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第三章・戦士チームの旅立ち

ドラゴンの神器

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 ソングは剣と盾を構えて颯爽と前に飛び出すが、足首に引っ掛かったパンツに足がもつれてうつ伏せに倒れてしまう。

『……24.25.26』

 チーネがカウントしながら、ソングのお尻を見て嘆くが、素早く立ち上がったソングはショートパンツを穿き直し、キルトの生地を膨らませて走り出す。

 その時、盾を持って振り返ったエリアンが一瞬そのドラゴンが赤いリボンを付けて見え、猫目をハートマークにしたがアルダリの叫びで気を引き締めた。

「ソング~!もう、限界じゃ」
「早くしろ、ソング」

『……28、29』

 防御が崩壊する寸前でソングがアルダリとエリアンの前に出て、十字のチェーンが刻まれた盾を構えて炎を防ぐ。

「待たせたな」

 タイムアップ寸前であったが、床を這う炎の波がその盾に吸い込まれ、地竜がパワーアップして火を吐くが息切れした。

 隅っこに隠れていたジェンダ王子とトーマも戦況が逆転したと顔を覗かせて安堵している。

「ふぅ~、トカゲの丸焼けになるとこだったぜ」

 被り物を外したトーマが熱いため息を吐き、ブロンドの髪を焦がしたジェンダ王子がソングを見ながら呟く。

「ソングは魔法も使えるのか?」

「いや、ドラゴンの力だ。アレは竜族の王グラウバルの骨と鱗で作られている」

「ドワーフか?」

「祖父が作ったと自慢してたが、グラウバルを倒したのはゼツリ。魔法のエネルギーを持った竜族の王のパワーが秘められてんだ」

「おまえ、物知りだな?」

「俺、鍛冶屋の息子」

 ジェンダ王子はトーマが詳しいのに驚いたが、トーマは有名なドワーフの鍛冶屋に生まれ育って製造技術を叩き込まれたが、神々の戦争で家族を失って旅人になった。

 アリダリも一角獣の杖を下ろし、焼け焦げた髭と赤い褌の火の粉を払って一息ついている。

「スマフグ、もう諦めろ。その盾には防御の呪文が刻まれている。おまえの負けだ」

 エリアンも黒焦げになった盾を下ろし、黒革の戦闘服も焼けてボロボロになっていたが、気にせずにソングの横で野獣の剣を構えた。

「ソング。やるな」
「まーな」

 エリアンがソングに腰をピッタリ寄せて股間のドラゴンがキルト地の下で横を向いたが、ソングは気にせず盾を下ろして鏡のように反射する剣を構えた。

 その時、右手の小指が腐食して第二関節から欠けているのに気付く。アドレナリンが出て痛みは感じなかったが、剣を握れなくなる不安がぎる。

『あと、八回……』(ん?指の心配ではなく、SEXの回数と苦笑い。)

「ドラゴンの神器か?」

 吐く炎が途切れ、スマフグが悔しそうにソングが構えた剣を見下ろしている。

 ブレイド(剣身)はドラゴンの鱗が密集し、鋭い刃の鱗が剣先まで波のように揺れ動いてカーブを描き、剛性と柔軟性のバランスを保っている。

 蜜蜂の剣とも通じるが、生命の宿った変幻自在の剣で、鱗が欠けても他の鱗が移動してカバーし、対決した者は空中を泳ぐ剣だと恐れた。

 グリップもガード(鍔)もドラゴンの骨が削られて宝石が埋め込まれ、異世界でも唯一、青い鏡のように輝く超剛性の剣であった。

「誰だおまえは?」
「愛の戦士、ソングだ」

 そう名乗ると、チーネがエリアンを押し退けてソングの横に来て文句を言い始めた。

「ちょっとエリアン。くっ付き過ぎ」
「な、なんだよ。邪魔すんな」

 アルダリとジェンダ王子、トーマもその後ろに集まって地竜に立ち向かう陣形を作ったが、前で仲間割れが始まり変な雰囲気になっている。

「レズビアンなんでしょ?ソングの指南役はチーネなの」
「恋は自由だろ。SEXは俺が教えてやる。その方がドラゴンも喜ぶぜ」

 地竜との対決よりもチーネとエリアンの戦いが勃発しそうになり、ソングはあっけに取られた。

「ゼツリの息子だ。以前にもわしと一緒に此処を通った」

 アリダリがチーネとエリアンの間に割って入り、上から珍しそうに見下ろしている地竜に叫び、やっとチーネもエリアンもひとまず休戦して背を向けて剣を構え直す。

 それを見て「効き目があり過ぎたか?」と王子が呟き、トーマがソングの最終審査の時に王子が矢を射ったのを思い出し、キューピッド の恋の魔法を使ったと見破る。

「ヤバくね?」
「一回、やれば目覚めるんだが」
「それで魔法が解けるのか?」
「ああ、僕も一回試してみたい」
「あのドラゴンをか?ソングってマジで愛の戦士じゃね?」

 緊張感の欠除したふざけた態度に地竜が吠え、飛べない翼を広げて襲い掛かる。

「おめーら、オレを舐めてんのか?」

 風が巻き起こり、三メートル程浮いて戦士チームにダイブして全員押し潰そうとした。

 その時、地竜の足を拘束した鎖が突っ張るのを見たソングはある考えを思い付く。

「グォー!」

 翼と胴体の巨大な影が頭上を覆い、戦士チームは左右に散らばり、赤い褌のアルダリだけが前へ逃げてうつ伏せに倒れた。

「アリダリー」

 ソングが潰されたかと心配して叫び、丁度地竜の股の間で助かったアリダリが上半身を起こして褌を引っ張る。

「これ、大事な褌を踏むでない」

 トーマは背中を鋭い爪で引っ掻かれて転んだが、チーネが助け起こして避難させた。

「大丈夫、トーマ」
「フーッ、服が破れただけさ」

 エリアンはジェンダ王子の上に覆い被さって、尾が鞭のように打たれるのを剣で跳ね返して庇った。

「サンキュー、エリアン」

 豊満な胸の下でジェンダ王子が礼を言い、ソングはドラゴンの剣を振り上げて地竜の尾を両断し、更に首に剣先を向け、切った尾を片手にぶら下げて目の前に見せつけた。

「この剣なら、首だって切れるんだぜ」
「ソング。待ちなさい」

 チーネが心配してソングに駆け寄って横に並び、蜜蜂の剣を構えて殺すのを制した。

「その者は仮にもウルズの泉の門番です。九つの国が途絶えたとはいえ、ユグドラシルには必要な存在」

「わかってるよ。チーネ。俺を誰だと思っている?」

 ソングはそう言ってカッコよく決めようとしたが、手に持った地竜の尾が動いてビビって投げ捨てた。

「うわっ、生きてる」
「うん。強がりでくそ生意気なガキだな」

 チーネにそう言われてソングが苦笑し、「それはないだろ」と剣と盾を構え直してポーズを決め、全員が集まって来て地竜の処分について意見を言い始めた。

「でも、俺たちを殺そうとしたんだぜ」
「帰りにまた邪魔されるかも」
「ソング。俺がやるから、剣を貸せ」

 地竜は上半身を起こしたが、ドラゴンの剣を首に突きつけられて身動きできない。

 アルダリは何も言わず、ソングがドラゴンの神器を手にした時から表情が変わり、騎士道精神が身に付いたと微笑む。

『誰もが最強の武器を手にすると傲慢になるのだが、この子は優しさが溢れているぞ』

 その証拠に自分が倒れた時、一番に心配して声をかけ、地竜を殺す事なく尾を切って大人しくさせている。

「コイツは許す」

 ソングがそう言い切って、アリダリの期待に答えた。

 ドラゴンの剣を頭上に振り上げたが、ソングは地竜の首ではなく、足を拘束していた鎖を断ち切って解放させた。ジャンプして着地と同時に剣を振り下ろし、スマフグの火炎でさえ焼き切れなかった鎖を豆腐のように真っ二つに切断した。

「これでおまえは自由だぜ。ただし、改めて俺が命ずる。ウルズの泉の門番を続けろ。じゃないと、今度はこの剣が黙ってないぜ」
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