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花に嵐②
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「お帰りなさいませ」
家に帰り着いた時、婆やが満面の笑みを浮かべて私たちを出迎えてくれた。
婆やに挨拶してから帰ろうとする公威さんを、婆やは目を細めて惚れ惚れと見ている。
「今日は、ありがとうございました」
私は、なんとか彼にお礼を言えたけれど、気持ちは沈んでいた。公威さんが外地に行ってしまうかもしれないということが、胸につかえている。
「文子さん、そんな顔をしないで下さい。まだ決まったわけではありません。私以外にも、候補者はわんさと居ますし。それに、行くとなっても短期間だと思います」
婆やが物問いたげな顔をしているが、公威さんは、「では、私はこれで」と言って颯爽と帰って行かれた。
彼を見送る私は、不安な気持ちでいっぱいだった。
そのあと晩御飯の支度を手伝いながら、私は公威さんに言われたことを婆やに説明したところ、婆やはあっさりしたものだった。
「軍人さんですからね。行けと言われれば、何処へでも行かなくてはならないでしょうね」
「考えたこともなかったわ」
「公威様はまだお若くていらっしゃるから、今まで戦地に行かなくて済んでいた、と思えばようございますよ」
欧州の戦争は、私たちにはあまり関係ないことと思っていたけれど、そうではなかったのだ。
帰宅した律子も、私たちを手伝いながら教えてくれた。
「それはそうよね。大戦景気といって、日本は今ものすごくお金持ちの国なんですって。戦争の影響を受けてない国はどこもないのよ」
「りっちゃんは、今日は何処へ行ってたの?」
「お友だちと待ち合わせして、千代が働いている劇場で活動寫眞を観てきたの」
「そうだったの」
「そろそろ、千代も帰ってくる頃よね」
ちょうど玄関から、「ただいま戻りました」と、千代の声がする。
家に帰り着いた時、婆やが満面の笑みを浮かべて私たちを出迎えてくれた。
婆やに挨拶してから帰ろうとする公威さんを、婆やは目を細めて惚れ惚れと見ている。
「今日は、ありがとうございました」
私は、なんとか彼にお礼を言えたけれど、気持ちは沈んでいた。公威さんが外地に行ってしまうかもしれないということが、胸につかえている。
「文子さん、そんな顔をしないで下さい。まだ決まったわけではありません。私以外にも、候補者はわんさと居ますし。それに、行くとなっても短期間だと思います」
婆やが物問いたげな顔をしているが、公威さんは、「では、私はこれで」と言って颯爽と帰って行かれた。
彼を見送る私は、不安な気持ちでいっぱいだった。
そのあと晩御飯の支度を手伝いながら、私は公威さんに言われたことを婆やに説明したところ、婆やはあっさりしたものだった。
「軍人さんですからね。行けと言われれば、何処へでも行かなくてはならないでしょうね」
「考えたこともなかったわ」
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欧州の戦争は、私たちにはあまり関係ないことと思っていたけれど、そうではなかったのだ。
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「それはそうよね。大戦景気といって、日本は今ものすごくお金持ちの国なんですって。戦争の影響を受けてない国はどこもないのよ」
「りっちゃんは、今日は何処へ行ってたの?」
「お友だちと待ち合わせして、千代が働いている劇場で活動寫眞を観てきたの」
「そうだったの」
「そろそろ、千代も帰ってくる頃よね」
ちょうど玄関から、「ただいま戻りました」と、千代の声がする。
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