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1章

和解せよ3

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「く、来るな!」
車の下に逃げ込んだ猫さながらに、光は再びベッドの下に隠れこんだ。金緑の目が薄暗がりの中で輝く。救急セットを持ち出した時の反応がこれで、昇華はため息をつく。人差し指で来い来いと手招きしながら、自分もベッドの下に潜り込む。それに合わせて光もじりじりと後ろに下がった。
「大丈夫、大丈夫。酷い事しないから出てこようねぇ。」
何で不法侵入しやがった変態にこんなことをしなければいけないのかと、内心ため息をつきながら、光に手を伸ばす。
「嘘をつくな!嘘を!その腹の下に潜り込ませた棒は何だ!?」
俺をどうするつもりなんだっと、睨みつけられた。顎の下に拳を挟み、下がれなくなったら四肢をたたみこんで丸くなって警戒態勢。もはや猫化一直線の体制だ。
腹の下の棒とは、さっき放り投げた際ベッド付近に落ち、昇華が入る際にひずってしまった物干しざおのことだろう。
「これはもう、役目を終えているわ、安心なさい。…うわぁ、これが小さい子がやってたら猫(マオ)ちゃんとかあだ名を付けてやりたいくらいね…。」
「あんたはいい年こいた変態だから付けないけど…。」そんなことを呟きながら、無理やり顔面を鷲掴みにして、引っ張り出そうとしたら悲鳴を小声で出した。
「痛い痛い痛い。」
「傷を見せなさい。応急処置位なら出来るから!」
「嫌だ!あ、いて。」
ずるりっと、袖が伸びて擦れた痛みに耐えきれず、黒い変態は出て来る。
「なんで、そこまで治療にこだわるんだ!?」
「なんで、嫌がるのよ?その傷、昨日ニ階から落ちた時かもしれないでしょ!?私のせいかもしれないのに、何もしないなんて嫌!」
「治療だとしても人に何かされるのって嫌!」
口調を真似た反論にイラッと来る。
「脱ぎなさい。背中に超強力消毒剤(オキシドール)をかけてあげる!」
冷やかな声で、宣告する。
「エッチ!変態!俺の体に触らないで!」
ニヤニヤしながら、嫌がる光。どう考えても、向こうが変態だ。
「変態結構よ!もっと痛い目に合いたくなかったら、大人しく脱ぎなさい!それとも脱がされたいわけ?」
これでは、本当に変態のような発言だ…。昇華がそう思ったら案の定
「い、いやぁ。触らないでよ!あんたなんかに気安く触らせてあげるほど、私は安くなんか無いんだから!!」
待ってましたとばかりに、変態は「何処のお嬢様だよ」と、聞きたくなるような発言をする。
「…出来れば、呼吸しないでくれる?同じ空気を吸って会話したくないわ。」
イライラは、既にピークだ。抵抗する光の服を床に押さえつけて剥ぎ取った。
「…あれ?何これ?」
見覚えのある模様が何故か、光の背中で踊っている。いくつもある生傷で、部分的にぼやけているがこれは…。
「どうして…見覚えがある…?」
太陽のイメージで丸、その中で雲と雷が描かれた、天空の模様。
見覚えはない…はずだ。ないはずなのに、昇華はその模様を知っている。
「な、何で?」
「あー…。見られた。」
ため息をつく光の顔と背中を見比べる。
何が何だかわからない。解らないが、なんとなくそっと背中に触れば、模様がうっすらと赤い光を帯びた。
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