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第四章・人間界での戦い

魔術師ランス・マンダー

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 ランス・マンダーは錬金術師であり、黒い司祭の服に十字架の刺繍があったが宗教になど興味はない。

 背が高く痩せ気味で、精悍な顔付きに濃い眉毛と顎と鼻の下に髭を蓄え、唇と目は薄く吊り上がり、濃い眉と短髪と髭をきっちりとポマードで固めている。

 几帳面で厳格。容姿は人間とさほど変わらないが、裸になると骨格がデフォルメされ異形の神族であると分かるだろう。

「明日、ウルガンを連れて教授を尋問してくれ」

「私がですか?」

 ウルガンはマンダー家のボディーガードとして別棟の家に住んでいるが、ファラは召使いとして小馬鹿に扱っているので反抗的になり仲が悪い。

「何か支障でもあるのか?教授の研究は前から気になって、ウルガンに調査させている。危険なら始末しても構わんが、できればどこまで知っているか聞き出して欲しい」

「わかりました」

 ファラはそんな仕事、ウィンかエナにやらせりゃいいのよと思ったが、父に逆らうと怖いので頷いて料理を片付け始めた。

 他の姉妹は既に食事を終えて、キッチンで洗い物をしている。ファラは父に付き合って少し話していたが、既にテーブルの料理は無くなりワインボトルも空っぽだ。

 眼鏡をかけたファラが席を立ってリビングを去ると、ランスは四つの鉄の下着が飾られたデスクへ近寄り、赤い布の埃を指で摘んで払う。

 そして一着ずつ丁寧に股の下部にあるノズルに、台座の下から伸びている透明の細いガラス管を装着した。

 禁欲の鉄の下着は四姉妹の体型にぴったり合わせて異界の物質で作られ、デザインも異なり鍵穴の形も違うが、どれも穿き心地はそれほど悪くはない。

 表面は硬いが内側は滑らかで、装着すると内部にある極小の吸盤と突起物が蠢き、毛穴と性器に密着し、性的な興奮を感知して分泌物を吸収する。

「どれどれ、今日の収穫はどうかな?」

 そう呟いて台座のコックを捻り、其々の鉄の下着に蓄積されたエレメントが細いガラス管を通り、デスクの下にある丸底フラスコに流れるのを鑑賞した。

 異様なエネルギーで蒸気が沸き立ち、赤と青と黒と黄の四色のエレメントの液体がポタポタと滴り落ちて貯まってゆく。

「素晴らしい。愛の恵みだ」

 ランス・マンダーは鉄の下着のノズルに『コアン』と言われる球体の魔物マブツを装填し、性欲の結晶『エレメント』を抽出している。

「四姉妹と性の魔力に感謝します」

 大袈裟なパフォーマンスで喜び、その声は次第に昂まった。

「愛のエレメントが、我らを王へ導くのだ」

 至福の表情で床に跪き、デスクの赤い布に飾られた四つの鉄の下着に敬意を表す。

 錬金術師ランス・マンダーは数十年の研究を経て、魔界で『コアン』を発見した後に四色の『エレメント』を生み出し、更に化学物質と混ぜ合わせて腐食の魔術を完成させたのである。


「この無限のパワーが、残された二つの世界をマンダー家の所有物とし、ランス・マンダーは王となって永遠の愛を手に入れるのだ。我を小馬鹿にした者は靴底を舐めさせ、顔と急所を踏み躙って追放してやるわ。グハッ、ブゥハァハァー!」

 ランスはそう言って両手を広げて大声で笑い、長年夢見た王の姿が目の前にあると歓喜した。そして明日からも研究に邁進し、自らを律して努力しようと心に誓う。

『勤勉こそが世界を変えるのだ。ふしだらで不潔な者は腐って死ね。神族も妖精族も人間族も闇に消えろ!」

 しかし、その声をキッチンで聴いた四姉妹は呆れて、小声で文句を言いながらグラスや皿や鍋を洗っている。

「まったく、今日も飲み過ぎたんじゃない?」

「嫌な酔っ払い」

「変態だよね」

『クソッ』とアンが最後に呟いて手の泡を吹き飛ばす。

 父ランスは普段は厳しく生真面目なのだが、酔っ払うとその反動で狂ったように暴言を吐くので四姉妹はうんざりしていた。

「でも、戦いが始まるのは楽しみです」

 エナがそう言って、ファラもウィンも微笑んだが、アンに笑みは無く鉄の下着のストレスで爆発しそうだった。

「セックスしたい」

 そう言って股に手を伸ばしたが、ファラとウィンが口と腕を押さえ付けてやめさせる。もし、父に知れたら罰として鉄の下着を穿かされて鞭打ちの刑に処される。

「バレルぞ。父は酔っても鼻が効く」

 口を塞がれたまま耳元でファラに忠告され、アンは目に涙を浮かべて頷いた。
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