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第6話
しおりを挟む暫く静かだな、と思っていたらユアが護衛を連れて現れた。
「ごめんね、もう閉店なんだ。」
「閉店だから来たんですよ。
サノヤマさん、この国から出て行ってくれませんか?」
直球で何言ってんだ、このガキ。
「貴方がいるせいで、ジョージ様とクイン様が僕に冷たくするんです。」
「あのさ、救世主って色々大変そうだけど、あの二人が優しくするとなんか出来るようになるの?」
後ろに控えていた護衛が、腰に帯剣してある剣に手を掛けていた。
「僕はあの方々に娶られたいのです!
なのに、ジョージ様もクイン様も、まったく僕に無関心で、冷たくされるんです!
これでは救世主として魔力を供給する事も出来ません!
もし、この世界から魔力が枯渇して、皆の生活がうまく行かなくなったとしたら、貴方の所為ですからね!」
いや、お前の所為だろうよ。
大体、救世主と娶られたいって欲望は関係ないじゃないか。
「ユア君、供給しないのは君の意思であって、俺は関係ないよね?」
「関係ある!
アンタが二人を解放してくれないと、僕のモチベーションが上がらないんだよ!
僕は根っからのゲイで、ここでイケメンに抱かれて、ハーレムの生活がしたいんだから、アンタ邪魔なの!
二十五にもなって、何でそんな可愛いんだよ!
しかも綺麗系の可愛さって反則だろ!!
キャラ被ってんだし、アンタなんか救世主でも何でも無いんだから、この国じゃなくて良いだろうよ」
これ、救世主とかそんなの関係無い所で、この世界の人が困るのは本意じゃなかった。
せっかくカフェも軌道に乗って、知り合いも出来たからあの人達が困るのは嫌だった。
「ここから出て行ったら、ちゃんと供給してくれるんですよね?」
「約束するよ。
ちゃんと、出て行ってよね。」
そう言うと、護衛を連れてユアは出て行った。
出て行くときに、護衛の一人はその剣でカウンターを斬って行った。
これじゃぁ、明日から開店出来ないって事で今夜にでも出て行けって事か。
荷物をバッグに入れながら、シイラの事を考えた。
「シイラ、お願い来て」
水の精霊王の名前を呼んだ。
空気中の水が集まって、人の形を作ると精霊王シイラが現われた。
「ライカ、アレが救世主とはな。
私も驚いたぞ。」
「シイラも知ってたんだ」
苦笑した。
「救世主からの魔力供給が無くて、困る輩が沢山出ていてな。
他の精霊王達からも話しが出ていた。」
「それ、俺の所為なんだって。」
「そんな訳無いだろ、何言ってんだ。
ただ色に狂った救世主ってだけだろう?
でもなぁ、救世主があれだと多分供給するほどの魔力は無いと思うぞ。」
「でも、魔力が一番多い金色だったってどっかの貴族が言ってたよ?」
「金色でも、魅了の魔法を常に使い続けてんだから、無理だろ。
枯渇するのもすぐじゃないか?」
枯渇するものなんだ。
「魅了魔法?」
「そうだ、魅了魔法がなきゃ、ほれ、あの騎士隊長とか王太子があんなのを野放しにして、好き勝手させる訳無かろう?」
確かに、脳筋で正義が全てみたいな考え方の人が、理不尽な要求に騎士連れてきてまで、俺のところに来て拘束とかあり得ないよな。
「まぁ、その救世主様が俺にここを出ていけって言ってるんで、今夜にでも出て行こうと思ってるんだ。
シイラはどこにでも来れるなら良いなって思って呼んで、聞いてみたかったんだ。」
救世主のお尻事情なんてどうでも良いけど、絡まれるのは面倒だし、出て行けば魔力供給してくれるって言うんだし、新しい国に行くには冒険者登録で国外へ行けるし、行った先の国でまたカフェが開店できれば良いなとか思ってた。
「ライカの居る所なら、どこでも行けるぞ。
他の精霊王も同じだしな。」
「これから他の国へ行くので、シイラが遊びに来てくれるなら安心だ」
友達を失くさなくて良いと思うと、こんな夜の旅立ちでも寂しくなかった。
「おい、ライカ、夜中は危ないぞ?
それに門も閉まってんじゃないか?」
「でも救世主が早く出ていけって。
明日になったら、他の人たちも来て騒ぎになったら面倒だし…
シイラが遊びに来てくれるなら、どこでもいいんだし。」
こんな時シイラが精霊王だと安心してどこにでも行けるなって、ニコニコ笑っていたと思う。
「ライカ、その笑顔はちょっと。」
「あ、ごめん、気持ち悪かった?
昔から、笑うと気持ち悪いって言われてて」
「違うな、可愛すぎてそれを言えない馬鹿どもの言葉が気持ち悪いだったんだろう。
アホウどもが。」
シイラが眉間に少し皺を寄せて、不機嫌になった。
「シイラったら、あんまり面白い事言わないでよ。」
声を上げて笑ってしまった。
「ライカは自分を鏡で見ないのか?」
「ん?見るよ?
ちょっと目が悪いけど。
俺はちょっとだけ女顔なのかな?とは思うけど、そんなに良い顔もしてないよ。
イケメンって言われた事ないしね。」
「イケメンとはどんな物か分からないが、ライカは綺麗で可愛い。
これは誰が見てもそう思っている。
夜に旅立つなら、私が護衛をしてやろう。
行く先でトラブルに巻き込まれないようにな。」
「本当?
一緒に行ってくれるの?」
一人で行くと思って準備していた暗い心が、パァッと明るくなった。
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