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心の慰め

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「文子さん。妹さんも、お二人ともお元気そうでなによりだ。……こちらは?」

 軍人さんを前にして、尚且つなおかつくだけた物言いをされることに今西さんは緊張したのか、固い調子で公威さんに挨拶する。
「本郷で勉強中の学生です、今西と申します。縁あって今日は、お嬢様方と梅を観に参りました」

「そうでしたか。本郷、ということは帝大ですか? 少し上方訛りがあるようですが?」
「はっ、はい。出身は京都の南のほうで、三高で勉強しておりました」

 公威さんは優しい眼差しで頷いた。
「それはそれは。将来有望な方ですね。頑張って勉強して下さい」
 公威さんの大人な対応に、私は胸がどきどきした。

 あの日から私は、彼の素敵なお振舞いを時折思い出したりしている。でも、それは、利晴様の “裏切り” にも似た行為や、それに続く嫌な出来事を忘れさせるために思い出しているのだ、そう考えていた。

 今、目の前で佇んでいる素敵な男性。
 公威さんに対する思いは、“好き” というのではなく、“慰め” なのだ。私の、ともすれば荒みそうになる心を慰めてくれる方……。

「文子さん、文子さん」
「あっ、はい」
「どうしました? ぼんやりして」
「あ、すみません」

 公威さんのお顔を、考え事をしながら見ていたせいで、話しかけられているのに気づかなかった。恥ずかしい!

「公威様、許してあげて下さい。お姉様は疲れているんです、働き始めたので。ね? お姉様」
 律子が助け船を出してくれた。

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