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第4章・ズンビの恐怖
母は生きていた
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善三は装置の位置を通り側に固定し、コントロールパネルとハンドルを操作してチョコ型の屋根から円筒状の望遠鏡を空高く伸ばし、ファインダーを覗いて街の様子を偵察した。
潜水艦の潜望鏡を改良した装置であるが、角度と位置を変えて半径3km範囲を捕捉し、先端は湾曲してレンズが雨に濡れないようになっている。
停電で街灯も信号機も消え、付近は静まり返っているが逆に嵐の前の不気味さを醸し出し、善三はゆっくりとハンドルを回して潜望鏡の角度を変え、屋根の上に佇む異様なシルエットを捉えたが距離が遠くてはっきりとは見えない。
操作パネルに小型モニターがあり、通りをパンした時に隼人が人間の頭部を見つけて声を上げ、善三がズームアップにした。
「通りに何か転がっているぞ」
数分前に真紀子が屋根の上から投げ捨てた頭部がアスファルトの水溜りで顔をこっちに向け、通り過ぎる車のライトに照らされて隼人が中島家の奥さんだと教えた。
「隣のおばさんじゃないか?」
直太と善三が窪んだ目と萎れた感じで、脳アメーバを吸われたと指摘して顔を見合わせる。
「ズンビに吸われたな?」
「おじいちゃん。もう、始まっているんだね」
「ああ、街の屋根に不気味な影が見えたが、想像以上に感染は広まっているぞ」
「あ、アレは?俺の部屋に誰かいる」
善三が望遠鏡のハンドルを離した時、レンズが上を向いて水野家の二階の窓を映し、真紀子が佇んでいる姿がチラッと見えた。
「んむ?」
二階の窓に潜望鏡のピントを合わせ、善三が感嘆ともとれる呻き声を漏らし、窓枠に手と足を掛けて屈伸運動をする真紀子の体型とファッションに驚く。
「センスを感じるぞ」
コカコーラの旧ガラス瓶をデフォルメしたグラマラスのボディにブルーのスポーツブラとパープルの巻きスカートを身に付け、コンバースのシューズを履き、真っ赤なルージュで髪はポニーテールにしている。
「ア……アレって、俺の母なのか?」
小型モニターを見て驚く隼人に善三が望遠鏡を覗くように指示し、隼人は複雑な感情を湧き立てて真紀子を覗き見る。
『まるで、アマゾネスの戦士……』
隼人はバスルームで見た皮膚と肉が崩れた化け物から、新たな変貌を遂げた母親を古い映画で観たアマゾンの女戦士に例えたが、かなり美化した感想だった。
真紀子は『肉塊で作られた獣』であり、本能で戦いを好む殺戮者である。しかし善三は想像力のあるズンビと捉え、顎髭を触りながら「間違いない……」と意味深な発言をした。
それには隼人の母親という意味合いと、人間の記憶『母性』があるという希望的観測が含まれた。
「母親の想いが残っているかもな」
「隼人くん。僕にも見せて」
直太が善三の言葉に反応して、隼人に代わって潜望鏡を覗いたが、真紀子は部屋の窓から消えて、向きを変えて探すと屋根に上がって付近を見渡し、偶然にも直太は真紀子と目が合ってビクッとしたが、視線を下げて通りに投げ捨てた頭部を見ている事に気付く。
「きっと脳アメーバを吸って、隣のおばさんの知識を取り込んだんじゃない?」
潜水艦の潜望鏡を改良した装置であるが、角度と位置を変えて半径3km範囲を捕捉し、先端は湾曲してレンズが雨に濡れないようになっている。
停電で街灯も信号機も消え、付近は静まり返っているが逆に嵐の前の不気味さを醸し出し、善三はゆっくりとハンドルを回して潜望鏡の角度を変え、屋根の上に佇む異様なシルエットを捉えたが距離が遠くてはっきりとは見えない。
操作パネルに小型モニターがあり、通りをパンした時に隼人が人間の頭部を見つけて声を上げ、善三がズームアップにした。
「通りに何か転がっているぞ」
数分前に真紀子が屋根の上から投げ捨てた頭部がアスファルトの水溜りで顔をこっちに向け、通り過ぎる車のライトに照らされて隼人が中島家の奥さんだと教えた。
「隣のおばさんじゃないか?」
直太と善三が窪んだ目と萎れた感じで、脳アメーバを吸われたと指摘して顔を見合わせる。
「ズンビに吸われたな?」
「おじいちゃん。もう、始まっているんだね」
「ああ、街の屋根に不気味な影が見えたが、想像以上に感染は広まっているぞ」
「あ、アレは?俺の部屋に誰かいる」
善三が望遠鏡のハンドルを離した時、レンズが上を向いて水野家の二階の窓を映し、真紀子が佇んでいる姿がチラッと見えた。
「んむ?」
二階の窓に潜望鏡のピントを合わせ、善三が感嘆ともとれる呻き声を漏らし、窓枠に手と足を掛けて屈伸運動をする真紀子の体型とファッションに驚く。
「センスを感じるぞ」
コカコーラの旧ガラス瓶をデフォルメしたグラマラスのボディにブルーのスポーツブラとパープルの巻きスカートを身に付け、コンバースのシューズを履き、真っ赤なルージュで髪はポニーテールにしている。
「ア……アレって、俺の母なのか?」
小型モニターを見て驚く隼人に善三が望遠鏡を覗くように指示し、隼人は複雑な感情を湧き立てて真紀子を覗き見る。
『まるで、アマゾネスの戦士……』
隼人はバスルームで見た皮膚と肉が崩れた化け物から、新たな変貌を遂げた母親を古い映画で観たアマゾンの女戦士に例えたが、かなり美化した感想だった。
真紀子は『肉塊で作られた獣』であり、本能で戦いを好む殺戮者である。しかし善三は想像力のあるズンビと捉え、顎髭を触りながら「間違いない……」と意味深な発言をした。
それには隼人の母親という意味合いと、人間の記憶『母性』があるという希望的観測が含まれた。
「母親の想いが残っているかもな」
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直太が善三の言葉に反応して、隼人に代わって潜望鏡を覗いたが、真紀子は部屋の窓から消えて、向きを変えて探すと屋根に上がって付近を見渡し、偶然にも直太は真紀子と目が合ってビクッとしたが、視線を下げて通りに投げ捨てた頭部を見ている事に気付く。
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