛のない事で笑い合う日々。  病院生活でもそんな幸せな時を過ごせたのは、彼の優しさがあったから。  しかしそんな時間にも限りがあって――?  これは夫婦になっても色褪せない恋情と、別れと、その先のお話。

処理中です...