9 / 45
9・想定以上にやばい
しおりを挟む
ヤバイやばい殺罵威ー!
お兄様がお姉様?! その衝撃もさることながら、後悔が一気にこみ上げてまいります。
カカオお兄様はお美しいですが仮にも男性なので、もしラメーン様に後ろを掘られてもうっかり妊娠する恐れはありませんでした。でも実際は女性だったのです。
どうしよう。
本気な既成事実を作ってしまいました!
驚いたのは私だけではありません。ココアはハッとした顔のまま硬直していますし、カプチーノは卒倒しそうになって目眩を起こす始末。私はそんなカプチーノを助けようと、彼女に肩を貸そうとしました。と、その時。
地面が急にくにゃりと柔らかくなり、私は足元を掬われてしまいます。同時に屋敷全体を揺るがすような地響きが。轟音と共に周囲の壁と天井が小刻みに揺れ動き、視界はあっという間に回転していきました。
嘘でしょ。私、このまま生き埋めになってしまうの?!
何のために庶民のような格好をして街へ繰り出し、汗臭いシャツを集めては誘拐までされて、挙句の果てに何となく苦手なオクラ王子とまで顔を合わすハメになったのか。これも全て、お兄様のため! お兄様が白豚マーガリンと結婚させられないようにするためです。このままでは、お兄様とラメーン様の密会をシーボウ家へ告発し、進み始めた婚約話を白紙に戻させるというミッションがオジャンになってしまいます。
そんなの駄目よ、ダメ! 私、ティラミスはこんなところでくたばる女がじゃないわ!
こういったことが走馬灯のように頭をよぎり、反射的に体内の魔力を放出いたしました。
「お姉様! もっと魔力を!」
「え?!」
「私が動揺したから、この場所が崩れそうになってるのっ!補強するの手伝ってぇ!」
「でも、どうしたら……」
「細かい制御は私がするっ! とにかくお主は儂に魔力をありったけ差し出すのじゃ!」
こんな非常事態にも関わらず、ふざけるココア。もしこれにカカオお兄様やラメーン様が巻き込まれたらどうするつもりなのでしょうか。しかし、心配は杞憂に終わりました。
「助太刀は必要かな?」
いつの間にか崩壊していた目の前の壁。その向こうには、震え上がって寝台の上で蹲るお兄様と、私達の前に堂々と立っているラメーン様。
ラメーン様は、彼の魔力をココアへ向かって注ぎ込みました。魔力には薄らと色がついているので、流れを見ることができるのです。
「えいっ!」
何かに耐えるかのように表情を歪めていたココアは、天井に向けて伸ばしていた両手をパチリと叩きます。すると、あら不思議。目の前の壁以外、物の見事に修復したではありませんか。
でもこれでは、目のやり場に困ります。何しろ、視界には先程まで睦みあっていた男女が一組。パプリカは以前からお兄様が女性であることを知っていたらしく、冷静に階下の部屋からローブを持ってきました。
ようやく全裸からローブ一枚になったお二人ですが、どちらにせよこの状況は気まずいことに変わりありません。
「えっと、その、あのですね。これには理由がありまして」
このカップルを成立させたことについては全く後悔がありません。さすがに、私がお兄様のお相手になるなんて世間が許さないことを存じておりますから。でも、ヤるところまで追い詰めてしまったのは一生の不覚。お兄様がお姉様だったならば、いずれは両親や王城から正式に認められた上で盛大な結婚式を挙げて、その後に初夜を迎えたいとお思いになっていたはず。
あーバカバカバカ!! 私のバカ!
男性二人だったからこそ物珍しさに覗いていたのに、まさかノーマルな男女の営みだったとは。愕然として項垂れる私の頭にラメーン様が優しく手を添えました。
「どう? 見ていたのは途中からだったけれど、勉強になったかな?」
ラメーン様は、私達が潜んでいたことに初めからお気づきだったご様子。そう言えば騎士様ですもの。人の気配には敏感なのでしょう。
「も、申し訳ござ……」
「いいんだよ。これが男だったら許していないだろうけどね」
ラメーン様の目つきは鋭く、私は蛇に睨まれたダンゴムシの如く小さくなりました。
「で、どうだった?」
「えっと、あの、良い社会勉強になりましたわ」
「それは良かった。でもこういうのは、実技を交えないと身につかないものだからね」
ラメーン様が一歩こちらへ踏み出します。私は少し怖くなって後ずさりしました。さらに、かろうじて握りしめていた蝋燭の燭台を取り落としてしまいます。パプリカの顔には「我存ぜぬ」と書いてありますし、カプチーノは先程倒れて気を失ってしまいました。ココアはマイペースにカカオお兄様へ何かを話しかけています。
え、この事態を収めるのは私? 無理無理むりっ。
次の瞬間、ラメーン様は私の冷えきった手を強く握りました。
「私は、こんな美しい女人が相手ならば、二人同時でも構わないよ?」
ヤバイ。孕ませ現場をプロデュースしてコーディネートしてしまったばかりか、身内のエッチを目撃したこと以上にヤバイ。
私、人選を間違えました。
お兄様。あなたのお相手はたぶん、遊び人です。
あぁ、このまま気絶して次に目を開けたら全てが夢オチでしたなんてことになれば、どんなに素晴らしいことか。私はそんなおまじないがなかったかしらと頭をフル回転させ始めましたが、そんな都合の良い代物などございません。
そんな現実逃避をはじめた私は、ふと背後から悪しき空気が漂ってきたのを肌で感じて正気に戻りました。この感じは知っております。次の瞬間、パプリカの澄ました声が部屋に響きました。
「お帰りなさいませ、ご当主様」
お兄様がお姉様?! その衝撃もさることながら、後悔が一気にこみ上げてまいります。
カカオお兄様はお美しいですが仮にも男性なので、もしラメーン様に後ろを掘られてもうっかり妊娠する恐れはありませんでした。でも実際は女性だったのです。
どうしよう。
本気な既成事実を作ってしまいました!
驚いたのは私だけではありません。ココアはハッとした顔のまま硬直していますし、カプチーノは卒倒しそうになって目眩を起こす始末。私はそんなカプチーノを助けようと、彼女に肩を貸そうとしました。と、その時。
地面が急にくにゃりと柔らかくなり、私は足元を掬われてしまいます。同時に屋敷全体を揺るがすような地響きが。轟音と共に周囲の壁と天井が小刻みに揺れ動き、視界はあっという間に回転していきました。
嘘でしょ。私、このまま生き埋めになってしまうの?!
何のために庶民のような格好をして街へ繰り出し、汗臭いシャツを集めては誘拐までされて、挙句の果てに何となく苦手なオクラ王子とまで顔を合わすハメになったのか。これも全て、お兄様のため! お兄様が白豚マーガリンと結婚させられないようにするためです。このままでは、お兄様とラメーン様の密会をシーボウ家へ告発し、進み始めた婚約話を白紙に戻させるというミッションがオジャンになってしまいます。
そんなの駄目よ、ダメ! 私、ティラミスはこんなところでくたばる女がじゃないわ!
こういったことが走馬灯のように頭をよぎり、反射的に体内の魔力を放出いたしました。
「お姉様! もっと魔力を!」
「え?!」
「私が動揺したから、この場所が崩れそうになってるのっ!補強するの手伝ってぇ!」
「でも、どうしたら……」
「細かい制御は私がするっ! とにかくお主は儂に魔力をありったけ差し出すのじゃ!」
こんな非常事態にも関わらず、ふざけるココア。もしこれにカカオお兄様やラメーン様が巻き込まれたらどうするつもりなのでしょうか。しかし、心配は杞憂に終わりました。
「助太刀は必要かな?」
いつの間にか崩壊していた目の前の壁。その向こうには、震え上がって寝台の上で蹲るお兄様と、私達の前に堂々と立っているラメーン様。
ラメーン様は、彼の魔力をココアへ向かって注ぎ込みました。魔力には薄らと色がついているので、流れを見ることができるのです。
「えいっ!」
何かに耐えるかのように表情を歪めていたココアは、天井に向けて伸ばしていた両手をパチリと叩きます。すると、あら不思議。目の前の壁以外、物の見事に修復したではありませんか。
でもこれでは、目のやり場に困ります。何しろ、視界には先程まで睦みあっていた男女が一組。パプリカは以前からお兄様が女性であることを知っていたらしく、冷静に階下の部屋からローブを持ってきました。
ようやく全裸からローブ一枚になったお二人ですが、どちらにせよこの状況は気まずいことに変わりありません。
「えっと、その、あのですね。これには理由がありまして」
このカップルを成立させたことについては全く後悔がありません。さすがに、私がお兄様のお相手になるなんて世間が許さないことを存じておりますから。でも、ヤるところまで追い詰めてしまったのは一生の不覚。お兄様がお姉様だったならば、いずれは両親や王城から正式に認められた上で盛大な結婚式を挙げて、その後に初夜を迎えたいとお思いになっていたはず。
あーバカバカバカ!! 私のバカ!
男性二人だったからこそ物珍しさに覗いていたのに、まさかノーマルな男女の営みだったとは。愕然として項垂れる私の頭にラメーン様が優しく手を添えました。
「どう? 見ていたのは途中からだったけれど、勉強になったかな?」
ラメーン様は、私達が潜んでいたことに初めからお気づきだったご様子。そう言えば騎士様ですもの。人の気配には敏感なのでしょう。
「も、申し訳ござ……」
「いいんだよ。これが男だったら許していないだろうけどね」
ラメーン様の目つきは鋭く、私は蛇に睨まれたダンゴムシの如く小さくなりました。
「で、どうだった?」
「えっと、あの、良い社会勉強になりましたわ」
「それは良かった。でもこういうのは、実技を交えないと身につかないものだからね」
ラメーン様が一歩こちらへ踏み出します。私は少し怖くなって後ずさりしました。さらに、かろうじて握りしめていた蝋燭の燭台を取り落としてしまいます。パプリカの顔には「我存ぜぬ」と書いてありますし、カプチーノは先程倒れて気を失ってしまいました。ココアはマイペースにカカオお兄様へ何かを話しかけています。
え、この事態を収めるのは私? 無理無理むりっ。
次の瞬間、ラメーン様は私の冷えきった手を強く握りました。
「私は、こんな美しい女人が相手ならば、二人同時でも構わないよ?」
ヤバイ。孕ませ現場をプロデュースしてコーディネートしてしまったばかりか、身内のエッチを目撃したこと以上にヤバイ。
私、人選を間違えました。
お兄様。あなたのお相手はたぶん、遊び人です。
あぁ、このまま気絶して次に目を開けたら全てが夢オチでしたなんてことになれば、どんなに素晴らしいことか。私はそんなおまじないがなかったかしらと頭をフル回転させ始めましたが、そんな都合の良い代物などございません。
そんな現実逃避をはじめた私は、ふと背後から悪しき空気が漂ってきたのを肌で感じて正気に戻りました。この感じは知っております。次の瞬間、パプリカの澄ました声が部屋に響きました。
「お帰りなさいませ、ご当主様」
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
俺と幼女とエクスカリバー
鏡紫郎
ファンタジー
憧れた世界で人をやめ、彼女と出会い、そして俺は初めてあたりまえの恋におちた。
見知らぬ少女を助け死んだ俺こと明石徹(アカシトオル)は、中二病をこじらせ意気揚々と異世界転生を果たしたものの、目覚めるとなんと一本の「剣」になっていた。
最初の持ち主に使いものにならないという理由であっさりと捨てられ、途方に暮れる俺の目の前に現れたのは……なんと幼女!?
しかもこの幼女俺を復讐のために使うとか言ってるし、でもでも意思疎通ができるのは彼女だけで……一体この先どうなっちゃうの!?
剣になった少年と無口な幼女の冒険譚、ここに開幕
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
果たされなかった約束
家紋武範
恋愛
子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。
しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。
このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。
怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。
※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる