32 / 43
愛の香りは永遠に
しおりを挟む
「カフェで待つ三浦春希さんに電話してもらえませんか?確かめたい事があります」
洋介は目を開けると、依頼者にそう話した。山崎知子は水の錬金術師の答えが出たのかと思い、頷いてバッグからスマホを取り出して電話をした。
「春希さん。水の錬金術師さんに代わりますね」
「すいませんが、ひとつだけ教えてください」
洋介がスマホを受け取って、依頼者にも聞こえるようにスピーカーにして話す。
「この香水には月の想いが香っている。貴方がこのハーブの香りを選んでプレゼントしたのには、月の輝きを知って欲しかったからではないですか?」
「……………」
すぐに返事はなく、逆に知子が困惑して呟き、宝物の香水をバッグから取り出してテーブルの上に置いた。その横には食べかけのチーズケーキとティーカップが並んでいる。
「どういう意味?あの時、この香水を私に送ったのは貴方なのですか?」
その声に春希は答えるしかなく、沈黙を破って月の想いを伝えた。
「はい。圭太に頼まれて、僕がその香水を選んで貴方に贈りました。数十年後にもし貴方と再開してその香りがしたら、僕は知子さんにプロポーズしようと決めていた。そして大学の同窓会で会った時に、お付き合いを申し込んだのです」
その時、突然コップの水が泡立って溢れ出した。花びらが水に流されて香水の硝子瓶にたどり着き、キャップが回ってテーブルの上に転がると、月の香りが魔法の粉のようにキラキラと漂い、空が薄暗くなって花瓶のハーブの花が光り輝く。
観客になって洋介の後ろで紅茶を飲んでいた姉も驚き、口を半開きにしてティーカップを持ったまま薄暗い空間を照らす月の香りとハーブの花を眺めた。
知子は香水の光る粉が衣服からも滲み出し、頬と髪を撫でられ、その光る香りを両手で抱きしめると、ふわっとすり抜けて硝子瓶の香水と一緒に宙に舞い上がり、上空に輝く月へと還って行く。
それを見上げた知子は水の錬金術師が作り出した夢の世界が訪れたのかと感動した。
実は数秒前、洋介は依頼者が電話に気を取られている隙に、道具箱の六種類の粉を銀のスプーンで掬ってコップの中に素早く入れ、水を泡立てせて溢れさせた。
もちろんその効果が如何程かは不明であるが、ラベンダーの香りが味方して、水の錬金術師が見る幻影を共有した。
『月の光は俺が引き継ぐよ』
知子は優しくも悲しい月の輝きを浴び、上空の月に圭太の笑顔が映ってそう囁いたように見えた。
すると知子の想いは時を超え、高校生の圭太が自分に声をかけて恥ずかしそうに話すシーン、春希が圭太に頼まれてLINEで返信するシーンが、セピア色のアルバムとなって心のページに貼られていく。
『病気になって、去ったのですね?』
知子は圭太が病院のベッドに痩せ細って寝ているシーンを見て大粒の涙を頬に流した。
『違うよ。君と春希の方が似合ってると思っただけだ。幸せになれよ。知子』
山崎知子が悲しい別れの理由を知り、春希に代わって圭太が月の香りで優しく包んでくれていると知った。
テーブルの上のスマホは通話中で時間が止まり、洋介がそれを見て液晶画面を指で押して切ると、徐々に太陽の陽射しが花屋のテラス席を照らし始めた。
そして夢から覚めたように呆然としている山崎知子に、水の錬金術師が依頼の終了を告げた。
「三浦春希さんは友人との約束を守り、貴方に過去を語らなかった。その彼のプロポーズを受けるかは、貴方が決めなければいけません。僕はただ、花が見て感じた想いを貴方に伝えただけですからね」
「ありがとうございます。幻だったのでしょうか?香りに包まれて、時を駆け抜けた感じがしました」
山崎知子はそう言って頭を下げ、封筒に入れた料金を支払って席を立った。カフェで待つ三浦春希へ逢いに行き、返事を伝えるのだろうが、その答えを聞くつもりはない。
姉と一緒に玄関先まで見送った後、洋介は瞳を涙で潤ませている姉と残り香の漂うテラス席に戻って、富良野のチーズケーキを食べながら少し話した。
「悲しい恋物語を見せられた気分。洋介、腕を上げたんじゃないの?」
「いや僕ではなく、ラベンダーの香りと恋の霊力じゃないかな」
「きっと結婚するよね。でも恋の悲しみは消えず、幸せを願う気持ちも消えない」
「そうだね。月と太陽が入れ替わり、ハーブの女王を永遠に照らし続けるだろう。ある意味、二人ともずっと独身だったのが奇跡だったのかもしれない」
「バツイチじゃ、その奇跡っての起きないかね?」
姉がそう言って洋介が苦笑いし、白いテーブルで魔法を起こして空っぽになったラベンダーの香水の硝子瓶の蓋を閉じた。
洋介は目を開けると、依頼者にそう話した。山崎知子は水の錬金術師の答えが出たのかと思い、頷いてバッグからスマホを取り出して電話をした。
「春希さん。水の錬金術師さんに代わりますね」
「すいませんが、ひとつだけ教えてください」
洋介がスマホを受け取って、依頼者にも聞こえるようにスピーカーにして話す。
「この香水には月の想いが香っている。貴方がこのハーブの香りを選んでプレゼントしたのには、月の輝きを知って欲しかったからではないですか?」
「……………」
すぐに返事はなく、逆に知子が困惑して呟き、宝物の香水をバッグから取り出してテーブルの上に置いた。その横には食べかけのチーズケーキとティーカップが並んでいる。
「どういう意味?あの時、この香水を私に送ったのは貴方なのですか?」
その声に春希は答えるしかなく、沈黙を破って月の想いを伝えた。
「はい。圭太に頼まれて、僕がその香水を選んで貴方に贈りました。数十年後にもし貴方と再開してその香りがしたら、僕は知子さんにプロポーズしようと決めていた。そして大学の同窓会で会った時に、お付き合いを申し込んだのです」
その時、突然コップの水が泡立って溢れ出した。花びらが水に流されて香水の硝子瓶にたどり着き、キャップが回ってテーブルの上に転がると、月の香りが魔法の粉のようにキラキラと漂い、空が薄暗くなって花瓶のハーブの花が光り輝く。
観客になって洋介の後ろで紅茶を飲んでいた姉も驚き、口を半開きにしてティーカップを持ったまま薄暗い空間を照らす月の香りとハーブの花を眺めた。
知子は香水の光る粉が衣服からも滲み出し、頬と髪を撫でられ、その光る香りを両手で抱きしめると、ふわっとすり抜けて硝子瓶の香水と一緒に宙に舞い上がり、上空に輝く月へと還って行く。
それを見上げた知子は水の錬金術師が作り出した夢の世界が訪れたのかと感動した。
実は数秒前、洋介は依頼者が電話に気を取られている隙に、道具箱の六種類の粉を銀のスプーンで掬ってコップの中に素早く入れ、水を泡立てせて溢れさせた。
もちろんその効果が如何程かは不明であるが、ラベンダーの香りが味方して、水の錬金術師が見る幻影を共有した。
『月の光は俺が引き継ぐよ』
知子は優しくも悲しい月の輝きを浴び、上空の月に圭太の笑顔が映ってそう囁いたように見えた。
すると知子の想いは時を超え、高校生の圭太が自分に声をかけて恥ずかしそうに話すシーン、春希が圭太に頼まれてLINEで返信するシーンが、セピア色のアルバムとなって心のページに貼られていく。
『病気になって、去ったのですね?』
知子は圭太が病院のベッドに痩せ細って寝ているシーンを見て大粒の涙を頬に流した。
『違うよ。君と春希の方が似合ってると思っただけだ。幸せになれよ。知子』
山崎知子が悲しい別れの理由を知り、春希に代わって圭太が月の香りで優しく包んでくれていると知った。
テーブルの上のスマホは通話中で時間が止まり、洋介がそれを見て液晶画面を指で押して切ると、徐々に太陽の陽射しが花屋のテラス席を照らし始めた。
そして夢から覚めたように呆然としている山崎知子に、水の錬金術師が依頼の終了を告げた。
「三浦春希さんは友人との約束を守り、貴方に過去を語らなかった。その彼のプロポーズを受けるかは、貴方が決めなければいけません。僕はただ、花が見て感じた想いを貴方に伝えただけですからね」
「ありがとうございます。幻だったのでしょうか?香りに包まれて、時を駆け抜けた感じがしました」
山崎知子はそう言って頭を下げ、封筒に入れた料金を支払って席を立った。カフェで待つ三浦春希へ逢いに行き、返事を伝えるのだろうが、その答えを聞くつもりはない。
姉と一緒に玄関先まで見送った後、洋介は瞳を涙で潤ませている姉と残り香の漂うテラス席に戻って、富良野のチーズケーキを食べながら少し話した。
「悲しい恋物語を見せられた気分。洋介、腕を上げたんじゃないの?」
「いや僕ではなく、ラベンダーの香りと恋の霊力じゃないかな」
「きっと結婚するよね。でも恋の悲しみは消えず、幸せを願う気持ちも消えない」
「そうだね。月と太陽が入れ替わり、ハーブの女王を永遠に照らし続けるだろう。ある意味、二人ともずっと独身だったのが奇跡だったのかもしれない」
「バツイチじゃ、その奇跡っての起きないかね?」
姉がそう言って洋介が苦笑いし、白いテーブルで魔法を起こして空っぽになったラベンダーの香水の硝子瓶の蓋を閉じた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
夫は私を愛してくれない
はくまいキャベツ
恋愛
「今までお世話になりました」
「…ああ。ご苦労様」
彼はまるで長年勤めて退職する部下を労うかのように、妻である私にそう言った。いや、妻で“あった”私に。
二十数年間すれ違い続けた夫婦が別れを決めて、もう一度向き合う話。
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
(完結)元お義姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれど・・・・・・(5話完結)
青空一夏
恋愛
私(エメリーン・リトラー侯爵令嬢)は義理のお姉様、マルガレータ様が大好きだった。彼女は4歳年上でお兄様とは同じ歳。二人はとても仲のいい夫婦だった。
けれどお兄様が病気であっけなく他界し、結婚期間わずか半年で子供もいなかったマルガレータ様は、実家ノット公爵家に戻られる。
マルガレータ様は実家に帰られる際、
「エメリーン、あなたを本当の妹のように思っているわ。この思いはずっと変わらない。あなたの幸せをずっと願っていましょう」と、おっしゃった。
信頼していたし、とても可愛がってくれた。私はマルガレータが本当に大好きだったの!!
でも、それは見事に裏切られて・・・・・・
ヒロインは、マルガレータ。シリアス。ざまぁはないかも。バッドエンド。バッドエンドはもやっとくる結末です。異世界ヨーロッパ風。現代的表現。ゆるふわ設定ご都合主義。時代考証ほとんどありません。
エメリーンの回も書いてダブルヒロインのはずでしたが、別作品として書いていきます。申し訳ありません。
元お姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれどーエメリーン編に続きます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる