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春告鳥①

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 開けて、皇紀2583年大正12年(西暦1923年)正月。
 我が家も春を迎えた。

 床の間に飾った三宝には鏡餅が載せられ、紅白の四方紅しほうべに紙垂しでが清らかに彩る。

 父がいた頃は、神棚を綺麗にして用意していた新年の供物を飾るのは、毎年父の役目だった。今は、それら全て母が担い、心を込めてお祀りする。

「あけましておめでとうございます」
「おめでとう。今年もみんな仲良く、元気に過ごしましょうね」
 家族で口々に言い合い、新年の抱負を述べていく。

「私は特にないわ」
 律子が言うと、母がすかさず言った。
「なんでもいいから、目標を立てるのは大事なことよ。でないと、のんべんだらりと毎日を過ごしちゃうわ」

「うーん」
 わざとらしく腕組みをする律子に、
「律子様は、目標なんぞ立てなくていいくらいに満たされておいでなんですよ」
 婆やが、にこにこと言う。

「そうでもないわ。女学校でも、まだ一番の成績を取れたことはないし。将来の夢も定まっていないし」
「でも、りっちゃんは、それで困っているわけでもないでしょう?」

 お正月用の振袖を着た律子は、目を閉じて考えるふりをする。
「そうなの。……そうだ! それよ。今年の目標は、何か目標を見つける、ってことにするわ」

「呆れた。まるで蒟蒻問答こんにゃくもんどうね。千代は?」
 母は苦笑して、千代のほうに顔を向けた。

「私は、何でも出来る事務員になりたいです」

「そういえば、丸の内だけじゃなく、麹町区役所でも女性事務員が活躍してるんですものね」

「近々完成する丸の内ビルヂングに移りたいんです。新しい綺麗な事務所で働きたくて。その為には、タイピストとしての技量を上げなくては」
 輝くような笑顔を浮かべて、千代は言った。

「さて。じゃあ、文子さん。あなたの目標を教えて頂戴」
「待ってました、真打しんうち登場!」
 母の改まったような口調に、律子が戯けておどけて言った。

「りっちゃんたら。 ……私は、そうね。実はずっと考えていたことだけど、学校に通いたいと思ってるんです」
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