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14・女子たるもの、年中無休で恋愛すべし!
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竹村係長、小百合、私の三人は朝からローテーブルを囲んで床に座り、テレビを見ながらおにぎりを食べた。ニュースキャスターが平日と違うあたり、今日が土曜日であることを実感させてくれる。ただし、隣にいる上司の存在を無視すればの話だけれど。
そんな朝ご飯を済ませた後、私は竹村係長を家から追い出して休日の日課をスタートする。まず、洗濯だ。竹村係長が寝た私のベッドは、ちょっと近づくだけで酒臭い。私は乱暴に布団のシーツを取り外して洗濯機へ放り込み、布団自体はベランダに干した。日頃の憂さ晴らしのごとく、布団たたきで叩きまくったのは言うまでもない。
その間、小百合は部屋に掃除機をかけていた。最近のお化けは近代化が進んでいるのか、単に小百合に柔軟性があるのかは分からないが、最新家電をすんなりと使いこなしているのはアッパレである。そして昼過ぎに買い物へ行った後は、ひたすら読書で現実逃避。
こうして、どこが狂い始めていた私の日常は、緩やかに元の調子を取り戻し始めたかに見えていた。
ところがだ。
「のりちゃん先輩、お話があります」
週明け月曜日、朝礼の後に早速彼女がやってきた。
「も……森さん、朝からどうしたの?」
何かを心に決めたかのように、小さな手をぎゅっと握りしめてこちらを見据えている。仕事の話ではないことは明らかだった。
朝は、できるだけ気配を殺して職場に滑り込んだ私。だけど、周囲からこちらに向かう視線はどれも生温い。土日を挟んだはずなのに、もう噂が広まってしまったのだろうか。こういう時、噂の当人は毅然とした態度をとるに限る。私は無実だ! だから皆忘れてくれ! そう思っていたのに、やはり試練は待っていたようだ。
私と森さんは給湯室に移動した。ここならば秘密の話をしても他の人に聞かれることは少ない。
「えっと、何かな?」
自分でもわざとらしい問いだと思うけれど、万が一私の予想と異なる用件だったら恥をかいてしまう。
「金曜日の夜のことです」
そりゃぁ、そうですよねー。
「竹村係長、朝帰りしたって本当ですか?」
え、なぜそれを知ってるの?!
慌てふためいた私はもはや表情を隠せない。ただ淡々と否定すればよかったのに、私はまたしても過ちを犯してしまったのだった。
「やっぱりそうなんですね」
私は一言も発していないけれど、反応から真実を見抜かれてしまったようだ。でも、ここで少し冷静になってみよう。例え本当に私が何らかの下心をもって竹村係長を家に誘っていたとしてもだ。私の家に行くと決めたのは竹村係長で、拉致同然の勢いでタクシーに連れ込んだのも彼。ついでに言えば、何のためらいもなく私の家にあがりこんだ挙句、勝手に人のベッドを使って朝まで熟睡したのもアイツ。私、本当に全然悪くない!
……けれど、この事実を真摯に伝えたところで、目の前にいる可愛らしい女の子が泣き止むことはないだろう。だから、私の気持ちだけは、はっきりさせておく。
「あのね、私は竹村係長と普通の上司と部下の関係でしかないの。森さんが心配しているようなことは何もなかった。それにね、ここだけの話、私はあんなオジサンはタイプじゃない」
森さんは静かに私の話を最後まで聞いてくれたが、案の定涙を流したまま。
「……いいんです。もう、いいんです」
「そんな卑屈にならないで? 私は竹村係長のこと、どちらかと言えば嫌いだけれど、仕事はできるし、たぶん根は悪い人じゃないのよ。真面目だしね。だから、森さんさえよければ……」
「違います!! 私、もうこの土日2日間かけて吹っ切ったんです。私、小学生の頃から竹村係長のことが好きでした。彼を追いかけてこの会社にも就職しました。この部署に異動できるって決まった日なんて、一生分の幸運を使い切ったんじゃないかって不安になるぐらい舞い上がりました。でも、すぐに気づいたんです」
「何に?」
やはり、年齢差だろうか。
「竹村係長は……のりちゃん先輩が大好きんです! 私のことなんて、全く目に入ってない」
「それはないよ。これだけ仕事ばっかりさせて、納期も品質もすぐにダメ出しされるし、嫌われていることはあっても好かれているわけがない」
森さんは、スカートのポケットから取り出したタオルハンカチで目元を押さえた。
「そんなことないです。竹村係長は、忘年会の時もずっとのりちゃん先輩の話でした。『紀川は自己評価が低いけれど、努力家だし成果もちゃんと出しているすごい奴だ。雪乃ちゃんもしっかりと見習って、早く新しい部署に慣れなさい』って」
竹村係長が、私を褒めた……?! 仕事に関しては本当に厳しい人。常に向上心を持ち、日々前進していって当たり前だと考えている人物で、自分の考え方を人にも押し付けてくるウザイ奴。そんな人が、私の知らぬところでこんな話をしていたなんて。絶句。
「それと……『紀川は可愛いからな』って言ってました」
たぶんそれは、『イジメがいがある』ということを言いたかったのではなかろうか。
「だから、私はもう諦めます。でも、好きな人の恋愛は応援したいんです。のりちゃん先輩、がんばりましょうね!!」
さっきまでの涙はどこへやら。私の両手を取るとしっかり握りしめ、握手するようにブンブンと上下に振りまくる森さん。
え、ちょっと待って? がんばるって、何を?
「あの、だから私は嫌い……」
「のりちゃん先輩、駄目です! 女子たるもの、年中無休で恋愛すべしです! 今日今この瞬間から、猪の如く突き進んでください!」
ヤバイ。気圧されそうだ。早くこの流れを阻止せねば。
「森さん、もうこんな無駄話はおしまい! さ、職場に戻りましょう? 年末年始広告の納期まで後少ししかないんだから、しっかり手伝ってくださいね!」
「のりちゃん先輩怖いですー。ねぇねぇ、それより! 竹村係長ってやっぱり上手でしたか? 私、年上の人とシたことないから……」
「森さん?」
眼力で牽制すると、森さんはクスクス笑いながら先に給湯室を出ていった。彼女の笑顔が戻ったのは良しとしよう。さて、未だ処女の私は、またしても後輩につけられてしまった傷を温かいほうじ茶で癒してから席に戻るといたしましょう。ふぅ。最近の若い子って、皆おませさんなのね。
そんな朝ご飯を済ませた後、私は竹村係長を家から追い出して休日の日課をスタートする。まず、洗濯だ。竹村係長が寝た私のベッドは、ちょっと近づくだけで酒臭い。私は乱暴に布団のシーツを取り外して洗濯機へ放り込み、布団自体はベランダに干した。日頃の憂さ晴らしのごとく、布団たたきで叩きまくったのは言うまでもない。
その間、小百合は部屋に掃除機をかけていた。最近のお化けは近代化が進んでいるのか、単に小百合に柔軟性があるのかは分からないが、最新家電をすんなりと使いこなしているのはアッパレである。そして昼過ぎに買い物へ行った後は、ひたすら読書で現実逃避。
こうして、どこが狂い始めていた私の日常は、緩やかに元の調子を取り戻し始めたかに見えていた。
ところがだ。
「のりちゃん先輩、お話があります」
週明け月曜日、朝礼の後に早速彼女がやってきた。
「も……森さん、朝からどうしたの?」
何かを心に決めたかのように、小さな手をぎゅっと握りしめてこちらを見据えている。仕事の話ではないことは明らかだった。
朝は、できるだけ気配を殺して職場に滑り込んだ私。だけど、周囲からこちらに向かう視線はどれも生温い。土日を挟んだはずなのに、もう噂が広まってしまったのだろうか。こういう時、噂の当人は毅然とした態度をとるに限る。私は無実だ! だから皆忘れてくれ! そう思っていたのに、やはり試練は待っていたようだ。
私と森さんは給湯室に移動した。ここならば秘密の話をしても他の人に聞かれることは少ない。
「えっと、何かな?」
自分でもわざとらしい問いだと思うけれど、万が一私の予想と異なる用件だったら恥をかいてしまう。
「金曜日の夜のことです」
そりゃぁ、そうですよねー。
「竹村係長、朝帰りしたって本当ですか?」
え、なぜそれを知ってるの?!
慌てふためいた私はもはや表情を隠せない。ただ淡々と否定すればよかったのに、私はまたしても過ちを犯してしまったのだった。
「やっぱりそうなんですね」
私は一言も発していないけれど、反応から真実を見抜かれてしまったようだ。でも、ここで少し冷静になってみよう。例え本当に私が何らかの下心をもって竹村係長を家に誘っていたとしてもだ。私の家に行くと決めたのは竹村係長で、拉致同然の勢いでタクシーに連れ込んだのも彼。ついでに言えば、何のためらいもなく私の家にあがりこんだ挙句、勝手に人のベッドを使って朝まで熟睡したのもアイツ。私、本当に全然悪くない!
……けれど、この事実を真摯に伝えたところで、目の前にいる可愛らしい女の子が泣き止むことはないだろう。だから、私の気持ちだけは、はっきりさせておく。
「あのね、私は竹村係長と普通の上司と部下の関係でしかないの。森さんが心配しているようなことは何もなかった。それにね、ここだけの話、私はあんなオジサンはタイプじゃない」
森さんは静かに私の話を最後まで聞いてくれたが、案の定涙を流したまま。
「……いいんです。もう、いいんです」
「そんな卑屈にならないで? 私は竹村係長のこと、どちらかと言えば嫌いだけれど、仕事はできるし、たぶん根は悪い人じゃないのよ。真面目だしね。だから、森さんさえよければ……」
「違います!! 私、もうこの土日2日間かけて吹っ切ったんです。私、小学生の頃から竹村係長のことが好きでした。彼を追いかけてこの会社にも就職しました。この部署に異動できるって決まった日なんて、一生分の幸運を使い切ったんじゃないかって不安になるぐらい舞い上がりました。でも、すぐに気づいたんです」
「何に?」
やはり、年齢差だろうか。
「竹村係長は……のりちゃん先輩が大好きんです! 私のことなんて、全く目に入ってない」
「それはないよ。これだけ仕事ばっかりさせて、納期も品質もすぐにダメ出しされるし、嫌われていることはあっても好かれているわけがない」
森さんは、スカートのポケットから取り出したタオルハンカチで目元を押さえた。
「そんなことないです。竹村係長は、忘年会の時もずっとのりちゃん先輩の話でした。『紀川は自己評価が低いけれど、努力家だし成果もちゃんと出しているすごい奴だ。雪乃ちゃんもしっかりと見習って、早く新しい部署に慣れなさい』って」
竹村係長が、私を褒めた……?! 仕事に関しては本当に厳しい人。常に向上心を持ち、日々前進していって当たり前だと考えている人物で、自分の考え方を人にも押し付けてくるウザイ奴。そんな人が、私の知らぬところでこんな話をしていたなんて。絶句。
「それと……『紀川は可愛いからな』って言ってました」
たぶんそれは、『イジメがいがある』ということを言いたかったのではなかろうか。
「だから、私はもう諦めます。でも、好きな人の恋愛は応援したいんです。のりちゃん先輩、がんばりましょうね!!」
さっきまでの涙はどこへやら。私の両手を取るとしっかり握りしめ、握手するようにブンブンと上下に振りまくる森さん。
え、ちょっと待って? がんばるって、何を?
「あの、だから私は嫌い……」
「のりちゃん先輩、駄目です! 女子たるもの、年中無休で恋愛すべしです! 今日今この瞬間から、猪の如く突き進んでください!」
ヤバイ。気圧されそうだ。早くこの流れを阻止せねば。
「森さん、もうこんな無駄話はおしまい! さ、職場に戻りましょう? 年末年始広告の納期まで後少ししかないんだから、しっかり手伝ってくださいね!」
「のりちゃん先輩怖いですー。ねぇねぇ、それより! 竹村係長ってやっぱり上手でしたか? 私、年上の人とシたことないから……」
「森さん?」
眼力で牽制すると、森さんはクスクス笑いながら先に給湯室を出ていった。彼女の笑顔が戻ったのは良しとしよう。さて、未だ処女の私は、またしても後輩につけられてしまった傷を温かいほうじ茶で癒してから席に戻るといたしましょう。ふぅ。最近の若い子って、皆おませさんなのね。
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