上 下
7 / 35
第二現象・柘榴の花と母の首

2

しおりを挟む
 六月下旬の梅雨の時期、松田圭介は黒いジャケットを着て小さなバッグを持って横浜線の電車で八王子に行き、特急列車に乗り換えて甲府駅に降り立つと、グレーのワンボックスカーで迎えに来ていた安堂刑事に声を掛けられた。

「圭介、久しぶりだな。いやに逞しくなったじゃねーか。大学一年生だって?」

「ええ、安堂さん。ご無沙汰です」

 田舎町で難解な事件があると必ずと言っていい程このベテラン刑事が県警から派遣される。窃盗、詐欺、選挙違反などが珍しい過疎化した町で恐ろしい殺人事件が起きるとは誰も思っていない。

「まさかこんな再会で残念だが、警察を恨むなよ。母が失踪して二年程か?」

「ええ、そうですね。もう諦めてはいたのですが」

 圭介は助手席に乗ってそう懐かしそうに話したが、正直もう会いたくはなかったし、当分田舎に帰るつもりもなかった。

 安堂刑事とは因縁があり、科学的に解明不能な事件があると相談される事があったが、母が失踪してからは関わっていない。

 しかし、今回は自分に纏わる事件である。

 母は若年性アルツハイマー型認知症が進行して、施設から抜け出して森で行方不明になって数か月捜索したが見つからず、祖母も圭介も生きてはいないだろうと諦めた。

「これで殺人事件になったな」

 安堂刑事はハンドルを握りながら、顔を顰めて助手席の圭介に投げ掛けた。

 それは一昨日の早朝、実家の古い家の庭に段ボール箱が置いてあった事から始まっている。畑に行こうとした祖母がそれを見つけ、包まれた新聞紙を開けると炭のように真っ黒になった人間の頭部が出てきた。

「柘榴の花が添えられていた事をどう思う?」

 贈り物には柘榴の紅い花が添えられていた。その鮮やかな紅色と黒く燻された首とのコントラストが圭介の頭の中でイメージされる。

「最近の出来事を含めて、犯人は俺に興味を持っている気がします」

 圭介は死神に取り憑かれたような気分だった。

「それで、警察の考えは?」

「検視の分析では失踪した直後に殺害され、黒く変色した木片の焦げ跡から、死後焼かれた可能性があるという事だ」

「最悪ですね。正直に言うと、大学に入学してあの町から解放された気分だったのですが」

 圭介はそう嘆いて、車窓の風景に視線を漂わせた。

 甲府駅から一時間ほど走ると、山梨県の外れにある野山に囲まれた人口二千人程の南都留部柘榴町に着く。

 幼い頃にそこで恐ろしい事件があり、圭介はそのトラウマに悩まされて自分の不思議な能力をでき得る限り封印してきた。

 しかし、左の上腕にある痣が浮き上がってひりひりしている。
 
『勝手に妄想を映し出すな』

 薄曇りの空からポツポツと雨が降り始め、ワイパーが動いて濡れたフロントガラスを拭う。すると、その水滴が砂粒になり、目の前が一瞬にして埋もれたような感覚になって、母の手がワイパーに重なって砂を掻き出した。

『圭介、圭介……』

 指の爪が割れ、血が吹き出して砂に混じっても、母は必死に土の中に埋もれた幼い圭介を掘り起こそうとしている。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

処理中です...