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いずれ春永に⑤

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 今西さんの突然の提案に、千代だけでなく、その場にいた私たち全員が驚いた。しかし、彼によると、丸の内にある会社はどこも、働く女性の増加が著しいという。
 少し前は陸軍省の土地であり、今は三菱村と呼ばれている丸の内は、帝都商工会の象徴シンボルとなっていた。

「御一新からこっち、移り変わりの激しい町でございますねえ」
「かつては大名屋敷が並ぶお侍の街で、明治の御代には荒みきって、夜盗や追剝おいはぎが出没する始末。でも今は、目も眩むような垢抜けた職業婦人オフィスガールが闊歩する町ですよ」

 しみじみと言う婆やに対して、今西さんが熱っぽく語るので、律子が少しむっとしたように言った。
「さぞかし綺麗な人ばかり働いていらっしゃるんでしょうね。で、今西さんは、その方たちを眺めるために丸の内に日参していると」

「ち、違います、誤解です。ほら、街歩きですよ。せっかく花の都東京で勉強しているのだから、いろんなところを見たいですし」
「どうだか」
 律子に軽くあしらわれ、今西さんは苦笑する。

「民間の会社でタイピストや電話交換手をしている人は、年々増えているそうです。今なら、特別に技能がなくても雇ってくれるらしく、技術を学びながら働けるとか。しかも、お給金が高い。学校の教授陣が言うてたから、間違いないです」

「学びながら働ける、お給金も高い?」
 千代の目が輝いた。
 なんていいお話かしら。私までわくわくしてきた。
「千代、いいことを思いついたわ! 藤崎先生にご相談しましょう。早速、連絡してみます」

 私は、劇場の仕事を教えてくれた藤崎先生に相談するのがいいと思った。きっと先生なら、その方面もお詳しそうである。
 そして、やはりというべきか、藤崎先生から探してくださる、とのお返事をいただけた。

「千代、よかったわね」
「千代が頑張っている手前、何も言えなかったのだけど、やはり浅草の歓楽街にある劇場ですからねえ。心配はしていたんですよ」
 母と婆やが大喜びしているそばで、私は少し複雑な気分だった。
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