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キネマ会社⑤

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「おや? 姐さん。今日はどうしてここに?」
「それはあたしの台詞でしょうに」

 そう言いながら、ずかずかと所長室に入って来たのは、日本髪を綺麗に結い上げた人だった。 

「公威様、お知り合いですか?」
 母は、詰るなじるような物言いをする。

「お知り合いも何も。花街で合原大尉を存じ上げない芸者はもぐり素人でございますよ」
「まあ!」
 喜代栄さんと呼ばれた芸者さんの返事に、母は眉をひそめた。

 母の声に反応して、喜代栄さんは私の顔をまじまじと見てきた。
「もしや、このお嬢様は、あの時の?」

「そう。湯島で」
「そうでございますよね。えっ! まさか、お嬢様も女優志望なんですの?」
 喜代栄さんが素っ頓狂な声を上げると、即座に公威さんは否定した。

「お嬢様も? ってことは、姐さんは女優志望なのかい?」
「さあ、どうでしょう」
 にやりと笑う彼女に、所長が慌てたように言う。
「喜代栄さん、困るよ。こちらはもう、そのつもりで色々準備してるんだからね」

 彼女も交えて、撮影所のお二人や公威さんは、和やかに話を始めた。
 私と千代は圧倒されて、黙って大人たちの会話を聞いていた。

「お嬢様、あたしは大尉のお兄様からもご贔屓にしていただいておりますので、お噂は伺っております。いえ、お気になさるようなことじゃありませんよ。ご兄弟揃って花街の人気者でいらっしゃるけれど、あたしは大尉の後援者ですから」

「おいおい、後援者って」
 公威さんが苦笑いする横で、私に笑いかける喜代栄さんは、とても優しく美しかった。

 帰りは、撮影所のほうでハイヤーを用意してくれた。母は気負い込んで撮影所に乗り込んだわけだが、帰りの車中ではずっと静かである。

「お母様、どうかした? お話し合いは首尾よく終わってよかったじゃありませんか」
「そう? 何かすっきりしないわ。それに、公威さんも遊び慣れてる方なのかって思うと不安ですよ……」
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