上 下
12 / 35
第三現象・消えたあばら骨

3

しおりを挟む
 その夜、圭介は夕食を食べ終えると子猫を連れて二階の部屋に行き、封印していた過去をできる限り思い起こした。

『確か、五歳だった……』

 圭介は目隠しをして誰かに手を引かれ、ここで待っていれば母が迎えに来ると言われたが、穴の中に落とされて生き埋めにされた。

『その後は悪夢の記憶しかない』

 地中から斬り殺された死者の腕が何本も伸び出て、足や腕や髪を掴まれ、暗黒の世界へ引き摺り込まれる。昔、柘榴の木の下に生贄にされた死霊が、圭介を血の海に沈ませて溺れさせようとした。

 鬼の形相で土を掘る母の顔が、その死霊たちの血塗れの顔と重なり、恐怖の対象になってしまった。

『そう言えば、母も何かに怯えていた』

 精神的に危うくなって、圭介が中学三年になると若年性アルツハイマー型認知症が進行し始めた。

 介護施設に入っていた母が徘徊して失踪したが、もし拉致されて殺害されたとしたら?首のない遺体を発見するのはそれほど難しい事ではない。

『犯人は首を贈り、俺を誘っている』

 圭介は子猫を抱き寄せてベッドから起き上がると、美加に電話して母の遺体探しの協力を頼んだ。

「美加、明日の朝、車で迎えに来てくれ。子猫と一緒に母の捜索を始める」

「歌姫のメンバーも連れて行って良いか?オタクだけど、町の事にも詳しいから役立つと思うぜ」

「もちろんバンドを結成しよう。これから呪いの戦いが始まり、それを母の遺体が指し示すと思っている。仲間は大歓迎だ」

 壁側の勉強机の上にカガミラノの腕時時計が置いてあり、その横に座った子猫が圭介にアドバイスしているように思えた。

『独りではなく、仲間と戦うのよ』

 翌日の朝、歌姫のメンバーが再結成されたが、美加が連れて来た二人は小太りのオカルトオタクだった。

 青いジャージを着てボサボサの髪に無精髭、ダウンジングのL字型の針金を持ち、これで地中に埋められた死体を探索できると、薄気味悪い笑顔を浮かべて圭介の前に現れた。

 数珠を腕に巻き、首には十字架のペンダントをぶら下げている。

「宜しくお願いします」

「二人とも、圭介をヒーローとして崇めているんだって」

「ウサポンって呼んでください」

「俺、ボンタです」

 宇佐美裕也、三十歳。大塚和人二十九歳。二人とも独身で、この地の歴史と呪術を研究し、圭介が霊能力者である事も知っていて憧れの存在だった。

「こちらこそ、よろしく。それじゃ、まず病院に寄ってくれ。安堂刑事に母の首を見せて欲しいと頼んである」

「俺らも見れるんすか?」

 宇佐美と大塚が嬉々としてピンクのラパンの後部席に乗り込み、美加が苦笑いして圭介が抱いていた子猫の頭を撫でる。

「頼むよ、マミー」

 昨夜美加に子猫が案内してくれる筈だと伝えると、勝手に「マミー」と名付け、バンドのマスコットガールになった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

拷問部屋

荒邦
ホラー
エログロです。どこからか連れてこられた人たちがアレコレされる話です。 拷問器具とか拷問が出てきます。作者の性癖全開です。 名前がしっくり来なくてアルファベットにしてます。

同僚くすぐりマッサージ

セナ
大衆娯楽
これは自分の実体験です

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

処理中です...