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3章

他の護衛と追加事項

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朝から昇華はベッドでみのむしになっている。だいぶ日も登り、光が二人分の朝食を作り終わっても出てこなかった。昨日とは全く逆の状況だ。
いつもの女子寮なら隣人たちの生活音が聞こえてくる時間だが、光の部屋は静かなままだ。

「おーい、昇華?何してんだ、朝飯冷めちまうぞ?」
光の近くで良い香りのするテーブルの上には、出汁のきいた卵焼き、カニさんウィンナーに軽くちぎられたレタスとミニトマト、ほうれん草とふの味噌汁、炊き立ての白いご飯、昆布とゴマの和え物に煮物とどこかの旅館のような朝食は湯気をたてて昇華を待っていた。
モゾっと昇華は顔を出して、不機嫌そうな顔で光を見つめる。

「あんた、昨日の深夜のことほんっとうに覚えてないの?」
寝起きでガラガラの低い声は、唸るように音を絞り出す。

「昨日?状況説明中に何か気づいたことがあるのか?」
きょとりとした顔には、寝静まった後のことは覚えがないようだ。
「違う、寝た後の話よ…いや、もういいわ…」
この反応はシロだと、昇華は諦めた。
「…昨日、何か気になることがあったのか?」
光は速足に昇華の引きこもるベッドに近づいてくる。
「うるさい、あんたが話してくれたこととは関係ないわよ…」
また布団の中にこもる。
(深呼吸して、落ち着いたらおきよう…)
彼女からしてみれば、2回もドキドキさせられたのに相手は全く覚えていない。何か納得いかないもわざとでないなら怒れない。いや、昨夜は腕から脱出すべく既に色々とやってはいるのだが…。
ふーっと息を吐いて、布団から出ようと顔を上げた昇華の視界にぬっと光の腕が現れた。
「うぎゃあ、でる、もうでるわよ!!」
腕は布団の中を探るように動く。中々に際どい胸元をかすめられ、昇華は悲鳴を上げようとした。
「闇の魔力の気配がする…」
「え…?」
慌てて起き上がり、ベッドから転げるように離れた。光はそのまま布団の中を探り、ベッドにあがる。

そしてー

「なにやってんの?」
布団の中に完全に潜り込んで、寝息を立てだした。
「…ハッ、懐かしい気配に安心してしまった…!」
慌てて、光が這い出てくるも昇華の視線はつめたい。
さっきまで自分が寝ていた場所でくつろがれるのはちょっと、いや、かなりいやだ。
「あんたねぇ…」
わなわなと怒りをこらえる彼女の掌に光はじっと視線を向けた。
「ちょっと、掌を見せてくれ」
返事を待たずに右手をからめとられる。
「何すんのよ」
怒気を声にこめる彼女の手中には何もない、何もないのだがー
「ちょ、ちょお、ちょっちょ」
ぺろりと光は彼女の掌をなめた。彼は何かを確かめるようにペロペロと舐める。
「ル…、昇華の魔力がこぼれている?いやこれは、どちらかというと―」
バチンッと左手がいい音を立ててフルスイングされた。


「悪かったわよ…」
むすっと昇華はそっぽを向いたまま誤った。光の顔に紅葉がついていた。
「せめて一言声をかけてくれ…」
傷む場所をさすりながら、光は前を向いて進む。
「だって、あんな、その…ごめん」
あの後、昇華の周りから魔力の気配がしていたこと、今のところ影響はないが気をつけるべきだという話を聞き、彼女は反省していた。
(少し手が早かったかもしれない、いやでも魔力の確認の為とはいえ舐められるのはちょっと…)
光から魔力を食べていただけで、わざとではないと説明を受けて、怒り狂う彼女は落ち着いた。もちろん、右手は丁寧に洗った。
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