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第二現象・柘榴の花と母の首
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「大丈夫か?」
「ええ……」
その妄想を手で振り払って安堂刑事に微笑み返し、圭介はさっきからポケットで震えているiPhoneを手にして話し始めた。
「美加か?」
「だーよ。圭介、ずっと待ってるんだ。刑事にも伝えてあるから、バックれんじゃねーぞ」
歌姫で登録してある中野美加からの電話だった。圭介は待ち合わせ場所だけ聞いて電話を切ると、横目で見ている安堂刑事と目があい苦笑する。
「昨日からお前の彼女がうるさくてな。正直、困ってたんだ」
「いや、彼女じゃない」
美加とは中学の頃にバンドを組み、圭介がギターを担当して美加がボーカルをしていたが、圭介は揉め事と妄想に悩まされて鬱になり音楽も辞めた。
激しい雨がフロントガラスとアスファルトを叩いていたが、暫くすると雨は小降りになり、国道から峠へ向かう道に入って展望場所に着くと、車から降りて霧の柘榴町と呼ばれる雲の下に町並みが埋もれる幻想的な風景を眺めた。
「圭介。会いたかったよ~」
駐車場の奥に停めてあったピンクのラパンから、中野美加がカラフルなブルゾンのポケットに両手を突っ込んで現れた。
ショートヘアを金髪に染めて、田舎町には不似合いな派手なメイクをしている。
「なんでこの町にいる?」
「バンドも解散してさ。ちょっと息抜き」
美加は高校二年の春に埼玉の高校に転校して歌手を目指していたが、挫折して圭介とすれ違うように先月帰省してぶらぶらしている。
そして事件が起きて、圭介が来るのを待ち侘びていた。
「別に諦めたわけじゃないよ」
「夢の途中に探偵でもするつもりか?」
「町の情報に詳しい者も集めたぞ。あとは圭介がミュージックを奏でてくれるだけだぜ」
圭介は呆れて話す気もなくなり、先にグレーのワンボックスカーに乗り込んだ安堂刑事にピンクのラパンの後について行くように頼んだ。
「暗い町だ。あんな女の子が一緒ってのも良いんじゃねーか?」
「ですかね。母は彼女を歌姫と呼んでました。霊にも届く澄んだ声をしていると褒めていた」
「まさか、霊を呼べるんじゃねーよな」
「歌が上手いだけですよ」
霧の中をライトをつけて二台の車が細い峠道を下り、寂れた町に着くと湿気た通りをゆっくりと走って行く。
圭介と安堂刑事は暫く無言で雨色にくすむ風景に想いを巡らし、無事に事件が解決する事を願った。
町の外れにある古い木造の家に祖母が一人で住み、圭介が帰ると皺だらけの満面の笑顔で迎えてくれた。
圭介は母と仲が悪かったので、典型的なおばあちゃん子だ。
「おかえり圭介。会いたかったよ」
祖母は疲れた様子もなく圭介を抱き寄せて離さない。たかが数ヶ月振りの再会であるが、その温もりに少し涙が込み上げてくる。
「ばあちゃんも元気そうだな」
「そりゃまーね。これくらいでへこたれる人間じゃないぞ」
祖母、礼子はおん歳六十七歳で見た目はもっと老けて見えるが中身は若い。
「刑事さん。ありがとう。でも、早く体も見つけておくれよ」
首が贈られたくらいの事では驚かないと言いたいのだろう。安堂刑事に嫌味を込めて圭介を車で送ってくれた事のお礼を述べ、玄関前で追い返した。
「分かりました。必ず事件を解決してみせますよ。それも早急にね」
「ええ……」
その妄想を手で振り払って安堂刑事に微笑み返し、圭介はさっきからポケットで震えているiPhoneを手にして話し始めた。
「美加か?」
「だーよ。圭介、ずっと待ってるんだ。刑事にも伝えてあるから、バックれんじゃねーぞ」
歌姫で登録してある中野美加からの電話だった。圭介は待ち合わせ場所だけ聞いて電話を切ると、横目で見ている安堂刑事と目があい苦笑する。
「昨日からお前の彼女がうるさくてな。正直、困ってたんだ」
「いや、彼女じゃない」
美加とは中学の頃にバンドを組み、圭介がギターを担当して美加がボーカルをしていたが、圭介は揉め事と妄想に悩まされて鬱になり音楽も辞めた。
激しい雨がフロントガラスとアスファルトを叩いていたが、暫くすると雨は小降りになり、国道から峠へ向かう道に入って展望場所に着くと、車から降りて霧の柘榴町と呼ばれる雲の下に町並みが埋もれる幻想的な風景を眺めた。
「圭介。会いたかったよ~」
駐車場の奥に停めてあったピンクのラパンから、中野美加がカラフルなブルゾンのポケットに両手を突っ込んで現れた。
ショートヘアを金髪に染めて、田舎町には不似合いな派手なメイクをしている。
「なんでこの町にいる?」
「バンドも解散してさ。ちょっと息抜き」
美加は高校二年の春に埼玉の高校に転校して歌手を目指していたが、挫折して圭介とすれ違うように先月帰省してぶらぶらしている。
そして事件が起きて、圭介が来るのを待ち侘びていた。
「別に諦めたわけじゃないよ」
「夢の途中に探偵でもするつもりか?」
「町の情報に詳しい者も集めたぞ。あとは圭介がミュージックを奏でてくれるだけだぜ」
圭介は呆れて話す気もなくなり、先にグレーのワンボックスカーに乗り込んだ安堂刑事にピンクのラパンの後について行くように頼んだ。
「暗い町だ。あんな女の子が一緒ってのも良いんじゃねーか?」
「ですかね。母は彼女を歌姫と呼んでました。霊にも届く澄んだ声をしていると褒めていた」
「まさか、霊を呼べるんじゃねーよな」
「歌が上手いだけですよ」
霧の中をライトをつけて二台の車が細い峠道を下り、寂れた町に着くと湿気た通りをゆっくりと走って行く。
圭介と安堂刑事は暫く無言で雨色にくすむ風景に想いを巡らし、無事に事件が解決する事を願った。
町の外れにある古い木造の家に祖母が一人で住み、圭介が帰ると皺だらけの満面の笑顔で迎えてくれた。
圭介は母と仲が悪かったので、典型的なおばあちゃん子だ。
「おかえり圭介。会いたかったよ」
祖母は疲れた様子もなく圭介を抱き寄せて離さない。たかが数ヶ月振りの再会であるが、その温もりに少し涙が込み上げてくる。
「ばあちゃんも元気そうだな」
「そりゃまーね。これくらいでへこたれる人間じゃないぞ」
祖母、礼子はおん歳六十七歳で見た目はもっと老けて見えるが中身は若い。
「刑事さん。ありがとう。でも、早く体も見つけておくれよ」
首が贈られたくらいの事では驚かないと言いたいのだろう。安堂刑事に嫌味を込めて圭介を車で送ってくれた事のお礼を述べ、玄関前で追い返した。
「分かりました。必ず事件を解決してみせますよ。それも早急にね」
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