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冬のお別れ③

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 帰るなり、玄関に男物の靴が揃えられているのを見つけた。
「もしや」と思っていると、婆やが奥から走って出迎えてくれた。その姿はおろおろしているように見える。

「お、お帰りなさいませ! お嬢様、合原様が、合原公威様がお待ちでいらっしゃいます」
「公威様が?」
「おひとりで?」
「長いこと、お待ちでいらっしゃるの?」

 口々に尋ねる私たちに、婆やが八の字眉で答える。
「いえ、まだそんなに長いことはお待ちになっていられませんが。私は気づまりでしたから、客間のほうで、おひとりで待っていただいています」

 母が「そう」と頷いて、私を見て言った。
「文子さん、私もご一緒したほうがいいわよね?」
 一瞬、私は迷った。

 結婚を前提に、と交際を申し込まれ、律子や今西さんも一緒に遊びに行ったり、撮影所にもついてきていただいたり……。
 私たち家族は、すっかりお世話になっていたのだから、ここは母や律子にも同席してほしい、と思った。

『結婚は白紙に』という話をひとりで聞くのはつらい、という気持ちもあった。
「お姉様、私もいいかしら? 込み入った話をおふたりきりでなさりたいなら、すぐに出て行きますから」
 律子が横から心配そうに言ってくれるので、結局、母と律子と三人で客間に行った。

「やあ、こんにちは」
 明るく言って、畳からすっくと立ち上がった公威さんは、半年前と全然変わらないように見える。背広姿の彼は、つい先ごろまで戦地にいた軍人には見えない。

「公威様、ご無事で。お元気そうで良うございました」
 母が嬉しそうに言うと、公威さんも微笑んでお辞儀してくれた。
「皆さんも、お元気そうでなにより。ご心配をおかけしましたが、無事帰って来れました」

 万感ばんかん胸に迫る、とでもいうのだろうか。私は何も言えず、じっと彼の全身を上から下まで眺める。
 少しお痩せになったような。
 目が合うと、以前と変わらぬ優しい目をして微笑んでくれた。

「公威様、お帰りなさいませ。どこもお怪我やご病気なぞ、なさってませんよね?」
 黙っている私に代わって、律子が尋ねる。
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