ZUNBE

第３章・ズンビの誕生

快楽のエナジー

【善三の研究レポート・切り取り４】

［ズンビの最大の特徴は腹部に臍ヘソが変形した器官があり、獲物の頭部を装着して脳アメーバを吸い取り、脳と体内に知識とエネルギーを取り入れる事である。］


　首を噛まれた裕美子は死んだ数十秒後に脳に蠢うごめくモノを感じ、人間の時の微かな記憶を想起して娘の笑顔が脳裏に浮かんだが、一瞬にして脳アメーバーに侵食され霧散した。

　ミズウイルに感染して息を吹き返し、目を開くと血走った瞳にモデルウォークをして迫る真紀子が映り、さっき襲われた時より胸と尻と太腿が盛り上がり、それに比べるとウエストと足首は細く見えた。

『キュートだろ？』

　真紀子はスピードを維持してパワーアップし、美的感覚も取り入れて理想の体型を形成した。

　裕子は必死に首をもたげて逃げようとしたが、皮膚と肉がひび割れて思うように動けない。

『まだ、完全に復元してないね』

　真紀子は本能的にミズウイルスに感染すると、水で皮膚の酸化を弱める必要性がある事を知っていた。痙攣しながら這う裕子の前に立つと、首を両手で持って捻り曲げて引き千切り、ズボッと鈍い音がして床に血が飛び散る。

　そして獲物の頭部を脇に抱えて階段を駆け上がり、入って来た部屋の窓から外へ出て、軽々と屋根の上に登って行く。

　雨の流れる瓦を走り、隣りの家にジャンプして屋根に飛び移り、居心地の良い水野家の天辺のスペースで灰色の空を見上げて強酸性雨のシャワーを浴びる。

『雨が心地よく肌に染み込み、肉の繋ぎ目がじんわりと溶けて馴染む』

　そして真紀子は抱えていた頭部を空に掲げてから、下腹部のイソギンチャクのような吸収器官に埋め込んだ。窪みの肉ヒダが伸縮して頭部の顔面を覆い、目と耳と鼻と口と穴へ吸盤の付いた触手が入り込み、脳アメーバーを吸い取る。


【善三の研究レポート・切り取り5】

［ズンビにとって、ミズウイルスで活性化した脳アメーバーは最高の栄養素であり、消化器官へ送られるのだが、器官神経は脳髄に直結しているので、知識のエナジーが快楽となって流れ込む。］


　真紀子はドーパミンに似た分泌物が全神経に行き渡り、継ぎ足した肉塊の細胞にもエネルギーが供給されて活性化し、脳髄が増殖して知能がアップする感覚に、快楽に満ち溢れた顔で呻き声を雨空に発した。

「ウア～アァ～」

　全身の肌を雨で濡らし、空白を齎もたらした宇宙からの贈り物に感謝する。

『これこそ至高のエクスタシー』