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いずれ春永に③

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「りっちゃん、お帰りなさい。今西さん、こんにちは」
 律子の後ろには、今西さんがにこにこと立っている。

「おや、今日もお揃いで」
 公威さんが揶揄うように言うと、
「その言葉、そのままお返しします。私たちは、そこで偶然お会いしただけですもの!」
 律子に言い返され、笑い声と共に、公威さんの目尻は皺でいっぱいになった。

「今日の僕はお使いです」
 今西さんが、持っていた風呂敷包みを掲げて言う。
 本家のおば様から、お中元というのではないが、走りの桃が手に入ったので、ということであった。

「桃! 少し早いですね」
「僕もびっくりしました。昨日食べさせていただきましたが、やはり旬のものと違って、正直あまり……」
 今西さんは苦笑いしているが、本家の皆さんのお心遣いは嬉しい。

「珍しいし、初物って言うのかしら? ねえ公威様、もう一度うちに戻っていただいて、一緒に食べましょうよ」
 律子がはしゃいだように言うと、公威さんは申し訳なさそうに答えた。
「ありがとう。申し訳ないが、いろいろ準備もあるので、今日はこのまま帰るとします」

「そうですね。お忙しいのに、今日はありがとうございました」
 名残惜しいけれど、『すぐに帰ってきます』と仰った言葉を信じて、今日はお引き止めはしないでおこう。

「今西さん、私の留守の間、文子さんたちのことをお願いします」
「留守?」
「しばらく外地で勤務することになりました。なぁに、すぐ帰って来れるはずですが、文子さんや律子さんのこと、くれぐれも頼みますよ」

「はあ……」
 もじもじしている今西さんに微笑みかけ、
「ではまた。文子さん、あちらから手紙を書きます。あなたもお返事を下さい。いずれ春永にはるながに
 手を振って、早足で公威さんは歩いて行った。

「え?」
 今西さんが、あとを追いかけようとして、何か考える仕草で立ち止まる。
「どういう意味だろう。はて?」

「今西さん? どうかした?」
「いや、“いずれ春永に” って妙な言い方をされたんで」

 私は、少し離れた公威さんの背中を見る。
 ぴんと伸びた背中は、変わらず安心感を与えてくれるようだった。
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